RITSUMEIKAN立命館×2025年大阪・関西万博

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【REPORT】特別対談企画 いのち輝く未来の学びとは? 第1回「世界との対話・異文化理解をどう進めるか」【REPORT】特別対談企画 いのち輝く未来の学びとは? 第1回「世界との対話・異文化理解をどう進めるか」

2025年の大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマです。未来を担う若者・子どもたちが輝く学びとはどうあるべきなのでしょうか。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーで、教育者・数学者・音楽家と多彩な顔を持つ中島さち子さんをナビゲーターに迎え、有識者との対談で「いのち輝く未来の学びとは?」を考えていきます。第1回は、堀江未来・立命館大学グローバル教養学部教授/立命館小学校校長と「世界との対話・異文化理解」をテーマに語り合います。

Profile

中島さち子(なかじま・さちこ)氏

東京大学理学部数学科卒業。高校2年生の時に国際数学オリンピックインド大会で日本人女性初の金メダルを獲得。幼少時よりピアノ・作曲に親しみ、大学時代に本格的に音楽活動を開始する。2017年、株式会社steAmを設立、STEAM教育の普及に取り組む。25年の大阪・関西万博では、テーマ事業プロデューサーを務める。

堀江未来(ほりえ・みき)

名古屋大学教育学部を卒業後、同大学院修士課程を修了。アメリカ・ミネソタ大学教育政策行政専攻(国際教育)にて博士号取得。南山大学、名古屋大学を経て、2009年より立命館大学国際教育推進機構に着任。17年より立命館小学校・中学校・高等学校代表校長に就任し、以降、大学教授職と校長職を兼務。21年より立命館小学校長、23年より同大学グローバル教養学部教授。

「いのちの輝き」とは、“好き”が承認されること

中島 私は子どもの頃から数学も音楽も好きで、現在はそうした活動を続けながら、STEAM(スチーム)教育の普及に取り組んでいます。そんな背景もあり、大阪・関西万博では、「教育」をテーマとする事業プロデューサーを務めることになりました。大阪・関西万博の全体テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。まず、「いのちの輝き」とは何か、堀江先生のお考えを聞かせてください。

堀江 中島さんは中学生の時、1か月間、数学の1問を考え続けたとうかがいました。「いのちの輝き」とは、まさにそれだと思います。自分の好奇心や興味、関心を突き詰められること。そして、それが周りから承認されることだと考えています。

中島 自分の特性が承認されるということですか。

堀江 人間には、誰でも得意なことと不得意なことがあって、生きていくためには、時に気の向かないこともしなければいけません。でも、自分の興味、関心を大事にしてくれるスペースが、どこかにある社会がいいんだろうなと。

中島 よく「何のためにやっているの?」と問われがちですが、何のためにでもなく、無目的な遊びというか、気づいたら夢中になっていたということが許される“余白”って大事ですよね。一方で、好きなものが見つからないと悩む方も多くいませんか。

堀江 それはよく相談を受けます。でも、好きなことや得意なことというのは、はたから見ていると、ちゃんとあるんですよね。本人はもう無意識にやっていて、自覚できていないのかなと。周りから「あなたはそれが得意なんだね」「すごいね」といったフィードバックや声がけがあるといいですよね。

※ STEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)を分野横断的に学ぶことで、創造的な発想で問いの生成や課題解決に取り組む学び方。

互いを認め合う対話で多様な「いのちが輝く」

中島 子どもに限らず、自分のことって、分かっているようで分かっていません。海外に出て初めて、日本の良さに気づくように、自分とは違う他者と出会うことで、自分を知るというのはあります。

堀江 自分だけでは自分を相対化できませんから、価値観や行動様式が異なる他者と出会うことは、一番いい鏡になります。ですから、若い人たちには、自分の常識が全然通用しない場所に飛び込むことをおすすめしています。私も20歳で中国に留学した時、何か解放されて、本来の自分を承認できたような感覚を得ました。

中島 一つの軸しかないと、他者との比較になってしまいますが、多くの軸に触れると、「自分は自分の軸を持てばいいんだ」と気づけますよね。そんなふうに「いのちが輝く学び」で大切なのは、どんなことだと思われますか。

堀江 自分の個性や「いのち」が守られるためには、やはり相手も守らなければいけません。自分も他者も大事にされないといけない。そのために必要なのは、対話です。自分の意見を言って、もし間違えたら、それを認めて修正してもいい。お互いに許し合える関係性の中で、対話は進むのかなと思います。

中島 ジェンダーや人種といったことを話題にする時、センシティブな部分もあります。でも、何が正しい、間違っているというよりも、私はこう感じるということをお互いに見せ合う、ということでしょうか。

堀江 たとえば、私と中島さんの間に数字の「6」があるとします。私から見たら「6」ですが、中島さんは「9」に見えます。そこで、私が「6」だと主張し続けても建設的ではないですよね。いろいろなものの見方があると理解した上で、折り合いをつけるために工夫していくことが学びにつながるのだと思います。

中島 何事もそうですが、条件を変えることで違う世界が見えてきて、その本質を自由にとらえられるということがあります。学校教育でも、そうした学び方ができれば、すごく変わってくるのではないかなと思いますが……。

堀江 公教育はどうしても画一的にならざるを得ないところがありますが、全員に同じ内容を等しく学ぶ機会があるということ自体は、すばらしいことだと思っています。ただ、それ以上の学びに届きにくいというのはありますよね。今は、「個別最適化」という言葉も出てくるなど、ラーニングスタイルの研究や分析も進んできました。これまでのように聞いて学びたい子もいれば、読んで学びたい、動いて学びたい子もいます。様々なアプローチの学びをバランスよく取り入れられれば、自分に合った学び方ができ、自己肯定感も生まれやすくなるのかなと思います。

特別対談企画イメージ
立命館大学グローバル教養学部教授/立命館小学校校長 堀江未来

最終的には“個人”、そこに気づく学びの仕組み

中島 堀江先生が大学で教えていらっしゃるグローバル教養学部の学生さんたちは、世界と出会う機会も多くあるかと思います。学生さんは、実際に異文化と触れてどのような経験をされていますか。

堀江 私のいるグローバル教養学部には、いろいろな文化的、言語的バックグラウンドを持った様々な国籍の学生たちがいます。ただ、学生自身が本当にお互いから学び合えるかどうかは、学ぶ仕組みによるところがあって、その仕組みを作るのが私の役割だと思っています。たとえば、ある授業では、学生全員に自身の教育歴をプレゼンテーションしてもらいながら教育理論を学ぶということをしました。すると、日本人学生にも一人ひとり、様々な経歴パターンがあり、まったく違うストーリーを持っていることが分かったんです。

中島 面白いですね。友だちだと思っていたけれど、実は見えていなかったその人のバックグラウンドや価値観が開示された。単に国籍が違うというだけでなく、同じ日本人でも、それぞれに多様だと気づける仕組みを作ったということですね。

堀江 そうです。最初は分かりやすい多様性でもいいと思います。でも、最終的には個人に行き着く。学生たちには、一人ひとりが多様であり、社会には見えづらい多様性もあるということを理解して生きる力を育んでほしいなと思っています。

中島 セグメントされた中で生きている大人たちも、そんな学びの仕組みや仕掛けを意識的に取り入れて、みんなの「いのちが輝く」生きやすい社会に変わっていくといいですよね。

堀江 個人とつながるという仕掛けは、とても大事だと思っています。目の前にいる人のことを大切に思い、その人を理解することで、自分の中に多様性のレパートリーが一つ増えていく。多様性の理解とは、そうした一つひとつの蓄積であるというのが健全なあり方のように思います。

特別対談企画イメージ
大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー 中島さち子氏

誰もが対等に安心して異文化を学び合える場に

中島 今、万博のプロジェクトで、万博がなければ出会えなかったようないろいろな方と一緒に取り組んでいると、本当に最後は個人の特性に行き着くということを実感します。私は、万博で「いのちを高める」という事業テーマを担当していて、パビリオンは、「揺らぎのある遊び」というコンセプトイメージから「いのちの遊び場 クラゲ館」と名付けました。誰もが自由に遊び、学べる共創の場にしたいと考えています。

堀江 枠組みの定まっていない中で、世界中のいろいろな人がアイデアを出し合い、ものを作っていく。万博は、そのプロセス自体がとても面白いですよね。

中島 そうですね。私は、万博を市民型の大きなお祭りだととらえています。ですから、この非日常的なお祭りをきっかけに、日常の世界が変わったらいいなと。

堀江 ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)の取り組みが進む今、互いに異文化を学び合う必要性はますます高まっています。その時、やはりセンシティブな話題が出てくることもありますから、心理的な安全性と対等性が確保されていることはとても大切で、それが実社会に出る前の学校の役割でもあると思うんです。私は、万博もそれに近い役割を果たせる場所ではないかなと期待しています。

中島 ありがとうございます。堀江先生とも、万博で何かご一緒できることを願っています。

*2023年11月30日に読売新聞朝刊(大阪本社版)に掲載された広告特集を加筆・再構成したものです。

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