金 度源先生(理工学部環境都市工学科教員)

文化財は特殊な技術や計画がなければ守ることができない

金 度源 先生
理工学部環境都市工学科教員

1.文化遺産防災学に関わるきっかけ~現在に至るまで。

立命館大学大学院へ留学

大学卒業後、文化財を守る研究所で勤めていたときに、災害により韓国の南大門等の世界遺産を数多く失うということが起きました。その時、私は“文化遺産はそれぞれの特殊な環境や条件に特化した防災技術や計画がなければ守ることができない”ということを痛感しました。そして、もっと、文化遺産防災に関する教育を受けたいと思い始めました。そのような状況の中、立命館大学では文化遺産防災学に関する教育に力を入れて取り組んでいるということを知り、立命館大学に留学することを決意しました。

「文化遺産防災学教育プログラム」の履修

2009年からの約3年間、本プログラムを受講しました。
「文化遺産防災学教育プログラム」を履修することにより、文部科学省が実施する履修証明プログラムの修了証をいただくことができるという点についても、大きな魅力も感じておりました。また、他の大学院内にある講義を受けることも、プログラム修了要件に課せられている単位として取得することができ、前期課程の2年間で行う研究活動と大学院講義の受講で、プログラム修了要件のほぼ全てを満たすことができました。

現在の研究

現在は、立命館大学の理工学部環境都市工学科の教員として研究を続けており、文化的レジリエンスの視点に立ち日本における文化的歴史的な街並みと、世界遺産地区の文化遺産防災に関わる研究に携わっています。

日本の文化財や古い街並みに対する防災対策に関し、どのような方々がどのような活動がされているのか、どういったところに歴史的、文化的な価値があり、災害時にはどういったところに脆弱性があるのか、もし災害が起こった際には地域の方々や訪れている人をどう避難させるべきなのかというとても実善的な研究とフィールド調査を行っています。文化的な価値を守りながらまちの安全性を両立させることが目的となります。昨年、地震が起こったネパールのカトマンズ地域では、被害に遭った文化財を修復していく中で、再度起こりうる可能性がある地震に対して、どのような対策が必要であるのかということにも携わって研究をしています。

2.「文化遺産防災学教育プログラム」の受講

私は、前期課程1回生の時からプログラム対象の科目を受講していました。その他、ユネスコチェア研究やフィールド実習、ケーススタディー、それらに関連する勉強会、さらに、文化財防災学研究に関連するNGO、NPO、ICOMOSなど文化遺産保存にかかわる国際機関でのインターンシップにも参加しました。具体的に紹介しますと、「NPO災害から文化財を守る会」の事務局において、約1週間インターンシップを行い、季節ごとに発刊している雑誌の記事を作成するにあたっての情報を集めるために、関連機関への訪問や関連する文化財地区に視察するといった調査を通して研究調査の際に必要とされる基本的な調査方法を実践することもできました。

また、本学の歴史都市防災研究所で実施する国際的な研修である『ユネスコチェア「文化遺産と危機管理」国際研修』では、約3週間、世界から文化遺産保存の専門家や防災の専門家をお招きして研修を行いますが、その研修にオブザーバーとして参加ができ国際的に直面している課題を理解するとともに、参加された研修者との意見交換を通して、世界各国より考えられている文化遺産防災の方法や状況、政策の差についても学ぶことができました。現場での調査、地域の方々との防災ワークショップ、防災訓練など様々な実習を行うことができ、非常に貴重な経験をすることができました。さらに、実習成果に基づいて、国内学会や国際学会で発表、投稿することもでき、効率的に研究業績を得ることもできました。

3.「文化遺産防災学教育プログラム」の魅力

研究科の修了要件を満たしていく過程の中で、多くのプログラム修了要件を満たすことができます。大学院の前期課程2年間(後期課程3年間)の研究活動を充実させることができれば、プログラムを履修することはそんなに難しいことではないと思います。履修証明プログラムを修了したということはどなたにとっても将来デザインに向けて大きなメリットであると信じます。

また、本プログラムの魅力は、他キャンパスの研究科の講義を受けることができることです。キャンパスを越えてほかの研究科の方々と交流ができたということが、一つ大きな魅力だったと思います。特に実習は楽しく、自分の研究活動を推進する機会にもなりました。

4.受講生へのメッセージ

私は、今も文化遺産防災の研究に携わっていますが、実習期間中に関わった兵庫県の篠山市、京都の美山等の実習経験が、今も研究に繋がっています。私たちの仕事は、社会的な現場がないと成り立たちません。研究フィールドを提供していただくために、実習期間中に携わった方々に協力をいただきながら、今の仕事の中でもコンタクトを取らせていただいています。さらに、本プログラムを通じて学んだ知識、経験、ノウハウを基に、今は世界のフィールドの中で仕事を行うことができています。

修了要件のハードルが高いわけではないので、もし、文化遺産防災に少しでも興味がある方であれば、是非、プログラムを履修していただきたいと思います。日本における文化遺産防災を学ぶ良い機会になるとも思われますし、日本における美しいまち並みを守るための基本的な幅広い背景知識をつけることも可能です。長い歴史のスパンの中でどのように歴史的なまち並みが守り育てられているのかといった、人文社会的な知識を得ることも可能であると思います。

学内はもちろんですが、学外からもすごく注目されていて、私の方にも文化遺産防災学を履修したいという社会人の方が、たくさん声をかけてくださっています。修了期間に定めはありませんので、社会人の方に置かれましても、是非長いスパンで考えていただければと思います。

インタビュー担当および文責:法学研究科博士課程前期課程二回生 高倉寛人