ナノスケールで組織構造を精密制御できる有機・無機ハイブリッドナノ微粒子の創製 | デバイスの微細化、高性能化を飛躍的に進めるハイブリッドナノ微粒子。

ナノスケールの高機能材料創製を目指す

金属などの無機微粒子は、10 nm未満の小さな粒子になると、バルク状の時とは全く異なる性質を発現することが知られています。近年、無機微粒子をナノスケールで容易に合成する方法が開発され、ナノ微粒子の性質をデバイスなどに応用する研究が盛んになってきました。

例えば金のナノ微粒子を一次元に組織化し、ナノメーター幅の配線を作ることができれば、半導体微粒子の量子ドットに活用できます。数10 nmサイズが限界と言われる半導体の配線を飛躍的に微細化し、性能も一気に高めることが可能になります。私たちのプロジェクトでは、こうしたナノスケールで秩序構造を示す多機能・高性能材料の創製を目指しています。

液晶を活用して金微粒子を制御する

ナノ微粒子は、規則正しく並ぶことで、より高い機能を発揮します。すなわち材料・デバイスとして最大限機能を活用するためには、ナノ微粒子の構造や組成を最適化し、さらには各分子の配向や配置を精緻に制御する必要があります。それを私たちは、有機材料である液晶を活用して実現しようと考えました。

人工クロロゾームの原子間力顕微鏡像(左)と顕微蛍光発光像(右)

液晶には、自発的に分子の方向を一方向に揃え、さらにその配向状態を電場、磁場、光といった外場によって容易に変えられるという性質があります。この特性を利用すれば、ナノ微粒子の秩序構造や凝集状態を制御することが可能なはずです。そうした予測から私たちは、有機液晶と無機ナノ微粒子とを組み合わせ、「有機と無機のハイブリッドナノ微粒子」という、全く新しい材料の開発に着手しました。

これまでに私たちは、金のナノ微粒子を液晶で被覆し、自己組織化させることに成功しました。続いて液晶の外場応答性を利用し、組織体のナノ構造を制御しようと試みています。私はこれまでの液晶研究において、アゾベンゼン液晶が光に応答して屈曲型の分子形状に変化し、高速・高効率に分子の並び方を変化させられることを見出し、このアゾベンゼン液晶を結合させた金ナノ微粒子を合成しました。光を照射することで、ナノ微粒子の並び方も自由自在に制御できると期待しています。

無機・有機両方の特性を有する材料を創製

プロジェクトでは、立命館大学の多領域にわたる若手研究者が結集し、「有機マテリアル」、「無機マテリアル」、「ハイブリッド材料の機能評価」の3領域を分担して研究を進めています。有機マテリアルグループは、液晶分子を扱い、無機マテリアルグループは、無機ナノ微粒子を精密に合成する方法を確立し、有機液晶材料と複合させます。ナノスケール材料は、微細ゆえに構造や機能を評価するのにも高い技術が必要です。ハイブリッド材料の機能評価グループでは、ハイブリッド材料のナノ秩序構造や凝集構造を観察し、各種デバイスへの応用が可能かを検討するつもりです。

「有機・無機ハイブリッドナノ微粒子」は、これまでにない新規性・優位性に富んだ材料です。一つには、有機・無機両方の特性を兼ね備えた多機能材料になり得ることです。有機材料は、自己組織性や分子構造の多様性、さらには容易に加工できる柔軟性を備え、一方無機材料は、電子電導性や磁性、高屈折率を有しています。両方のメリットを生かすことで、非常に高性能な材料を世に送り出すことができるでしょう。加えて、多様な金属材料と組み合わせられるのも特性の一つです。今後は、金のみならず、いろいろな無機材料を検討するとともに、新しい物性も探究するつもりです。

将来的には、開発したハイブリッド材料をもとに、より高機能な電子材料や光学材料を提案したいと考えています。

有機・無機ハイブリッド材料、液晶、光制御、ナノ微粒子、ナノ構造制御、自己組織化、外場応答性

堤 治 准教授

堤 治 准教授

1993年 熊本大学工学部応用化学科卒業。'97年 日本学術振興会特別研究員。'98年 東京工業大学総合理工学研究科化学環境工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。'98年 カリフォルニア工科大学博士研究員、'99年 アリゾナ大学博士研究員、'99年 東京工業大学資源化学研究所助手、'03年 (株)荏原総合研究所研究員、'07年 立命館大学理工学部応用化学科准教授、現在に至る。American Chemical Society、日本化学会、高分子学会、日本液晶学会、近畿化学協会、American Association for the Advancement of Scienceに所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:堤 治
高分子材料化学研究室

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