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2008年度研究会報告

第3回(2009.1.31)

テーマ ①「感情と回復」
②「死の人間学」
報告者 ①小菊 裕之(哲学 D1)
②近藤 正樹(教育人間 D1)
報告の要旨

小菊裕之氏(哲学専攻D1)の発表は「感情を巡る現象学的系譜ーこころの回復へ向けた一視座としてー」と題して、暴力からの人間のこころの回復を「感情」の回復としてとらえ、「感情」概念を明確に整備することをめざす予備的研究であった。フッサールは『イデーン』第二巻で感覚と区別される「感情」について言及しており、それは言わば「内から感じられる身体」であり、価値づけと結びついている。小菊氏はそれを「センチメント」と規定した。それに対して、価値評価以前の感情を「アフェクト」として、メルロ=ポンティの身体論が考察され、メルロ=ポンティの身体論における非人称的な層での感情的な在り方にそのありかたを求めたことを指摘した。アフェクトはセンチメントにとって基礎概念となるものである。またハイデガーにおいては、「世界内存在」が「気分的に生きている」とされるように、「情状性」の相が重視されている。こうした三者の議論を要約しながら、小菊氏は、「感情」が、価値評価を形成せず、身体内に閉じており、うまく言語化されず、非人称的にぼんやりと感じられるだけのものであることを指摘した。そこから「自我の能動性が作動する以前の、触発のレベルで起こる受動的な感情」こそが「アフェクト」であることが明らかにされた。さらに小菊氏は、ハイデガーの「不安」やレヴィナスの「享受」、デュフレンヌの美的経験における感情のアプリオリなどを論じ、絵画療法や芸術療法などにおいて、なぜ芸術は感情の回復に特権的な役割を果たすのか、という問題への視座を呈示された。

近藤正樹氏(教育人間学専修 D2)の発表は「生と死の人間学」と題して、「死別による喪失(loss)」の観点から人間存在を考察した。近藤氏はフロイトの喪の作業(Trauerarbeit)がフロイト自身の死別体験と深く結びついていることを指摘し、フロイトにおける「喪の作業」や「死の欲動」の理論の背景を述べられた。つづいて、ボウルビィお「内的作業モデルと悲哀の4段階」について論じ、「無感覚」「思慕と探究:怒り」「混乱と絶望」「さまざまな程度の再建の段階」という4段階を通じて死別者の喪の作業の過程が考察され、その直線過程的な考え方の問題点が指摘された。またロスの死への5段階が考察され、「否認と隔離」「怒り」「取引」「抑うつ状態」(「準備悲嘆」)「受容(脱充当)」の5段階を経ての死の受容過程が述べられた。それは生への過剰充当や執着からの解放という面を持っている。こうした死への向き合いの一つの例として、近藤氏は吉本ばななの「キッチン」を取り上げ、祖母を失った主人公が最後に求める居場所としての「台所」を、西田幾多郎的な「主客未分化な述語的融合状態」の場所ととらえる解釈を呈示され、そこから「痛みとともに生きるという生き方」の可能性を指摘された。

いずれも現代における人間感情の回復についての考察であり、質疑応答がさかんに行なわれた。

加國 尚志

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