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2008年度研究会報告

第3回(2008.7.25)

テーマ グローバル化とリージョナリズム
報告者 松下 冽(国際関係学部教授)
報告の要旨

本報告は、「グローバル化の現代――課題と展望」(仮題)全3巻シリーズの第Ⅱ巻『グローバル化とリージョナリズム』の巻頭論文として位置づけられた「第1章 グローバル化とリージョナリズム」の全体構想を要請されていた。しかし、報告者としては準備不足で、中間的報告に終わった。本報告の枠組みは以下の通りである。

はじめに
Ⅰ リージョナリズムと新リージョナリズム
Ⅱ 新リージョナリズムとグローバル化
Ⅲ 新リージョナリズムと国家
Ⅳ 新リージョナリズムの諸形態
Ⅴ 新リージョナリズムと市民社会
Ⅵ 新リージョナリズムと新しいガヴァナンス

以下、各枠組みの論点を紹介しておく。なお、本巻は「グローバル化」それ自体を直接の研究対象としていない。これは、シリーズ第Ⅰ巻『グローバル化の理論と位相』で扱われており、本巻の基本的な対象はあくまでも「リージョナリズム」である。この点を押さえた上での「グローバル化とリージョナリズム」、すなわち「グローバル化」と「リージョナリズム」の連関性、交差、相互作用、影響関係である。

「はじめに」では、国際関係および国際政治経済学の諸理論において、(新)リージョナリズムがどのように扱われてきたかを整理した。その視点は、リージョナル・プロジェクトにおける国家の役割、アクターの動機、形態、以上の3点であり、諸理論としては、ネオ・リアリズム(Kenneth Waltz)、ネオ・リベラル制度主義(Keohane and Nye)、ネオ・マルクス主義、世界システム論(Gereffi and Korzeniewic;Arrighi)、ネオ・グラムシ理論(Robert W. Cox;Stephen Gill)、グローバリズム(Jhon Naisbitt)、リージョナル・ガヴァナンスアプローチ(R.Falk;B. Hettne;F. Söderbaum)を取り上げた。

「リージョナリズムと新リージョナリズム」では、第1に、グローバル化との関連での「リージョナリズムの位置」、第2に、「新リージョナリズムの重要性」、第3に、「新リージョナリズムのアプローチ」、そして第4に、「規模の相対化とリージョナル性」のそれぞれの問題を検討した。

今日のリージョナリズムに対する基本的な問いかけは次の点にある。リージョナリズムは「新自由主義型グローバル化の経過点か、多様な社会経済的組織が共存し、民衆の支持を求めて競合する多元主義的世界秩序に向かう方途」であるのか 。リージョナリズムは、今や、グローバル化の潜在的な推進力として浮上していることは事実であるが、リージョナル化の諸過程は上下に発する競合的諸力が対抗するアリーナでもある。この意味で、複数の(重複する)リージョナルなプロジェクト(自中心型、開発型、新自由主義型、後退型、変容型)が存在している。

この意味で、リージョナリズムの現代的形態、「新リージョナリズム」の内容と特徴が重要になる。新リージョナリズム――国家のみならず非国家アクター、とりわけ市民社会と民間企業の間における一連の公式/非公式な中間レベルの「三者」関係――は、‘新しい’国際関係あるいはトランスナショナル関係の中心的な領域である(Söderbaum, 2003)と考えられている。

ミッテルマンは、「比較的・歴史的・多元的パースペクティブからトランスナショナルな協力と国境横断型フローの現代的形態を探求せんとするもの」、と「新リージョナリズム」アプローチの重要性を承認する。そして、新リージョナリズムの枠組み構築には、①諸理念と諸制度との関連、②生産のシステム、③労働力の供給、④社会文化的諸制度、⑤以上すべての基礎となる権力諸関係、以上の相互作用の分析を強調する。

「新リージョナリズムとグローバル化」では、第1に、国際分業を再考する視点(労働と権力のグローバルな分割)、第2に、合衆国のヘゲモニー、第3に、 グローバル化と「南」にかかわる論点を紹介した。とくに、「南」におけるグローバル化の影響とリージョナリズムとの関係は、東アジアとラテンアメリカの現実が示すように、多様でありかつ複雑であり、重層的でもある。また、新自由主義型プロジェクトは、「後退型」リージョナリズムへと分裂する可能性がある。「南」の社会では、汚職の蔓延、犯罪の拡がり、暴力の蔓延、ギャング行為などの「非伝統的安全保障」の諸現象を含む社会的分裂が強まっている。「後退型」リージョナリズムは、複数の国にまたがった貧困を抑えるためのリージョナルな試みでもある。

「新リージョナリズムと国家」においては、まず、ネオ・グラムシ理論においてリージョナリズムとは何であるのか。その位置づけを検討した。

「新自由主義的・規制的な世界秩序への移行」は、「効率性、福祉、市場の自由、消費過程を通じた自己実現を強調する新自由主義的ガヴァナンスの言説」(Gill)に基づいている。したがって、リージョナリズムはネオ・グラムシ主義派にとって、明確な国家-社会複合体の利害を促進する手段として考えられている。リージョナリズムは新自由主義的経済原則の地域的「ヘゲモニー」を達成する手段である。

それゆえ、リージョナル・ガヴァナンスに向けて、また地域構築のために国家と国家戦略が要請される。リージョナル・ガヴァナンスの必要性を強調するネオ・グラムシ主義派にとって、政治と国民国家はまだ極めて有意な研究対象であり、市場諸力に対するその政治的自律性を保護する手段として地域主義的取り決めを見ている。国家は引き続き重要なのである。

第4に、「新リージョナリズムの諸形態」について紹介した。ここでは、まず、 micro-regions / macro-regions (world regions) / meso-regionsの諸形態について、次に、ヨーロッパ型モデルとアジア・アフリカ型モデル(ASEAN、SADC)の差異に言及した。

明確な目的に即した制度化された形態で展開してきたヨーロッパ型モデルは、「皮肉にも、地域統合の実践としてのEUは地域統合の分析的・理論的比較研究の発展に主要な障害の1つである」(Breslin and Higgott )との警告は注目に値する。「南」の地域に展開する多様な新リージョナリズムの分析には、ヨーロッパ型モデルをあくまでも1つの歴史的実験と考えた方が生産的かも知れない。

報告の5番目の論点は、「新リージョナリズムと市民社会」である。この論点では、サブリージョナリズムの諸活動にはトップダウンとボトムアップの両方のイニシアティブが包摂されており、上からと下からの多様な諸勢力がグローバル化に対する反応の主導権をめぐって対抗しているとの認識から、「グローバル化へのサブリージョナルな反応」と「グローバル化へのサブリージョナルな埋め込み状況」を検討した。また、「市民社会からの抵抗の可能性」を探るためには、市場、国家、市民社会が相互作用関係にあり、グローバル化の挑戦に反応している様式が、サブリージョナルな帰結の構成という点で決定的に重要な位置にあるとの認識が不可欠であろう。

報告の最後として、「新リージョナリズムと新しいガヴァナンス」に関わる諸問題を取り上げた。その1つは、国民国家システムを乗りこえる「ポスト・ウエストファリア型ガヴァナンス」の出現、好ましいポスト・ウエストファリアのシナリオとしての「人間的なグローバル・ガヴァナンス」(Falk)の模索である。

第2の検討課題として、リージョナル・ガヴァナンスアプローチによるリージョナリズムの可能性を紹介した。このアプローチは、グローバリズムに反対する立場と規範的関心を共有し、地域的ガヴァナンスに関する理想主義的立場に立つ。Falkによれば、リージョナリズムは、理念的には「異常なアナーキズムを緩和する」手段として役立てる(「ポジジティブなリージョナリズム」)。新自由主義型再構造化に対する対抗力としての「市民社会を基盤とするリージョナリズム」、すなわち、変容型リージョナリズムの活性化を構想する(Falk)。

「新しいガヴァナンス」の様々な試みと構想という点では、本報告でPaul Hirst and Grahame Thompsonの議論、B. Hettneの「地域的政治共同体」論や「インター・リージョナリズム」、また、新リージョナリズムは、開発、安全保障と平和、エコロジカルな持続可能性が最も基本的な価値であると考える、F. Söderbaumの「政治の復活」を取り上げた。

以上が、「グローバル化とリージョナリズム」の報告要旨であるが、討論やその後の検討をも踏まえて、報告者としては多くの研究課題が残されていることを再認識した。

松下 冽

テーマ 国家任務の脱国家化と憲法の危機
報告者 中島 茂樹(法学部教授)
報告の要旨

内容

中島 茂樹

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