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2008年度研究会報告

第1回(2008.11.25)

テーマ 生誕100年記念国際シンポジウム
「メルロ=ポンティと現象学」
報告者 エマニュエル・ド・サントベール( Emmanuel de Saint-Aubert フランス国立科学研究センター研究員)
「メルロ=ポンティ現象学の統一性と連続性:未公刊草稿の観点」

マウロ・カルボーネ ( Mauro Carbone ミラノ大学教授)
「生と哲学の間でのメルロ=ポンティの感性的理念」

ジャコブ・ロゴザンスキー(Jacob Rogozanski ストラスブール大学教授)
「肉と時間ー触覚的交差配列の現象学のために」
報告の要旨

2008年が生誕100年にあたるフランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティの哲学について、現在最も注目されている研究者を招待して国際シンポジウムを開催した。司会は松葉祥一氏(神戸市立看護大学教授)、通訳は椎名亮輔氏(同志社女子大学准教授)に務めていただいた。

 

エマニュエル・ド・サントベール氏(フランス国立科学研究所研究員)は「メルロ=ポンティ現象学の統一性と連続性:未刊草稿の観点」と題して、メルロ=ポンティの未公刊草稿の入念な研究をもとに、彼の現象学が初期から後期に至るまで一貫性を持つものであることを明らかにした。デカルトやサルトルへの批判を持続的に行ないながら、メルロ=ポンティが、身体図式論を「肉」の存在論へ、「隔たり」としての否定性へ、そして「欲望と奥行き」へと持続的に問題をとりあげ直していった過程を明らかにしながら、メルロ=ポンティにおける現象学の一貫性の外郭を描くものであった。

 

マウロ・カルボーネ氏(ミラノ大学教授)の提題は「メルロ=ポンティの感性的理念ー生と哲学のあいだでー」というタイトルで、晩年のメルロ=ポンティにおける「感性的理念」の概念がいかにプラトン主義的伝統から離れたものであるかを論じるものであった。カルボーネ氏はメルロ=ポンティにおける「理念の到来」は、プラトン主義とは決定的に異なって、われわれが存在の内部で窪みをうがち、そこで出来事として生成する過程そのものであることを明らかにした。メルロ=ポンティが「非哲学」と呼ぶものは、このような出来事と生成の存在論における「理念」の新しい定義と深く結びついているのである。

 

最後にジャコブ・ロゴザンスキー氏(ストラスブール大学教授)は「肉と時間 触覚的交差配列の現象学のために」という題で、メルロ=ポンティにおける「可逆性」「交差配列」における触覚の同時性の不可能性に着目し、交差配列における同一化不可能なものを「残りもの」と名づけることにより、肉における自己との隔たり、内的他性の可能性が開かれる構造を明らかにした。こうした肉的綜合の断続を、ロゴザンスキー氏は「自我分析」へと展開することを主張し、また他方で「残りもの」の概念が共同体における異質な存在のありかたを提示するものであることを示唆したうえで、「自我分析」と「残りもの」が政治的関心に応えうるものであり、またそれがメルロ=ポンティにおける「能力なきものの能力」を再解釈する可能性を開くものであることを示した。

 

最新の草稿研究、美学と存在論との関連、政治的なものとの接点など、生誕100年を越えてメルロ=ポンティ哲学の新しい可能性を展望するにふさわしい内容のシンポジウムとなった。会場には多くの研究者が集まり、熱心な質疑が繰り広げられた。

加國 尚志

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