武田鉄矢さん「名誉漢字教育士」授与記念特別対談 #3

思うに現代において白川文字学をいろんな方に説いてくださっているのは武田さんだけなんです。(加地)/僕は白川文字学がいろんな方に伝わって、いろんな思いが漢字の中に流れ込むことを心から祈っています。(武田)

加地
白川先生は日本の古代社会のいろんなものを中国のそれと比較しながら、解き明かしていらっしゃていて、これは面白いです。
武田
面白いですね。それから白川文字学を尋ねていきますと、ちょっと近代的な言い方になりますが、入れ墨の一件が出てきますね。僕は邪馬台国が大好きだったんですが、魏志には入れ墨を入れている邪馬台国の住人に対しての軽蔑がある。ところが漢字の中には入れ墨の存在が濃厚にあったわけですね。
加地
文身ですね。
武田
ン百年の時の差で中国では否定されていた入れ墨が、原初の日本、邪馬台国の中では古代のごとく生き生きとある…。
加地
白川先生は中国を研究され、日本の社会を説明されていったんです。たとえば銅鐸が魔除けとして並べられていたということは、日本の考古学者ではわからなかったわけです。
武田
白川先生はものすごく慎重な方で、想像を交えて語るということをなさらなかったわけですからね。どちらかというと漢字の中に(自身が)流れ込んでいったというべきでしょうか。
加地
なるほど。中国には古代的な習俗が残っているといっても、いわゆる政権のある中央あたりではどんどん消えていっている。それが逆に日本ではきちんと残っているということはあります。
武田
だからこそ、中国の方も日本に来て白川文字学勉強した方がいいですよ、とすすめたくなるような。
加地
やっぱり漢字をきちんと教えるということは大事だと思います。しかし、残念ながら、小学校ではただ書いて覚えさせるだけで、漢字を体系的に教える技術は現場の教員にはほとんどないんですよ。仮に白川先生の説明をしたら、(子どもは)興味を持つだろうと思うんですけどね。
武田
いやぁ、面白いですよ。
加地
つまり金八先生でなさったと同じことがあると私は思うんです。でも、残念ながら日本の学校では、白川文字学どころか、漢字そのものをきちんと教えられる方がいない。がんばって覚えろというだけで。これではいかんというわけで、私どもでは漢字を教える人を育てようと考えはじめたんです。 “漢字を教える”ということをきちんとトレーニングして、小学校をはじめ、塾でも、近隣の社会貢献の一つとしても、漢字の理解を広めていくことによって、何か人と人とを結びつけるものがあるんじゃないかと。それで「漢字教育士」という資格認定をしようということになりまして、現在、うちの研究所である白川静記念東洋文字文化研究所が活動しているわけです。学習された方々が白川学をもとにあらゆるところで教えるようになれば、漢字に対する理解・興味がもっと増すだろうと。
武田
いやあ、本当に面白いと思いますね。
加地
それも単なる漢字の次元ではなく、物語として面白いと思うんですよね。子たちというのは、視覚に訴えると感覚的に、非常に敏感にとらえることができますので、古代の文字を教室で教えたら、興味を持ってくれるんじゃないかなと思っているんです。
武田
僕は心から、心から祈ります。白川文字学がいろんな方に伝わって、いろんな思いが漢字の中に流れ込むことを祈っています。
加地
ありがとうございます。「受けたい授業」などの様子を拝見して思うに、現代において白川文字学をいろんな方に説いてくださっているのは武田さんだけなんです。
武田
いやいや。
加地
もちろんエッセイなどに書かれている方はたくさんいらっしゃいますが、(武田さんは)具体的に白川文字学の面白さをお伝えくださっていると。しかもそれが見事に絵になっている。そのへんを私どもはありがたく思っておりまして。そこで武田さんに何ができるかと考えましてね。私どもで出している「漢字教育士」という免許の、その一格上の「名誉漢字教育士」をぜひ武田さんにお受けいただきたいと思っておりますが、いかがでしょうか。
武田
それはもう、喜んで。
加地
この「名誉漢字教育士」の第1号は白川先生です。もうお亡くなりになられているため追贈の形ですが。それで第1号に白川先生、第2号に武田鉄矢さんと決めさせていただきました。ぜひ、お受け取りいただけますように。
武田
もう、大変名誉なことで、本当に心から感謝します。
加地
私どもとしてもうれしく存じます。今後ともよろしくお願い申しあげます。
武田
こちらこそよろしくお願い申しあげます。
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