社会課題の解決に貢献するインパクトメーカーの育成に取り組む立命館では、そのための活動の一環として、2023年4月に万博学生委員会「おおきに」を発足させました。「おおきに」のメンバーは、大阪・関西万博のテーマ事業「シグネチャープロジェクト」のプロデューサーである中島さち子さんが主催する「いのちの遊び場 クラゲ館」と連携した活動を行っています。今回は「おおきに」の中核メンバーを迎え、活動の現在地について座談会を実施。万博終了後の活動についても伺いました。
Profile
髙木葵凪(たかぎ・るな)さん
万博学生委員会「おおきに」共同代表/総合心理学部2回生
七野あかね(しちの・あかね)さん
万博学生委員会「おおきに」 食班 SusTable リーダー/政策科学部2回生
田中脩斗(たなか・しゅうと)さん
万博学生委員会「おおきに」 環境班リーダー/経済学部3回生
万博学生委員会「おおきに」とは
——「おおきに」は、どのような目的で設立された組織なのでしょう。また皆さんの役割についてもご紹介ください。
髙木:「おおきに」は大阪・関西万博と社会課題に関心のある学生の集まりで、万博を通して社会課題に取り組むことで、メンバーそれぞれが社会に貢献していけるよう、成長していくことを目的としています。現在は、他大学とも連携しながら万博の機運醸成に取り組んだり、社会課題を地球全体の共通課題だと認識してもらうためのワークショップを企画しています。
私自身は「おおきに」の共同代表を務めています。共同代表は執行部の一員として京都にある衣笠キャンパス、滋賀にあるびわこ・くさつキャンパス、そして大阪いばらきキャンパスの各キャンパスに所属する学生計4名で活動を分担しています。執行部以外には、広報や会計を担当する運営部門、ワークショップを企画する社会課題推進部門があり、5つの班がそれぞれ違う社会課題をテーマに活動しています。

七野:私は社会課題推進部門のなかの食班のリーダーを務めています。食班の活動理念は食の社会課題解決を通じて持続可能な食卓形成に寄与することで、現在は食品ロス問題と動物性タンパク質に代わる植物性食品の2つをテーマに啓発活動に取り組んでいます。
田中:僕は社会課題推進部門の環境班のリーダーで、環境問題を自分ごととして多くの人に考えてもらうことを目的に活動しています。
髙木:社会課題推進部門にはあと3班あります。コミュニケーション齟齬の解決法を探るコミュニケーション班。国や文化を超えた理解促進を考える多様性・文化理解班。日本文化の継承を志している日本文化班です。私はコミュニケーション班のメンバーでもあります。
——皆さんが「おおきに」に参加したきっかけを教えてください。
田中:実家が万博記念公園に近く、子どもの頃から万博を非常に身近に感じて育ちました。そのため立命館が万博に向けての企画を立ち上げると聞き、これは参加するしかないと考え、1回生から参加しました。
七野:高校生の時に、規格外野菜を使ったキッチンカーの企画でビジネスプランコンテストに出場したことがあり、仲間と社会課題についての企画を練り上げる楽しさや達成感を知りました。大阪で万博が開催されるなんて一生に一度あるかないかですし、私自身の成長にもつながるのではと思って参加しました。
髙木:1回生の春に、立命館が万博のクラゲ館に協賛していることを知りました。大阪出身なので、万博という世界規模のイベントに参加できたら、自分の人生がとても楽しくなりそうだなと思ったのがきっかけです。
また私は自分から代表に立候補しました。「おおきに」での活動で地域の方とふれ合うことが多く、私たちのワークショップを「楽しい!」と喜んでくれることにやりがいを感じたからです。また代表になると、他大学や万博関係者の方とつながる機会が増えるので、自分の視野がさらに広がると考えました。
企画したワークショップを学内や地域のイベントで開催
——これまでの活動で主だったものを教えてください。
髙木:まず社会課題推進部門の動きとしては、「クラゲ館」での出展を一つの目標として、ワークショップを企画しています。これまで対面やオンラインで、プロデューサーの中島さち子さんや、中島さんが代表の株式会社steAm※の方々から何度もメンタリング(面談)を通してアドバイスをいただいており、今年9月にはOICで「万博ワークショップコンテスト」を開催し、その成果を披露しました。当日は中島さんやsteAmの方々にも来ていただき、内容を審査していただきました。またこのコンテストには私たちだけでなく、同じく万博に向けて取り組む学生団体の茶道研究部や、自律移動型ロボットの開発に取り組む学生団体Ri-one、立命館大学LGBTQ+活動団体rall.なども参加しました。

七野:食班はレクチャー型のワークショップを企画したのですが、もっと体験型にするようご指摘を受け、現在は食品ロス問題について学べるカードゲームを作ろうと試行錯誤中です。その一つとして食品ロスから生まれたキャラクターが出てくるゲームを考えていて、試作段階のものでワークショップを学園祭と地域のイベントで開催し、一般の方の反応をモニタリングしたので、今後さらに改善する計画です。
田中:環境班もはじめは一方通行で教えるような企画になっていたのですが、メンタリングやコンテストを経た現在は、参加者がニュースキャスターになって環境問題のニュースを読むという企画を洗練させている最中です。自分の言葉で環境問題について発信できるようになれば、当事者意識を持ちやすいのではとの考えから生まれた企画で、原稿はあっても自分の考えを入れなければいけないアドリブ要素があるのが肝となっています。

髙木:中島さんやsteAmの方々には、これまでさまざまなアドバイスをいただいて9月のコンテストに臨んだのですが、自分たちの詰めの甘さを実感することが多々ありました。自分たちがワークショップを楽しめても、実際は多様な参加者がいらっしゃるので、誰もが参加できるようなルールや形式にするなど、視野を広くもって取り組まなければと思いました。
田中:そういった学びを活かして、環境班ではOICの学園祭で先ほどのワークショップを実施したところ、小さなお子さんからシニアの方まで参加いただき、楽しんでいただけて手応えを感じることができました。
髙木:また私たちは「クラゲ館」の全体会議にも参加しています。これは月に1回の定例会議で、中島さんやsteAmのメンバー、パートナー企業などから担当者が集まります。
田中:全体会議で僕らは主に、地域イベントなどでワークショップを実施したといった活動や、今後の計画を報告しています。会議全体ではコスチュームデザインなど「クラゲ館」に関わる内容が話し合われているのですが、そこで「若者の考えはどう?」と意見を求められることもあります。
髙木:自分の意見が採用されるかもしれないというのは、かなりワクワクします。

——万博の機運醸成に向けては、どういった活動をされていますか?
七野:立命館の外に目を向けるとまだまだ万博についてあまり深く知られていないのではないかと感じています。私たちは活動を通じて万博の楽しさや魅力を理解できているので、それを広く世間一般に伝えていきたいと考えています。
髙木:外部の方だけではなく、立命館のなかにも万博をよく知らない学生が多いのではと感じます。まずは立命館の学生に万博の魅力を伝えて、文系・理系の力を合わせてできることを増やしたいです。立命館を起点に、他の大学や社会人の方を巻き込んでいけるような組織に「おおきに」を育てたいです。また、12 月に「おおきに」と同じく万博に向けて活動する学生団体が一緒になって、お互いのワークショップ案を鍛え合うためのイベントを企画していて、それぞれの取り組みについて意見交換し、お互いに取り組み内容をより高めていけたらと思っています。
七野:機運醸成という意味では、「おおきに」とはまったく別で活動している団体の方がリードしているかもしれません。2024年9月に、万博の大屋根リング記念式典で、書道部がダイナミックな書道パフォーマンスを披露したんです。私たちが目指していることをすでに実現しているなと思いました。
田中:同じ立命館の学生として負けていられないですね。
髙木:私たちは自分たちの関心がある社会課題を軸にしているんですが、彼女らは自分の好きなことや得意なことをベースに活動しています。道は違うけれど向かっている目標の一つは一緒というイメージです。
万博がゴールではない
——「おおきに」に参加した当初と今を比べて、ご自身に成長や変化はありましたか。
田中:大勢の社会人の方々の前で自分の意見を発表することに物怖じしなくなりました。全体会議などで鍛えられましたね(笑)。皆さん本当に学生の意見を貴重なものとして扱ってくださるので、それだけに自分も考え抜いて発言しなければという意識も高まりました。
髙木:私は共同代表としての自覚が出てきました。というのもここ最近、街なかやキャンパスで「『おおきに』の共同代表さんですよね?」と自分を知ってくれている学生から声をかけられることが増えたからです。他の団体や企業の方とお話するときの私の立場は、「おおきに」の共同代表です。公での立ち居振る舞いはもちろん、プライベートでもきちんと行動しないと!と考えるようになりました。
七野:私は台本がないと人前でうまく話せないタイプだったのですが、班リーダーになってから、万博への取り組みを取材されたり、その一環でMBSラジオの番組「ばんぱく宣言」に出演させていただいたりする機会が増えたことで変われたように感じます。「日経EXPOフォーラム」でもトークセッションに登壇させていただいたのですが、台本がなくても意外にスラスラ言葉が出てくる自分に驚きました。

——あらためて感じる「おおきに」の魅力について教えてください。
田中:「おおきに」の一番の魅力は、学生がやりたいことに大学や関係者の方々が真摯に向き合い、サポートしてくれる仕組みが整っているところだと思います。
髙木:学生には自由に過ごせる時間が多くあります。そこで遊んで楽しく過ごすのも悪くありませんが、「おおきに」に所属している自分は普通の大学生活とは一味違う場所にいるという感覚があります。興味を持つ社会課題に対して、企画を考え、社会の第一線で活躍する方々からフィードバックをいただくことができ、万博に出展できる可能性もある。とても素敵なことだと感じています。
七野:「おおきに」には、社会課題に対して自分の考えをもったいろいろな学生が集まってくるので、一つの問いに対してもさまざまな視点から意見が返ってくるのがおもしろく、自分の学びにもなります。企画を考えていても可能性が広がるというか…。
田中:やはり社会課題に関心を持って自主的に参加してきたメンバーたちなので、相対的に真面目で優秀な学生が多いのかな。今年新しく入ってきたメンバーも「こういうことをしたい!」という想いが非常に強いので、お互いに高められる環境だなと感じています。

——万博開催後、「おおきに」の活動をどのようにしていきたいとお考えですか?
髙木:プロデューサーの中島さんは「万博開催が目的でも、開催して終わりではない」と繰り返し語られています。「おおきに」にとって万博はあくまで通過点。私たちが社会課題にそれぞれ取り組んでいるのも、学生として社会に大きく貢献したいのと、卒業後もこの取り組みでの経験を活かしていきたいとう気持ちがあるからです。もちろん企画したワークショップが万博で採用されるとうれしいですが、その先を意識するようにしています。
七野:食班では、万博に向けては食品ロスと植物性食品にテーマを絞っていますが、班員の中には他の食料問題に関心を持っているメンバーも多いので、万博後は取り組むテーマの範囲を広げて活動を続けていきたいです。
田中:僕は3回生ですので、万博が終わったら班での活動は引退することになると思います。だけど企業の方々との縁もできたので、より積極的にアドバイス等をいただいて、環境班の取り組みを発展させるために貢献できればと思います。万博を通じて得た経験をもとに、社会に良い影響を与えていける人間に成長していきたいですし、そうした取り組みが立命館にも継承できれば良いなと思います。
万博学生委員会「おおきに」
大阪・関西万博のクラゲ館に協賛・連携する立命館万博連携推進本部のもと、学生部・学生オフィスが支援する学生団体として設立。執行部のほか、運営部門と社会課題推進部門、テーマ別プロジェクトチームがあり、「おおきにパートナー団体」と連携しながら活動。現在、衣笠キャンパス、びわこ・くさつキャンパス(BKC)、大阪いばらきキャンパス(OIC)で学ぶ16学部から参加した、1~3回生100名以上がコアメンバーとして参画しています。
■社会課題推進部門
【食班(SusTable)】
持続可能な食卓形成を目指し、食品ロス問題や、動物性食品の代替となる植物性食材の普及に取り組む。
【環境班】
環境問題に対する当事者意識の啓発を目標に活動。教育団体等と連携してのワークショップ活動推進を目指す。
【コミュニケーション班(CWA)】
コミュニケーションにおける意思疎通の齟齬を捉え、ノンバーバルコミュニケーションを活用したゲームを企画中。
【多文化・異文化理解班(遊びでつなぐ)】
異文化理解を深める手段として「遊び」を提案。各国の言語で書かれた海の生き物を完成させるゲームを企画中。
【日本文化班(桜)】
日本文化継承をテーマに活動。万博では「祭り」をテーマに日本文化にふれる手作り体験や、和服の装い体験を企画中。
■共創チャレンジ
社会課題推進部門の5班は、大阪・関西万博の「共創チャレンジ」に登録しています。
https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge
■本件に関するお問い合わせ
「おおきに」について
立命館大学 学生オフィス(OIC) oic-sa1@st.ritsumei.ac.jp
報道・取材依頼について
https://www.ritsumei.ac.jp/forms/inquiry/press/form/