TOPICS & EVENTS
佐野ゼミにおけるカンボジアフィールドワークの報告
2025年1月31日~2月7日にかけて、佐野ゼミでは、カンボジアへのフィールドワークを実施し、15名のゼミ生(2回生)が参加しました。フィールドワークでは、マングローブの植林活動や日系企業訪問等を行いました。Trapeang Sangke Fishing Communityにて
1.フィールドワークへの参加動機
カンボジアフィールドワークに参加を決意した動機は二つあります。第一に、ゼミのテーマである農業・環境と経済学に関連する内容が含まれており、実際の現場での経験を通じて経済学への理解を深め、自らの探求心を刺激できると考えたことです。特に、マングローブの植林活動や日系企業の訪問、現地市場の見学を通じて、日本にいるだけでは得られない実践的な視点を養えると期待しました。第二に、これまで海外経験がなかったため、異なる価値観や文化に触れる貴重な機会になると考えたことです。現地の人々との交流や観光を通じて、新たな視野を広げられると感じ、参加を決意しました。
2.マングローブ植林か活動について
・植林が行われるようになった背景
カンボジア・カンポットの町から約30キロ離れたイスラム系コミュニティ(TFC)で、マングローブの植林活動が行われています。この地域では、周辺の河岸開発による生態系の悪化により漁業資源が減少し、主要な生計手段であった漁業が衰退しました。その結果、多くの若者が漁業のコミュニティを離れ、地域の人口減少が進みました。また、家庭の収入が不安定になることで子供の教育が十分に受けられず、労働に従事せざるを得ない状況が生じるなど、社会的な問題にも発展していました。
こうした課題に対応するため、マングローブ林の保全活動が開始されました。マングローブは魚の生息域を確保し、水の生態系を豊かにする役割を果たすだけでなく、1ヘクタールあたり約1トンの酸素を生み出すとされています。また、津波や高潮などの自然災害から沿岸部を守る防波堤の役割も果たします。これまでに約30万本以上のマングローブが植えられたことで、漁業資源が回復し、漁獲量が大幅に増加しました。
この植林活動は地域社会全体にも良い影響を与えているといえます。もともと漁業を中心としたコミュニティであったTFCでは、植林活動をすることでエコツーリズムも発展し、観光資源として活用することで、新たな収入源を確保することに成功しました。得られた収益は、高齢者や未亡人の支援、子供の教育費などに優先的に活用されており、地域全体の生活向上に寄与しています。
一方で、開発の影響によりマングローブの成長速度が低下していることが最近の課題として挙げられていることを知りました。このため、植林活動を持続可能なものにするための取り組みが求められています。また、現在の世代がいなくなってもこの活動が受け継がれ、将来にわたって継続される仕組みを確立することを目標に掲げていると伺いました。
・植林活動の内容
私たちゼミ生は、同地域でのマングローブの保全活動をしてきたカンボジアのNGO団体・CYA(Cambodia Youth Action)、現地の大学生やTFCの人々とともに従事しました。活動はマングローブの種の採取から始まり、苗木を育て、最終的に植えるまでの一連の流れを実践しました。マングローブの種は細長い緑色の実で、先端が花のような形をしています。これらが樹の枝から垂れ下がっており、手でひねって採取していきます。苦労した点として、マングローブ林全体が緑色で種を見つけにくいことや、高い位置にある種を取るには木に登る必要がありました。私たちも木登りに挑戦しましたが、登れなかったり、けがをしそうになったりして苦戦しました。また、足元の土壌が柔らかいため、足を取られたり靴が脱げたりすることも多く、思っていたほど簡単な作業ではありませんでした。しかし、全員で協力し、最終的に約800本の種を採取できました。(左)船に乗り、種を取りに行く様子 (右)マングローブの種
採取した種はプランターに移し、苗木になるまで育てます。私たちはプランターに泥を詰め、苗木を作る作業を担当しました。そして、十分に成長した苗木を約1メートル間隔で植林しました。作業は大変でしたが、植え終わった苗木を見て大きな達成感を得ることができました。(左) 苗木を植林する様子 (右)植林場での集合写真
3.日系企業本門について
私たちはカンボジアに拠点を持つ日系企業であるKurata PepperとCAITAC&WANILIN APPARELを訪問しました。私は、経済学特殊講義I(キャリアデザイン・国際キャリア)に関する講義を受講していたため、国際的な企業で活躍する人々の能力や、日本と海外の文化的な違いがビジネスに与える影響に興味を持っていました。
まず、Kurata Pepperでは創業者の倉田浩伸氏から、創業の経緯やカンボジアにおける胡椒の現状について話を伺いました。世界一の胡椒生産国であるベトナムが「質より量」の方針で安価な胡椒を輸出しているのに対し、Kurata Pepperは高品質な胡椒を生産することで差別化を図ってきました。コッコン州に広がる自社農園や契約農園では、現地の人々とともに伝統的な自然農法を用いて胡椒を生産しています。しかし、畑が全滅してしまうこともあり、その際は一からやり直さなければならないという苦労もあるとおっしゃられていました。倉田氏は創業当初から「世界平和」を掲げており、現地の雇用創出と安定的な収入の提供を実現しています。 (左)倉田氏の説明を受ける様子 (右)胡椒の実
次に訪問したCAITAC&WANILIN APPARELは、デニム製品を主にアパレルメーカーやイオンなどの企業から委託生産しているのに加えて自社デニムブランドの運営販売を行っている企業です。工場では4つの生産ラインで、約5万本のデニム製品が製造されています。管理ポジションには同社の工場がある中国から来られている中国人の方が多く、生産ラインではカンボジアの従業員が中心となって働いていました。しかし、カンボジアの従業員の多くは英語を理解できないため、指示が正しく伝わっているか確認するのが難しいという課題もあるといいます。カンボジアを生産拠点にするメリットとして、人件費の安さが挙げられます。それに加えて、現地の人々は真面目で素直な性格であり、日本との文化的なギャップも少ないことが分かった。また海外で働くことについて行動に責任が伴うがそれだけ自由に働くことができること、企画立案から実行までのスピード感が日本とは違う点として挙げられていました。今回の訪問を通じて、海外で企業を運営する難しさと、それを乗り越えて事業を成功させるための工夫について学ぶことができました。
(左)生産ラインのようす (右)カイタックにて質疑応答する様子
4.市場見学・観光
フィールドワークの一環として、私たちはカンポットのナイトマーケット、プノンペンのセントラルマーケット、ロシアンマーケットを訪れました。カンポットのナイトマーケットは、地元の雰囲気を強く感じられる市場で、日本人観光客の姿はほとんど見られなかったです。ここでは、食べ物だけでなく、手工芸品、土産物、衣料品、日用品、そして名産であるカンポット・ペッパーなど、さまざまな商品が販売されていました。
一方で、プノンペンのセントラルマーケットとロシアンマーケットは多くの観光客でにぎわい、観光地としての側面が強いことが分かりました。セントラルマーケットの奥にはジュエリーや高価な衣料品を取り扱う店舗が並び、豪華な品揃えが特徴的でした。一方、ロシアンマーケットは肉や魚、野菜などの生鮮食品が並ぶ市場のほか、車輪やバイクのバッテリーを扱う店もあり、日常生活に密着した商店が多かった印象です。どの市場でも値切り交渉が可能であり、自分の英語力や交渉力を試す良い機会となりました。
また、カンボジアの歴史を学ぶ機会として、カンボジア王宮とシルバーパゴダ、トレサップ河とメコン川でのクルーズ、AEON MALL、キリングフィールドとトゥール・スレーン博物館を訪れました。カンボジア王宮とシルバーパゴダでは、精巧な建築と歴史的な価値を持つ仏教文化に触れることができました。トレサップ河とメコン川のクルーズでは、王宮を含めたプノンペンの夜景を一望するとともに、水上集落で暮らす人々の生活などを見ることができました。AEON MALLは日本企業が進出したショッピングモールで、プノンペンの急速な都市化を感じることができました。一方で、キリングフィールドとトゥール・スレーン博物館では、カンボジアの過去の悲劇的な歴史に触れ、当時の人々が経験した苦しみを学びました。
市場や観光を通じて、カンボジアの文化や歴史、そして日本では味わえない「非日常」を体験できたことは貴重な経験となりました。(左)ナイトマーケットでの食事 (右)セントラルマーケットの様子
(左)カンボジア王宮 (右)クルーズにて集合写真
5.フィールドワーク調査で得た学び
今回のフィールドワークを通じて、カンボジアの経済や文化、歴史について多くの学びを得ることができました。マングローブの植林活動では、自然環境の保全が生態系の維持だけでなく、地域社会の経済や雇用にも大きな影響を与えることを実感しました。特に植林活動がエコツーリズムとして、地域の人々の生活を支えていることに驚きました。
また、日系企業の訪問では、国際的なビジネスの展開において文化の違いや言語の壁が課題となることを学びました。Kurata
Pepperのように、現地の雇用創出を重視しながら事業を行うことの意義や、CAITAC&WANILIN
APPARELでの生産拠点としてのカンボジアの魅力と課題について考える機会になりました。
市場の見学では、値切り交渉を通じて異文化の商習慣に触れ、観光では王宮やトゥール・スレーン博物館を訪れることで、カンボジアの歴史や発展の背景を学びました。この経験を通じて、異なる文化や価値観を理解することの重要性と国際社会では英語力が必要であることを改めて実感しました。
6.後輩に向けて
このフィールドワークを通じて、私は多くの学びと貴重な経験を得ることができました。興味を持ったことには積極的に参加し、大学生のうちにできることはどんどん挑戦してほしいです。特に、海外での経験は視野を広げる良い機会になるので、少しでも興味があるならぜひ参加をおすすめします。
また、「友達がいないから不安」と思う人もいるかもしれませんが、心配はいりません。私も最初はまだまだ演習メンバーともそこまで仲良くなかったですが、フィールドワークを通じて仲間と親交をとても深めることができました。むしろ、一緒に活動することで自然と仲が深まるので、新しい環境に飛び込む勇気を持ってください。
さらに、海外に行きたい人は英語の勉強をしっかりしておくことが大切です。英語力が高ければ、自分の考えや要求を伝えられるだけでなく、現地の人と直接会話することで新たな発見や気づきを得ることができます。ぜひ積極的にチャレンジしてみてください!
【文責】経済学部 2回生 奥浜優志