立命館大学人文科学研究所は、グローバリズムが、政治や経済、文化や社会の諸領域に生み出している諸問題を理論的に解明し続けています。

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2008年度研究会報告

第2回(2007.6.27)

テーマ ポスト・フォーディズムとグローバリズム
報告者 篠田 武司(産業社会学部教授)
報告の要旨

 グローバリズムに関しては多くの議論がある。その議論は、グローバル自由市場の成長(単一世界市場の成立か、「相互依存性」の拡深なのか-経済的側面)、国家の調整能力(国家の崩壊か、変容なのか。ガバナンスと民主主義、市民社会論の隆盛-国家・政治側面)をどう見るのかなどを焦点としていた。また、文化は画一化しつつあるのか、あるいはアメリカはヘゲモニー国家なのか、なども焦点としてクローズアップされてきた。また、別の視点からは、グローバル化が多様な経済システムを収斂させるのかそうでないのか、グローバル化は不可逆的の過程なのかそうでないのかも議論の焦点となってきた。こうした議論をヘルドは、大きく3つの潮流に分けている。グローバル懐疑論者、グローバル論者、変容論者である。本報告の、現在のグローバル化を歴史的に見るという主題からいえば、グローバル懐疑論者は、経済的には新しい事態ではなく、政治的にはウエストファリア体制が維持されているとみる。この意味で歴史的継続性が強調される。グローバル論者は、現在、世界市場の成立が現実となり、この意味で歴史的な断続を強調する。「帝國論」もこうした断続性においれ歴史を見ているといえる。

 しかし、本報告は変容論の上に立つ。そのうえで、レギュラシオン理論による国際分業論と国際レジーム論から歴史区分を行うこととする。まず、①19C~第一次世界大戦-この時期は覇権国・イギリスを中心とする国際分業[外延的蓄積-工業製品・第一次産品(部門間国際分業)←不足する需要の外部での追求]を特徴とし、国際レジームは金本位制、資本主義的列強諸国による植民地・軍事的調整を特徴とする。②戦後~1970年代-この時期は覇権国・アメリカを中心とする国際分業、部門間国際分業の持続[ただし、内包的蓄積-国内市場中心の蓄積体制,フォーディズムの国際化(北―北→比較優位・工業製品の市場、すなわちアメリカ-設備財の輸出・低価値工業製品の輸入、北―南→第一期の分業の持続)]を特徴とし、国際レジームはIMF・GATT、ドル本位制によるも、それは「準レギュラシオン様式・二次的な調整様式」にすぎなかったともいえる。③80年代は、しかし、明らかにこれらの時期とは異なるあらたな歴史的段階が現れつつある。国際分業としては、フォーディズムの時期から始まった生産過程の分離・分業化が、生産過程を地理的に分離する可能性をもたらすことによって、新たな国際分業(国際的水平的分業+産業部門内の国際的垂直的分業)の再編を促した。70年代フォーディズの危機(蓄積体制とアメリカ主導による国際レジームの危機)を経て、ポストフォーディム的な国際分業に深く組み込まれた国内蓄積体制の再編が進んでいるのである。この組み込まれ方によって各国の蓄積体制は多様であり、また安定、不安定なものとなる。国際レジームは、多元的となっている。リージョンの位置も強くなっており、それは、ますます複雑化、多様化しているのである。しかし、だからといって国家の調整能力は空洞化したわけではない。国際競争の中でポスト・フォーディズムともいうべき、いくつかの発展モデルが発見されつつあり、国家はその調整の引き続きその中心にある。しかし、ヒルシュのいうように、それは「社会保障国家」ではなく、「競争国家」として調整の在り方を変えている。

 グローバル化は、資本主義を新たな歴史的段階へと導いているのであり、本報告はその断面を国際分業論と国際レジーム論から素描した。詳しい分析は今後の課題である。

篠田 武司

テーマ 人文科学研究所叢書
 「“グローバル化の現代――課題と展望”(仮題、全3巻)の発刊へむけて」
報告者 中谷 義和(名誉教授)
報告の要旨

① 人文科学研究所の「グローバル化と公共性」チームは、2009年3月に上記を共通のテーマ(仮題)として、全3巻の学際的・国際的研究叢書の同時刊行を予定している。  報告者は「グローバル化の時代」と呼ばれている状況において、これまでの研究会の積み重ねを踏まえて、このシリーズを発刊する目的と意義について、また、その基本的視座と巻別構成および約40名の執筆人の布陣について説明するとともに、外国人執筆者(Jessop, Held, McGrew, Archibugi, Hirsh, Sayer)から受けている執筆の進捗状況を紹介した。

② 報告者は、また、①の報告と関連して、グローバル化のなかで国家がどのような変容過程にあるかが問われているが、その分析視座の設定という点ではブレーメン大学の「トランスティト研究センター(Transtate Research Center)」の共同研究の成果と目される“国家変容シリーズ(transformations of the state series)”が参考になるとし、そのひとつとして伝統的な理念型的国家概念の基本的構成要素を措定したうえで、これがグローバル化のなかでどのような変容をみているかについて個別に分析していることを紹介するとともに、その枠組みの概要を説明した。
  以上の2点の報告をめぐって質疑応答が交わされ、研究会を閉じた。

中谷 義和

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