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福田幸二氏(日立京大ラボ主任研究員)をお招きして、合同リサーチ・プロジェクトを開催しました


2018年7月18日(水)、朱雀キャンパス307教室に、日立京大ラボ主任研究員の福田幸二氏をゲスト講師としてお迎えし、合同リサーチ・プロジェクトを開催しました。

公務研究科のリサーチ・プロジェクトは、通常、個人研究報告や輪読を中心とする、ゼミナール形式で運営しています。今回のように、ゲストをお招きするのは、実務の第一線で活躍している方のお話を聞き、議論することを通して、学生の知的関心を広げ、また学生に現場感覚を身につけてもらいたいからです。AI研究の知見を公共政策に活用しようとする福田氏の報告は、学生の知的関心を広げ、現場感覚を養うだけでなく、学生(そして教員)を知的に挑発する、非常に興味深いものでした。

前半は、福田氏から「AIを活用した政策提言策定への挑戦 〜国や自治体の戦略的な政策決定への活用に向けて〜」と題したミニ講義を行なっていただきました。福田氏を含む、日立京大ラボの研究プロジェクトは、2050年の日本が持続可能であるためのシナリオを描くべく、AIを活用しています。

福田氏は、AIを活用するには、人間が得意とする分野と、AIが得意とする分野を見極め、お互いのよさをうまく組み合わせることが重要だと指摘します。その上で、福田氏たちは、まず、「少子化」や「環境破壊」など、149個の社会要因を挙げて因果関係モデルを作り、次いで、AIを用いてシミュレーションした結果、コンピュータ上に約2万通りの未来を作り出し、現在から未来へといたる変化を「見える化」しました。この2万通りの「パラレルワールド」は、どのように一つの「現実世界」となるのか。言い換えれば、もう後戻りすることができない分岐点はいつ訪れるのか。福田氏は、都市集中型シナリオと地方分散シナリオの分岐点が2025-27年に訪れること、またそれぞれのシナリオに誘導する要因を明らかにできた、とお話し下さいました。

この研究成果に対する関心は非常に高く、多くの自治体で研究報告を行なった他、ある自治体と共同研究を行なうことが決まっているそうです。政府や自治体が、AIを活用して公共政策を検討する未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

講義の後半では、学生たちが二つのグループに分かれ、都市集中型シナリオと地方分散型シナリオのどちらが好ましいかを議論、報告しました。さらに福田氏は、学生たちに、自分たちが選ばなかったシナリオについて検討することを促しました。というのは、好ましくないものを、好ましいものにすることにこそ、人間の知が試される、というお考えからでした。

公務研究科は、市民的感性、志、実学、責任、自律などを鍵概念に置き、教学、あるいは公務のあり方を追求してきました。AIを活用した新しい公共政策は、こうした理念とどのように結び付く、あるいは結び付けることができるのか。福田氏の報告は、公務について考える者に多くの「宿題」とヒントを与えるものとなりました。