アメリカ黒人の歌に感動して

#093
文学部 教授ウェルズ 恵子

 1865年に制度がされるまで、アメリカの黒人は人間としての自由がない生活を強いられていました。アメリカ民謡「こげよ、マイケル」は日本でも知られる、のどかな歌ですが、奴隷制時代には「天使よ、私を天国に連れて行ってください」という気持ちを表す、死後の世界にあこがれる歌でした。このころの黒人歌は、生活のたいへんな困難さや残酷な現実にもかかわらず、美しく、ユーモラスでもあります。

 これは民話にも表れているです。イソップ原作の「ウサギと亀」の黒人版では、一生懸命走るウサギに対し、亀は知恵を使って競争に勝ちます。走っても勝てないからです。「神が救ってくれないのなら悪魔を味方にしよう」と考えたかのような物語もあり、自分たちが神に見放されていると感じた時もあったのだとわかります。

 20世紀の初めまでにできたらしい黒人歌のジャンル、「ブルーズ」もです。歌詞の意味はあいまいで、危険な内容をうやむやにしつつ、ばかばかしく聞こえる歌詞にのせて、つぶやくように胸のうちを表現しています。歌詞の奥深くに込められた訴えに耳をすまし、それを引き出すことも研究者の使命なのです。

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