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2008年度研究会報告

第1回(2008.7.25)

テーマ ①「ハイデガーとヒューマニズム」
②「サルトルとレヴィナスー呼びかける主体/呼びかけられる主体/応答する主体」
③「「トラウマからの回復におけるTFT(思考場療法)の可能性」」
報告者 ①黒岡佳柾(哲学専修D1)
②小松学(哲学専修D2)
③加納友子(教育人間学専修D2)
報告の要旨
 

黒岡佳柾氏(哲学専修D1)の発表は「ハイデッガーとヒューマニズムー「修養」概念を手がかりとしてー」と題して、ハイデッガーにおける人間の問題を彼の『プラトンの真理論』に見ようとするものであった。黒岡氏はそこで、ハイデッガーの存在論がプラトン以来の西洋形而上学批判としてヒューマニズム(人間中心主義)への批判を内包しつつも、プラトンにおける真理の問題と重ね合わせて考えられるべきものであることを指摘した。ハイデッガーのプラトン解釈において「パイデイア(修養)」の概念は、本来の存在の真理の概念が「隠れなさ」の真理と「イデア」としての真理とに分岐する地点に位置しており、ある意味では、人間存在をこの本来的な存在の真理へと向け直すことをも含意している。しかるに、プラトン以降の人間論、教育論においてはイデアと関連づけられるかぎりでのパイデイアしか問題とされていない点に限界がある。ハイデッガーのヒューマニズム批判が、このような意味でプラトン以来のイデア論的パイデイア概念からの人間概念の転換を目論みつつ、やはりどこかに人間主義を残していたのかどうかが問われねばならないことが指摘された。

 

小松学氏(哲学専修D2)の発表は「サルトルとレヴィナスにおける他者との関係としての言語ー呼びかける主体/呼びかけられる主体/応答する主体」と題してサルトルとレヴィナスの他者論の相違を比較し、両者において他者との関係構築のための言語の在り方が「呼びかけー応答」という形でどのように思考されているかを明らかにしようとするものであった。小松氏によるとサルトルにおいてもレヴィナスにおいても、他者との非対称的な関係が考えられており、単純にコミュニケーション的な共同性としての他者関係は考えられていない。サルトルの「対他存在」、レヴィナスの「顔」はともに他者との非対称的な関係を現している。そのうえで、サルトルにおいては「誘惑」、レヴィナスにおいては「教え」と「弁明」というしかたで他者との言語的関係が考えられていたことを小松氏は指摘し、他者との対面において「呼びかけ/呼びかけられる」という関係に身を置くことによる「困難な他者」との関係性の重要さを指摘した。

 

最後に加納友子氏(教育人間学専修 D1)は「心的トラウマからの回復とTFT(思考場療法)」と題して、心的トラウマからの回復のためのThought Field Therapy(TFT) の実践について紹介された。TFTは70年代後半から始まったセラピーの運動の一つで、心身相関、身体操作を重視し、一種のエネルギー医学と位置づけられる療法である。この療法においては、身体の特定の部位をタップ(軽く叩く)ことによって、心的トラウマからの回復が見られるのである。この治療法は日本の中越地震、中国の四川大地震、コンボやルワンダのジェノサイド・サバイバーへの治療などにも応用され、効果を上げている。このTFTのアルゴリズムに従って実践することによって、心理的逆転状態にある患者の治療を行なうことができる。また有害物質としてのトキシンの除去などにも有効であり、またTFTが走行しない場合には鎖骨呼吸法なども有効であることが紹介された。

 

いずれも、現代における人間の問題を考える上で重要な指摘に満ちた発表であり、質疑応答が盛んに行なわれた。

加國 尚志

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