材料の性能はその材料を構成する原子の組成・分子の構造(1次構造)だけでなく,原子・分子の集積構造(高次構造)にも強く影響されます。例えば,生体の中では機能分子が集積しており,この分子集合体の構造を精密に制御することで,生体材料は合成材料では実現困難な高い性能・機能を発揮し,生命活動を行っています。合成材料においても,高分子の集積構造(分子の鎖の並び方)を最適化することで,ポリエチレンのようなシンプルな分子から鉄よりも力学的に強い材料が得られます。このように,材料の高性能化・多機能化を考えた場合,材料中における原子・分子の集積構造をいろいろな階層で精密制御(階層的構造制御)することが非常に重要であるとわれわれは考えています。
「創発」とは部分の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れる現象です。材料を構成する原子・分子の世界の微視的領域(ナノメーター領域)から人間の素手で扱えるような巨視的領域(ミリメーター以上の領域)にいたる各階層で構造を制御し最適化する「階層的構造制御」技術を確立して,個々の原子・分子の単なる総和を超越した機能と性能を創発することが当研究室の目標です。
このような基本的な考え方に基づいて,当研究室では,
などの研究を行っています。現在進行中のテーマのいくつかを下記に簡単に紹介します。
金(Au)を分子内に含む化合物は分子間で相互作用が働くと発光します。この相互作用はAurophilic Interactionと呼ばれており,水素結合と同じくらいの強さがあります。このような化合物は分子間相互作用が発現するときだけ発光するので,分子の凝集構造を変えることで分子間相互作用を制御すると,発光特性も変わる可能性があります。実際に当研究室で合成した化合物は,加熱により結晶 → 液晶 → 等方性液体と状態が変わることで発光の色や強度が変化することを明らかにしました。
現在,照明として実用化している白色LEDは,1種類の発光体で白色光をだしているわけではありません。「光の三原色」である赤,緑,青に光る3種類の発光体を使って白色をだしたり,青と黄色の2種類の発光体を組み合わせて白色に見えるように工夫しています。しかしながら,このような白色LEDのスペクトルは太陽光のような自然光のスペクトルとは異なっています。室内照明の場合,従来の白熱電球のような太陽光に似た色が好まれるため,白色LEDでも太陽光のスペクトルに近づけることが課題となります。
当研究室では,たった1種類の化合物のみで太陽光に似たスペクトルで白色光をだす高分子の開発に成功しました。この化合物は,分子の構造が非常に単純であり,レアメタルや貴金属も含まないため簡単・安価に合成できます。また,柔軟性をもち,薄膜状に成形することも容易であるという特徴をもちます。1種類の発光体だけで白色に光るので,有機LED照明などに利用すると,デバイスの構造をいまよりも単純化でき,デバイス製造プロセスの簡略化・低コスト化・低エネルギー化に貢献できると考えられています。また,天井や壁一面が光る照明装置や,複雑な曲面をもつ照明装置・ディスプレイなどが実現できると期待できます。
この研究は,日経産業新聞 2013年9月2日付朝刊,日刊工業新聞 2017年5月29日付朝刊にも掲載されました。
近年,産業のあらゆる領域で「力を可視化する技術」が求められています。例えば,自動車開発の現場では,シミュレーション技術を駆使して車体における力の分布を可視化することで強度・剛性,衝突安全性など基本性能を解析し,車体構造を最適化しています(Computer Aided Engineering, CAE)。また,ロボットは各部にかかる力の大きさを計測しながら動作を制御するため,力を計測するセンサーはロボティクスにおいても最重要な部材です。われわれは「力を可視化する材料」として,力を加えて変形することによって色の変わる高分子材料の開発に成功しました。この材料はゴムのような素材でできており,下の写真のように,引き延ばしたり,圧縮したりすると色が変化します。色の変化によって,力の大きさや分布を「見る」ことができるようになりました。
高分子だけで組み立てられる”ソフトロボット”の実現などに貢献すると期待されます。
この研究は,日経産業新聞 2018年10月12日付朝刊にも掲載されました。
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高分子材料中で分子を並べる方法を開発しています。特に,らせん状に分子が自発的に配向する「キラルネマチック液晶」を用いて,らせん軸の並び方を精密制御しながら,微粒子やフィルムを創成する技術の開発に成功しました。例えば,らせん軸が放射上に配向した単分散高分子微粒子(直径 = 2 µm)を非常に簡便な方法で作成することなどに成功しています。
ポリオキソメタレートは金属酸化物の巨大分子です。ある単純な構造がたくさん結合して1つの巨大分子になっているので無機高分子の一種と考えることができます。当研究室では,ポリオキソメタレートの一種である大環状ポリオキソモリブデート(POxMo)に着目し,POxMoと液晶分子を組み合わせて凝集構造制御を行っています。当研究室では,POxMoを合成する条件を最適化するとナノメータの空孔が規則正しく配列したナノホールアレイ構造をとることを発見しました。また,有機液晶分子と複合化することで,凝集構造が制御できることも見いだしました。
直径数ナノメーター程度の金ナノ微粒子は量子効果に基づく興味深い物性を示すことから注目されています。われわれは,このナノ微粒子の表面に液晶分子を結合して,液晶の自発的な配向性により金ナノ微粒子を自己組織化することを検討しています。液晶分子を導入することで,一次元や二次元の規則構造を示すことや,界配向規制力により任意の方向にナノ微粒子を配列できることを発見しました。
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