この『2022年度全学協議会確認文書』は、2022年10月28日に公開で開催した2022年度第1回全学協議会での議論を中心に、全学協議会開催に至るプロセスを通じて行われた今後の大学づくりについての協議内容をまとめたものです。
本文書は全2章で構成しています。全学協議会で設定された議題にもとづいて、第Ⅰ章は「2019年度全学協議会以降の議論経過と今後の教学・大学づくりに関わる議論に向けて」、第Ⅱ章は「R2030チャレンジ・デザインの今後の取り組みに向けて」とし、最後に、2022年度の協議を重ねる中で確認された全学協議会の意義と将来的な展望の方向性を示しています。

全学協議会とは

全学協議会は、本学において、大学という「学びのコミュニティ」を構成する学部学生(以下、学生という)、大学院生(以下、院生という)、教職員および大学が、教育・研究、学生生活の諸条件の改革・改善に主体的に関わり、協議するために設置された機関です。全学協議会は、大学を構成する全ての構成員が自治に参加する「全構成員自治」の考えのもと、学生の自治組織である学友会、院生の自治組織である院生協議会連合会(以下、院生協議会という)、教職員組合、大学(学部長が理事として参加する常任理事会)の4つのパートと、学生生活を支援する立命館生活協同組合(オブザーバー)で構成されています。
2022年度は公開での全学協議会に先立って、2022年6月3日に、各パートの代表者が出席する全学協議会代表者会議を開催しました。

立命館学園の中期計画と全学協議会での議論

立命館大学は普遍的な価値の創造と人類的な諸課題の解明のため、持続的に教育・研究の質向上や多様化を推進してきました。
2010年度に策定した中期計画R2020では、「Creating a Future Beyond Borders ⾃分を超える、未来をつくる」を掲げ、計画期間(2011~2020年度)を通じて、教育と学びの質転換、グローバル化を基軸とした各学部・研究科における教学展開、大学院政策および研究高度化、教育基盤の整備・拡充に取り組んできました。このR2020期間には、2011年度、2016年度、2018年度、2019年度に公開での全学協議会が開催されました。これらの全学協議会では、学生・院生の主体性・能動性を育む「学びと成⻑」を軸とした議論が展開され、学費・財政政策に関しても、中期計画や社会情勢変化とともに「学びと成長」を学生・院生がどのように実感できているかという観点をふまえた学費の重みが議論の重要なテーマになりました。
大学は、2021年度からスタートする10年間の中期計画R2030として、2018年度には学園ビジョンR2030「挑戦をもっと自由に Challenge your mind Change our future」を定めました。その後、2020年度には、新型コロナウイルス禍によって社会・生活全体に大きな混乱と変化がもたらされる中、学園ビジョンの実現を目指す基本課題としてR2030チャレンジ・デザインを策定しました。新型コロナウイルス禍によってそれまでの当たり前が一変し、確定的な将来像を描くことの困難性が生じました。また同時に、従来は想定していなかったような新たな展開が生まれる可能性も想定する必要があり、これらの観点をしっかりとふまえながら中期計画を策定・遂行することが求められることになりました。
2020年度および2021年度に行われた全学協議会代表者会議では、新型コロナウイルス禍による混乱に伴う学習・学生生活の厳しい実態についての学生・院生からの指摘を真摯に受け止めつつ、緊急事態下にあっても学びを継続するために取り組むべき対応策、そしてその前提となる大学としての基本的な姿勢や考え方について議論を行いました。その議論は、立命館が研究・教育機関として提供する価値や、不確実性の時代の中で、共に学び続け、成⻑し続けることの重要性への認識を深める機会となりました。さらに、大学、教育、研究のあり方に関わる論点のひとつとして、全学協議会の意義や議論のあり方をあらためて捉え直す契機にもなったといえます。
2022年度の全学協議会では、このような議論経過をふまえ、R2030チャレンジ・デザインの具現化に向けた⽅向性を示す議論、今後の教学・大学づくりのあり方に関わる議論が求められることとなりました。

第Ⅰ章

2019年度全学協議会以降の議論経過と
今後の教学・大学づくりに関わる議論に向けて

1.2019年度全学協議会と新型コロナウイルス禍の中での全学協議会代表者会議(2020年度・2021年度)

2019年10月に開催された前回の全学協議会では、「学びの実感」が重要なキーワードのひとつとなりました。学びの実感は、新たな挑戦や目標に向かう力の源泉となります。
大学は、この全学協議会の議論において、①学生一人ひとりが確かな学びの実感を得ながら充実した大学生活を送ることをいっそう重視すること、②キャンパス内外において、学びの楽しさと成果を実感できる場を学生と教職員がともに創り上げていくこと、③より一層の大学院教学の充実につながるよう、院生の実態やニーズを十分に把握した上で施策を実践すること、などを確認しました。また、学友会は、学費・財政政策が、教学課題や学生生活をはじめとした学園創造との関わりの中で議論されるべきものであるとの立場を示した上で、①今後の学費について協議するにあたり、前提となる学園財政などについての情報公開・提供といった可視化の取り組みを⼗分に行うこと、②可視化された情報を踏まえた財政に関わる学習会や懇談会といった機会を持つこと、③2030年度にむけた中期計画において学費への依存度を下げる取り組み(寄付、資産運⽤等)を具体化すること、についての要望を出しました。院⽣協議会は、2017年度に大幅に引き下げられた⼤学院学費が維持されたことを高く評価し、この考え⽅を継続することと合わせて、キャリアパス支援制度のさらなる⾼度化に対する要望を出しました。
その直後の2019年度末から新型コロナウイルスが急速に蔓延し、世界的な危機状態に陥りました。⼤学は、学生・院生の学びを止めないための緊急対応に取り組むことを表明し、オンライン・ハイブリッドでの授業・教育環境の整備、図書資料の学外(自宅等)利用対応、感染拡大防止の環境・設備整備、学生・院生・生徒等への経済支援等をいち早く実行しました。
新型コロナウイルス禍によって、社会経済活動、学習・学生生活に深刻な影響がもたらされる中で、学生・院生の声、学生・院生実態を直接受け止め、大学と学生・院生が対話する場として、2020年度および2021年度に全学協議会代表者会議が開催され、大学からは総長も出席しました。本来、2021年度は公開での全学協議会が開催される年でしたが、新型コロナウイルス禍による影響などにも鑑みて、2021年度までの学費政策および授業料改定方式を1年延長して2022年度入学者に適用することを大学から各パートに説明し、2022年度にあらためて公開での全学協議会を行うこととしました。
2020年度および2021年度の全学協議会代表者会議における議論の中で、学友会は全学アンケート(学友会主催)において、新型コロナウイルス禍に伴う学習や学生生活の変化・混乱を背景に、学費の返還を要求する声が挙がっていることなど厳しい学生実態を示しました。学友会と大学は、このような事態を重く受け止め、根源から学生の声に応えるために、また「学生の学ぶ意欲を止めない」ために、学生の満足する授業とは何かという本質的な議論が重要であり、大学での学びを充実したものにするための議論の必要性を共通の認識としました。
この議論は、2019年度全学協議会における「学びの実感」についての議論からつながるものといえます。大学、そして大学の教学が過去・現在・未来の時間軸の中で運営されていることや、「よりよい⾃分、よりよい社会を探し求めて、学び、成長し続けることの⼤切さ」を再認識し、人生を通じて学び続ける場としての⼤学の使命や価値の視点に立って、全学協議会における教学や学費・財政政策に関する議論が展開されることになりました。これらの議論を通じて、大学は、学費の重みに応える教学の考え方を各パートに説明してきました。学友会は、それに呼応する形で、「大学が学びの価値提供を止めず、学生の成長実感を促す支援を今後も継続することの観点で学費・財政政策が位置づけられているという理解にある」ことの見解を示しました。この上で、学友会は「大学が学費・財政政策を議決する前に、その決定に関わる考え⽅や背景となる情勢認識について、⼤学側から丁寧な説明を受け、しっかりと理解する機会を設けてもらいたい」という趣旨の要望を2021年度全学協議会代表者会議(2022年1月開催)において主張しました。

NEXT:第Ⅰ章 2019年度全学協議会以降の議論経過と今後の教学・大学づくりに関わる議論に向けて2.2022年度全学協議会代表者会議の意義を踏まえた2022年度全学協議会の位置づけ

2.2022年度全学協議会代表者会議の意義を踏まえた2022年度全学協議会の位置づけ

2021年度全学協議会代表者会議での学友会からの要望を受け、2023年度以降の学費・財政政策の提起・議決に先立って、⼤学は学友会と、学費・財政に関わる懇談会を積み重ねてきました。4回にわたる懇談を経て、大学と学友会は、①私学における学費の性質、②学費の性質を理解した上での⽴命館大学の学費・財政政策、の2点について共通の理解を持つことができました。公費助成の根本的な問題がある中で、私学における学費は現在の学生が受ける様々な教育活動に要する経費の基幹的な財源であると同時に、過去・現在・未来の長期的な時間軸の中で持続的に教育条件・環境を整備する観点で学費・財政政策が運営されています。また、収入の大部分が学費によって支えられている財政構造を踏まえた上で、立命館大学における学費・財政政策の到達として、他大学と比べて低い水準となっている収支差額や収入に対する学費の割合(依存度)等についても、懇談会を通じてしっかりと確認しました。
2023年度以降の学費・財政政策については、2022年6⽉3⽇に開催された全学協議会代表者会議において、検討・審議の過程にある内容について大学からの説明と各パートとの議論を⾏ない、その後、2022年6月15日に大学として決定しました。また、この全学協議会代表者会議以降、財政の公開・可視化への取り組みとして、大学は学友会と複数回にわたって意見交換を実施し、学友会からの意見を踏まえてR2030財政運営や財務状況等についてのホームページを刷新し、学生・院生に広く見てもらい、より理解しやすくなるよう工夫をしました。
全学協議会代表者会議での議論を通じて、大学と学友会は、公開の全学協議会では、学費を財源として実施される教学・学生生活に関する諸施策にいっそう焦点をあてた議論を行うことの方向性を確認しました。学友会は、公開の全学協議会にむけては、現在の学生の学生生活に関わる課題とともに、未来の学生に対する教学創造・教学改善の視点、つまりはR2030チャレンジ・デザインの実践を通じた将来の大学像の視点で、実質的な意見交換ができる懇談等の場を設けることの要請を出しました。また、院生協議会は、2022年度の全学協議会では、過年度から継続する院生のキャリアパスに関する議論を中心に行いたいとの要請をしました。こうした要請に応じて、大学は、懇談会等を設けて各パートとの議論を継続することを表明しました。
全学協議会代表者会議以降、大学と学友会は、教学に関連する懇談会を設け、R2030チャレンジ・デザインについての理解を互いにすり合わせながら、公開の全学協議会で議論するに相応しい具体的なテーマについて、それぞれの意見を出し合いながら検討しました。大学と院生協議会は、身近な課題を解決する懇談会を積み重ねつつ、並行して公開での全学協議会に向けたテーマについて、協議を行いました。これらの中で見出されたテーマについての議論は第Ⅱ章に取りまとめています。

3.今後の教学・大学づくりに向けた学生・院生の参画のあり方について(2022年度全学協議会での議論)

2021年度全学協議会代表者会議以降に実施された各種懇談会、2022年度全学協議会代表者会議、そして公開で行われた2022年度第1回全学協議会を通じた議論は、学園ビジョンR2030の実現にむけて、学生の声を聞きながら大学の施策を検討・具体化するという大学づくりのあり方や、今後の「大学づくりにおける学生・院生の参画のあり方」について模索し、先行的に実践する機会となりました。
2022年度第1回全学協議会において、学友会は、教学・大学づくりや学費・財政政策に関わる議論への参画について、①今後の学費・財政政策の決定に先立って、学友会との議論の場を設けること、②教学施策等の効果検証を行う際、また、それを踏まえた教学維持改善費を適⽤する際には、適切なタイミングで⼤学から学友会への説明の機会を設け、議論の機会を担保すること、③学費使途としての教学や大学づくり等の政策・施策に関して、決定への同意ではなく学友会の参画機会として双⽅の情報共有や議論を行う場を継続的に設置することの3点について要望しました。また、院生協議会からは、全学協議会は院生協議会のみでは解決できない研究環境の整備・充実の課題を前進させる場であるとの認識が示されました。あわせて、全学協議会における課題の前進とは、個別課題の具体的解決策に限らず、例えば学費と教学条件のバランス等、政策を考える上での中期的な方針についての議論が含まれるという見解が述べられました。
これらを踏まえて大学は、2022年度の公開での全学協議会までの議論の到達点を前提として、①学費・財政政策に関わる学友会との議論の場を設けること、②学生・院生のみなさんと教学や⼤学づくりに関わる多層的な議論の場を設けること(学部五者懇談会、⼤学各組織との懇談会の機会)を表明しました。また、これらの学部五者懇談会での議論や⼤学各組織との懇談会での議論は、未来の教学・大学づくりに向けた学生・院生の参画のあり方にも密接に関係するものであり、そのコーディネートは学生部が中⼼となって行うことを確認しました。
不確実性の時代にあって、今後の⼤学づくりにおいては、これまでの⽅法や枠組みを前提としない、新たな価値創造を⽬指すことが必要になります。このために、⼤学があらかじめ今後取り組む施策等を答えとして用意・提示し、その是⾮を問うということではなく、現在の、そして未来の学生・院生にとって何が必要かについて、⼤学と学生・院生がより対等な⽴場でアイデアや考えを交換し、取り組み施策の検討・具体化につなげるプロセスが必要となります。
各種の懇談会を含む2022年度の全学協議会議論では、学友会が実施したアンケートや⼤学が示す各種データ等、現在の課題や実態に関する様々なエビデンスを用いて理解を共有し、今後の方策について意⾒を交換しました。この意⾒交換は、「相互の深い理解に基づいて、将来の大学をかたちづくる創造的な対話」であり、⼤学らしい知的な営みを学生・⼤学とで創り上げることができたといえます。
全学協議会は長い歴史を持つ、立命館が誇るべき大切な財産です。全学協議会における学友会・院生協議会との議論・協議は、外部評価機関である大学基準協会による認証評価(2018年度)においても、学修者本位の観点を踏まえた質保証を推進する仕組みとしてその意義が認められています。もちろん、そのあり様は時代に応じて発展・変化をしてきましたし、これからもそうあるでしょう。新型コロナウイルス禍を経たさまざまな課題や可能性に直⾯している時代にあって、今回の全学協議会では、現在の学生・院生が直面する実態や課題について議論することを通じて、R2030の実現、すなわち未来の学生・院生の教学創造に向けた議論が展開されました。これは、立命館で培われてきた経験と特色を基盤としながら、⼤学と学生・院生のみなさんとの対話のあり⽅、共同的な教学創造、学生・院生支援のあり⽅の構築にむけた第⼀歩になったといえます。

4.今後の教学・大学づくりに向けた2022年度全学協議会における確認点

2022年度の全学協議会は、2つの点で歴史的な意味を持つ全学協議会でした。1つ目は、R2030の実現という未来に向けた取り組みを、各パートが当事者として、まさに探究しながら議論を進めることができた点です。そして2つ目は、立命館がこれまで大切にしてきた全学協議会の役割や機能、価値を改めて認識した点です。
学友会からは全学協議会議論における自身の責任について、以下のとおり再認識・再構築したことが表明されました。

  • 大学が考える学費や財政政策の取り組みを理解した上で、学費の使途としての学びのあり方について議論すること。
  • 現在、そして未来に予測される状況に共に向き合い、大学と共によりよい大学づくりを考える存在であること。

仲谷善雄総長からは、「2021年度全学協議会代表者会議以降の議論は、立命館が培ってきた全学協議会という制度の価値を、現代的な視点に立って実質的に高める取り組みであった」と述べられ、こうした議論を形成した学友会および院生協議会の真摯な取り組みへの謝意が示されました。
また、他の大学にはない、全学協議会という稀有な制度を持つ立命館大学だからこそできる教学・大学づくりに関して、以下の点を整理し、学友会と確認しました。

  • 教学および学費等の諸政策について、大学はその決定と責任を負うことが前提であるが、政策の検討や検証プロセスにおいては、各パートにはそれぞれ大学づくりの当事者としての役割があること。
  • こうした役割認識のもと、それぞれの意見を尊重する「対話」を行うことで新たな価値や共通の課題を発見し、実質的に大学づくりに関わる機会となること。
  • こうした全学協議会の役割や機能を活かし、大学づくりとして共に政策を考え、その取り組みを互いの立場から評価することは、結果として立命館の大学づくりにおける自主的・自律的な質保証を支える仕組みとなっているということ。

2022年度全学協議会代表者会議は、大学が決定した後の学費政策に対して協議するという従来のあり方から転換し、その決定までのプロセスの一環に位置付けて開催されました。ここでの議論は、授業料改定方式や学費額それ自体の良し悪しのみではなく、学費政策の背景となる社会情勢や財政状況、財政運営の考え方についての認識や、それらを踏まえた学費政策の趣意に対する理解を深めるものとなりました。
教学および学費等の諸政策について、大学がその決定の責任を負うことを前提としつつ、その決定に先立つ学生・院生との議論の進め方について、以下の事項が確認されました。

  • 教学施策等の効果検証を行う際、また、それを踏まえた教学維持改善費を適⽤する際には、大学は適切なタイミングで学友会への説明の機会を設け、議論の機会を担保する。
  • 教学や大学づくり等の政策・施策の展開に関しては、代表者会議等を開催し、各パートとの情報共有や議論を行うことを今後も継続する。

これらは、2021年度全学協議会代表者会議以降に重ねられてきた学費・財政政策に関する懇談・意見交換の到達として、全学協議会における学費政策議論のあり方の画期となる意義深いものであり、公開での全学協議会でも改めてその内容について確認されました。

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