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2008年度研究会報告

第1回(2008.5.9)

テーマ 「占領期日本のナショナリズムの様相―山田風太郎を中心に」
報告者 赤澤 史朗(法学部教授)
報告の要旨

 戦後日本の政治的ナショナリズムは、1990年代の「国際貢献論」の登場する以前には、国際的・国内的に順調に成長する条件を欠いていた。その中で占領期に政治的ナショナリズムの構築を試みた人物に、山田風太郎がいる。本報告では1946~52年の山田の4冊の公刊された日記と1冊の戦中戦後の書簡集を素材に、そのナショナリズムの様相を検討した。所謂戦中派世代に属する山田のナショナリストとしての特徴を、報告では5点にわたって論じた。第一は反米・反占領軍の姿勢であり、山田は共産党への違和感を抱きながらも、反米の契機が反共のそれを上回っていた。第二は戦後に集団転向した日本人批判論であり、第三は戦争放棄の「平和国家」論への批判である。山田にとりわけ特徴的なのは、第四の激烈な東京裁判批判であり、この点でアメリカへの「復讐」を口にするが、他方でかつての日本人の中国蔑視への反省も見られた。第五は天皇制を支持はするものの、天皇制は非合理な民衆の感情に基づいていると理解する、冷淡な姿勢であった。山田のナショナリズムには右翼のそれにも左翼のそれにも通路を持っており、一種のニヒリズムを基礎としており、新しい質のナショナリズムの特徴を示しているが、明確な輪郭を示すには至っていない。冷戦構造の中で、政治的なナショナリズムの形成の困難さを示す事例とも読み取れよう。

赤澤 史朗

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