STORY #1

築き上げてきた生活や文化と共に
歴史都市を災害から守る。

大窪 健之

理工学部都市システム工学科教授

金 度源

衣笠総合研究機構専門研究員

サキャ ラタ

歴史都市防災研究所客員研究員

“Build Back Better”を目指し、
歴史的建造物を災害から
守るためのビジョンを示したい。

大窪はネパールからの留学生サキャラタ氏(当時京都大学博士後期課程在籍)の協力によりモデル地区に住む住民にアプローチしてワークショップを開き、防災意識を啓発するとともに、住民からも意見を聞き、一緒になって「住民にできる」防災対策を考えてきた。住民に費用負担を強いる大規模な改修や補強の実現性は高くない。それよりも現地でも可能な方法でより強いレンガを製造する技術を伝授したり、ふだんから通路や中庭に物を置かず、障害物を排除しておくことで災害時に通路が遮断されるのを防ぐなど住民に実現できることを模索した。また住民と一緒に地区内を歩いたり、防災訓練を通じて危険な箇所を見つけ、中庭にある共有の水場の活用法を考えるなど住民自身に考えてもらうことを重視した。サキャ氏が2013年に大窪研究室にて歴史都市防災研究所の専門研究員となったことでより住民に密着したワークショップが実現できるようになり、集めた情報や住民の意見を集約し先に述べた防災地図を作成した。サキャ氏は2014年度から客員研究員となったが、現地での活動は変わりなくチームの一人として継続している。
「不幸中の幸いですが、あれだけ大きな地震だったにもかかわらず、対象としていたモデル地区からは1棟の全壊建物も1名の死者も出ませんでした。地図の配布は間に合いませんでしたが、防災意識が確実に住民に根づいた結果だと考えています」と大窪は振り返った。

放射性元素

パタン地区はユネスコの世界遺産にも登録されており、中庭や広場も含め、地区全体がその芸術性や文化性を高く評価されている。中庭は、住民の水場やコミュニティの場所としても機能しており、日常生活には欠かせないものとなっている。上、下の写真は中庭に面している個々の住宅を対象にゴルカ地震時の避難と避難生活についてのインタビュー調査をしている様子。

パタン地区
パタン地区

防災意識がかつてないほどに高まっている震災直後こそが次に備えるチャンス」。大窪は早速現地に入り、調査を再開している。
金度源とサキャ氏は大学院生や現地協力者と共にパタンで60名近くの住民にインタビュー調査をし、震災時にどの中庭や通路を経由して避難または避難生活をしたか、現在の生活はどのくらい震災に影響されているのか、いつの時点で震災前の日常に復帰できたのかを調査した。「想定した通り、インタビューによって避難所や避難生活を支える空間としての伝統的な共用空間である中庭や通路の有効性が裏づけられました。しかし震災後に住民が住居を捨てて地区を離れ、多くの空き家が発生した結果、震災前には使えた中庭や通路が閉鎖されてしまうといった新たな課題も浮上しています」と生々しい現状を報告した。
韓国で文化財保護に取り組んできた金だが、立命館大学での研究を通じて人々が生活の中で築き上げた文化財の価値を再認識し、「使いながら守っていく」ことを考えるようになった。今後もパタン地区での調査・研究を継続し、地域の人々が歴史的な街並みや建物を災害から守るためのプログラムを開発・提案していきたいという。
「重要なのは、“Build Back Better(震災前よりも良い社会を目指す復興)”。今こそそのためのビジョンを示さなければならない」と大窪と金は研究にまい進している。

大窪 健之/金  度源

大窪 健之[写真左]
理工学部都市システム工学科教授
研究テーマ:木造文化遺産の被災史と防火対策の歴史を踏まえた計画研究、防災施設の設計提案を通じた文化的景観保全に関する研究
専門分野:文化財科学、自然災害科学、土木計画学・交通工学、都市計画・建築計画

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金 度源[写真右]
衣笠総合研究機構専門研究員
研究テーマ:文化財と地域を相互に守る文化遺産の地域防災拠点化構想、市民の防災意識と評価に基づく防災計画策定手法に関する研究
専門分野:文化財科学・博物館学、自然災害科学・防災学、土木計画学・交通工学、建築環境・設備、都市計画・建築計画

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2016年3月7日更新