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研究会報告 2008年度

貧困の文化と観光研究会

2008年度の総括

本研究会では、下記のように4回の研究会、11月1,2日の国際公開シンポジウム「社会的弱者の観光を通じての自立と自律」、ならびに数回の観光に関する公開セミナーを開催した。また、科研費を用いてのフィールドワークも各地で実施した。本年度が最終年度であり、3年間の研究結果は以下のように要約できる。

その一つは、途上国における社会的弱者は、観光にかかわるだけでは自立しえないであろうということである。観光客の到来は季節的に波があり、外部の政治・経済の変動を敏感に反映する。したがって、農業や漁業などの伝統的な生業を犠牲にしてまで観光開発を促進することは、社会的弱者にとってはたいへん危険である。資本主義的な生産・消費システムに巻き込まれていて、現金収入が必要であるものの、あくまでも多様な職業の一つとして観光にはかかわるべきだということである。二つ目に、外部で作られた観光の概念やスタイルと現地の人たちの理解するそれらの間には、しばしば齟齬がみられるということである。エコツーリズムはその最たるもので、観光客、観光関連業者、そして現地の人たちの間では、自然環境そのものに対する考え方や態度に大きな違いが見られる。したがって、外部の支援組織は、現地の人たちの考え方を尊重し、十分に議論したうえで側面支援することが重要である。また、現地の人たちも、外部者の考え方を十分に理解した上で、観光に関る必要がある。三つ目に、自生的なリーダーとこの人物を支えるフォロワ-関係の存在が、観光開発の成否やコミュニティの福祉の改善に大きくかかわるということである。この点は、本研究への参加者の多くが参加した先行プロジェクト研究で見出したように、スラム地区コミュニティの生活環境改善を実現する自生的リーダーとフォロワーの関係と共通している。コミュニティを束ね、外部組織と交渉し、支援を獲得し、生活環境の改善を実現する人物がいるか、いないかが観光開発の成否にかかわってくる。四つ目に、女性の役割がたいへん重要であるということである。女性が手工芸品を生産し、マイクロファイナンスを運用し、生活環境を改善する先頭に立つ傾向にある。このことが女性に自信を与え、そしてプライドを芽生えさせる。観光客など、外部の人たちとの均衡がとれた力関係を作り出すことにもなる。これは社会的地位の向上でもある。

このほかにも、プロジェクト参加者各人は、各々が担当する地域の社会的弱者と多様な主体とのかかわりや問題点を、多様に明らかにしている。しかし、わたしたちは、それぞれのフィールドの社会的弱者と観光の関係の一断面を短期間で見たに過ぎない。そういう意味で、わたしたちの社会的弱者の自立と観光の関係についての研究は緒についたばかりで、過去三年間はその本格的な研究の一里塚として位置づけ、今後も継続して同様のテーマの研究をしていく予定である。

研究代表者:江口 信清(文学部教授)

開催日 2008年4月26日
テーマ (1)「観光で儲けられるのは誰か:スラム世帯調査からみた土産物売りアカの生活」
(2)「ポカラ(ツツンガ地域)の女性マイクロ・クレジット・ユニットの追加調査:私的借金と海外出稼ぎの増大」
報告者(所属) (1)石井香世子(名古屋商科大学教授)
(2)山本勇次(大阪国際大学教授)

報告要旨

開催日 2008年7月12日
テーマ (1)「観光地における都市貧困層の営業権獲得運動:フィリピン・マニラにおける露店商人の事例から」
(2)「社会的弱者の自立(自律)とツーリズムに関する研究」
報告者(所属) (1)四本幸夫(文学部非常勤講師)
(2)江口信清(文学部教授)

報告要旨

開催日 2008年10月11日
テーマ 「開発人類学―これまでの論争とメキシコでの私的実践-」
報告者(所属) 鈴木 紀(民博准教授)

報告要旨

開催日 2008年12月20日
テーマ 「Tourism and World Heritage in Laos」
報告者(所属) SENESATHITH Simonekeo(立命館大学国際関係研究科・院生)

報告要旨

科学研究費補助金
研究成果報告書
社会的弱者の自立と観光のグローバライゼーションに関する地域間比較研究
平成18年度~平成20年度[基盤研究A] 研究代表者 江口 信清(文学部教授)
科学研究費補助金
研究成果報告書
マレーシアにおける貧困問題の地域的・民族集団的多様性に関する研究
平成18年度~平成20年度[基盤研究B] 研究代表者 藤巻 正己(文学部教授)
国際シンポジウム
報告書
「社会的弱者の観光を通じての自立と自律」
International Symposium on The Socially Deprived and Self-reliance through Tourism

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