2008年度研究会報告
第3回(2009.2.20・23・24・25)
テーマ | -第1回セミナー『エロス/愛/情に関する間文化現象学』- |
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報告者 | CHEUNG Chan Fai(香港中文大学教授) 「Phenomenology of Eros/Love/情 ①・②・③」 CHEUNG Ching Yuen(香港中文大学) 「Phenomenology of love and hatred by Max Scheler」 |
セミナー全体の要旨
張燦輝教授によるセミナーは、人間の最も原初的な営みの一つである「愛する」という現象に焦点を当て、その現象学的な記述・解明を目指すものであった。セミナーは講義と演習、さらに張政遠博士による講演に分かれていた。
張教授は、まず講義で、愛の観念を二つの仕方で示した。最初に、愛についての中国と西洋、それぞれの文化的・哲学的背景に触れ、それらが観念的に異なる出自のものであることが示された。ついで、愛そのものがわれわれにどのようにして現象して来るかに焦点が当てられ、それに固有の「価値付与性」、「感情性」、「〔主客の〕一体性」という三つの契機が取り上げられた。こうした、いわば巨視的なそれと微視的なそれ、二つの分析を通じて、友愛や性愛、恋愛、自己愛など、極めて多様なかたちを取る「愛」の基本性格が明らかになり、愛の経験を現象学的に解明するための土台が整備された。
演習では、プラトンの『饗宴』やアーヴィン・シンガーの『愛の本性』をはじめ、愛にまつわる4つのテクストが用意され、セミナー参加者はそれぞれテクストについての報告を行った。
張政遠博士の講演は、「マックス・シェーラーによる愛と憎しみの現象学」と題され、シェーラーにとっての愛や憎しみといった概念の位置付けを概観しつつ、それがキリスト教的な伝統に強く裏打ちされたものであることが示された。シェーラーとは異なる文化的背景にあるわれわれが、そのことを強く自覚することで、真に文化的に開かれた、愛についての現象学を構築する可能性が示唆された。
セミナー全体を通じて、しばしば終了予定時刻を超えるほどの、さまざまな質問が寄せられ活発な議論がなされた。
小菊裕之