RITSUMEIKAN立命館×2025年大阪・関西万博

特集

【REPORT】特別対談企画 いのち輝く未来の学びとは? 第2回「子どものために、学校や社会は何ができるか」【REPORT】特別対談企画 いのち輝く未来の学びとは? 第2回「子どものために、学校や社会は何ができるか」

2025年の大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマです。未来を担う若者・子どもたちが輝く学びとはどうあるべきなのでしょうか。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーで、教育者・数学者・音楽家と多彩な顔を持つ中島さち子さんをナビゲーターに迎え、有識者と「いのち輝く未来の学びとは?」を考えていきます。シリーズ第2回は、大阪・関西万博の催事企画プロデューサーの小橋賢児さん、正頭英和・立命館小学校教諭とともに「子どものために、学校や社会は何ができるか」を語り合います。

Profile

中島さち子(なかじま・さちこ)氏

東京大学理学部数学科卒業。高校2年生の時に国際数学オリンピックインド大会で日本人女性初の金メダルを獲得。幼少時よりピアノ・作曲に親しみ、大学時代に本格的に音楽活動を開始する。2017年、株式会社steAmを設立、STEAM教育の普及に取り組む。25年の大阪・関西万博ではテーマ事業「いのちを高める」のプロデューサーを務める。

小橋賢児(こはし・けんじ)氏

1988年に8歳で芸能界デビュー、以後数々のドラマや映画、舞台に出演し、2007年、俳優活動を休止。世界中を旅した後、映画やイベント制作を開始する。音楽イベント「ULTRA JAPAN」、未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」ほか、東京2020パラリンピック閉会式では総合演出を担当した。大阪・関西万博では催事企画プロデューサーを務める。

正頭英和(しょうとう・ひでかず)

立命館小学校 教諭、学校法人立命館 起業・事業化推進室 教育プロデューサー。2019年のGlobal Teacher Prizeにおいて、世界150か国以上、3万人のエントリーの中から、日本人小学校教員初となるTop10に選ばれ、「世界の優秀な教員10人」となる。その他には、桃鉄教育版のエデュテイメントプロデューサーなども務めている。主な著書に「世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書」(講談社)など。

本来の自分を生き、多くの“好き”に囲まれること

中島 大阪・関西万博では「いのち輝く」が重要なキーワードになっています。まず、「いのち輝く」とはどういうことか、お二人にお聞きしたいと思います。

小橋 僕が思うのは、自分自身が輝ける「本来の自分のストーリーを描くこと」かなと。でも、本来の自分を知るというのはなかなか難しくて、自分がある種“むき出し”になった先に見つけられるものではないかと思っています。

中島 小橋さんは、よく自分がむき出しになる体験や祭りの意義などを語っていますね。日常の苦しみなどを内包した、非日常の場として。

小橋 はい。本能的というのか、野性的というのか、「生きている」という実感は、いつもの快適な環境から離れた“忘我の体験”の中で得られるものではないかと考えています。

中島 正頭先生は「いのち輝く」とは、どういうことだと思いますか。

正頭 職業柄、「将来役立つスキルは?」とよく聞かれるのですが、AIが発達して社会が様変わりする今、正直もう分かりません。でも、キラキラした人生のイメージというのは割と明快で、それはたくさんの“好き”に囲まれている状態かなと。たとえばAIがどんなに素晴らしい絵を描いたとしても、絵を描くのが好きなら、人は絵を描きますよね。

中島 そうですね。でも、大人になるにつれて他人と比較してしまうのか、「そんなに好きではないかも」となりがちではありませんか。

正頭 本来、好きに上手い・下手は関係ないし、好きを一つに決める必要もありません。もっとみんながのびのびと「好き」と言える環境だといいですよね。あと、今の子どもたちはショートムービーのスピード感で生きているので、好きの賞味期限がすごく短い。なので、様々な好きに出会えるよう多様な体験を用意するのが1段階目なら、次のステップとして「調べたい・作りたい・試したい」といった、より探究的にのめり込めるステージも必要だと感じています。

特別対談企画イメージ
立命館小学校 教諭 / 学校法人立命館 起業・事業化推進室 教育プロデューサー 正頭英和

挑戦しやすい社会が、「未来の学び」を作ってゆく

中島 小橋さんは、そうした「いのち輝く未来の学び」のために何が必要だと思われますか。

小橋 僕は「個の挑戦」だと考えています。一人ひとりの挑戦の先に新しい発見があり、新しい自分との出会いがある。だから、社会は失敗を恐れずに挑戦できるような場であってほしいと思っているのですが……

中島 失敗や弱みって、なかなか開示しにくいですよね。

正頭 失敗や弱みが見せられないのは、見せた時にイヤなことを言う人がいるからですよね。なぜイヤなことを言うかというと、その人には好きなことがないから。人をおとしめることよりはるかに面白いことがあると知っていれば、周囲は気にならないし、「私はこれが好き、あなたはそれが好きなんだね」と対等な関係性が築けます。

小橋 確かにそうですね。挑戦を促す一つの手法としてもう一つのアイデンティティーを持つことも有効かなと。ネット空間にアバターを作る、本業とは別のコミュニティに参加するなど、いつもの自分とは違う自分を持つことで、新しいチャレンジがしやすくなります。

特別対談企画イメージ
大阪・関西万博 催事企画プロデューサー 小橋賢児氏

学びと遊びを分けるのは大人、揺らぎの中で学びを得る

中島 正頭先生は、エデュケーション(教育)とエンターテインメント(娯楽)を掛け合わせた「エデュテイメント」を提唱されていて、子どもたちの大好きなゲーム「マインクラフト」を活用した英語授業で大きな反響を呼びました。

正頭 英語上達の秘訣は、まず間違えて、そのフィードバックによって学ぶことにあるのですが、子どもたちは恥ずかしがって話しません。それで、「グループごとに『マイクラ』で何か作ってみよう。ただしコミュニケーションは英語でね」と言ったら、間違う恥ずかしさよりも、マイクラで遊ぶ楽しさが勝って、どんどんしゃべるようになりました。

中島 学ばせようと思ってはいけないということでしょうか。

正頭 はい。学びと遊びを分けているのは大人であって、そもそも子どもは楽しいか、楽しくないかしかありません。なので、学びのメソッドとして狙った瞬間に、楽しくないものになってしまう。実際に学びになったかどうかはコントロール不可能であり、「いつの間にか学んでいた」というのが望ましいのですが、そのためには十分な時間と空間も必要で、その点は課題です。

中島 私たちが手がけている万博のパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」は、まさに揺らぎのある遊びが大事だよねという発想から生まれました。創造性にとっては、実は無目的で遊ぶ場や時間が大切なのではないかと。

小橋 目的を持つことは悪いことではないですが、目的に縛られてしまうことはありますよね。たとえば、旅もガチガチの予定通りなんて面白くないし、むしろハプニングこそが旅の醍醐味です。

特別対談企画イメージ
大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー 中島さち子氏

デジタルは「創造の民主化」、センスはリアル体験で養う

中島 与えられた設定の中で攻略するようなそれまでのゲームと違い、「マイクラ」は自分で作っていくゲームですよね。

正頭 そうです、ゴールがないですね。

中島 活版印刷技術の発明によって、特権階級だけのものだった「知」が解放されたように、デジタルテクノロジーによって、誰もが双方向に表現できるようになったのは面白いことだと感じています。21世紀はデジタル・アナログ含め、「創造性の民主化」がより促進される時代なのかなと。

小橋 デジタルはリアルを拡張してくれる道具ですよね。リアルではなかなか挑戦できない、参加できないことも、物理的、経済的な障害が取り払われることによって、多くの人にその機会が与えられるようになりましたし、一人ひとりがクリエイターとして表現することも可能になりました。みんながクリエイターとして参加し、つくり上げていく規模感やパワーは相当なものがあります。

正頭 先日、「マイクラ」を使って、廃校のリノベーションを考える授業をしたんです。するとデジタルなので、いくらでもやり直しができて、失敗コストがかからない。子どもたちに、たくさんの失敗経験を積ませることができるのはいいなと思いました。とはいえ、最終的には、リアルに落とし込むことが大切だとも思っています。リアルにおける没入体験は、やはりデジタルの比じゃない。子どもたちの場合、経験上「暗い・裸足になる・水を使う」の3つのいずれかの要素があると、ものすごく惹きつけられる気がしています。

小橋 それは面白いですね。AI時代、これからの人間に必要になってくるのは、「アートセンス」と「ハートセンス」(心のセンス)だと思っています。そして、そのセンス、特に心のセンスというのは、やはりリアルな体験を通じて培われたり、鍛えられたりするものだなというのは、僕も常々感じています。

万博は多様な「民の博」、一人ひとりが共創し、次世代へ

中島 先ほど「創造の民主化」と言いましたが、万博もまた「民の博」だと考えています。みんなで作り上げるものであり、みんながみんなを応援するイベントです。「いのち輝く未来社会」のためには、誰もが新たな挑戦をしやすい、失敗を恐れない社会や文化を作り、みんなでそれを共有していくことも大事になりそうですね。

正頭 成功は、運や才能、経済的なことなど様々な不確定要素を伴いますが、失敗は「それをしなければいい」だけなので再現性があります。失敗の共有は、成功の何万倍も価値があると思いますね。

小橋 万博は、それこそ「未来の実験場」。様々なハプニングや多様な価値観を通じて、一人ひとりが本来の自分を知り、自分をアップデートする絶好の機会になったらと期待しています。

正頭 万博における多様な体験を通じて、子どもたちの好きが増えるといいなと思っています。そして子どもたちが将来、自分の孫世代に自慢話として語れるような万博になることを願っています。

*2024年1月5日に読売新聞朝刊(大阪本社版)に掲載された広告特集を加筆・再構成したものです。

特集一覧へ戻る

トップページへ戻る