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RBS通信

2026.01.08

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挑戦と創造、その先へ。

観光の最前線から、世界標準の「答え合わせ」へ。―ニュージーランドで見つけた、組織と人がフラットに向き合う未来

立命館大学ビジネススクール(RBS)は、多様な人々が挑戦を通じて自らの可能性を切り拓く「挑戦するプラットフォーム」です。この連載では、その舞台で挑戦し、創造し、その先へと歩みを進める学生、修了生、教員の姿を紹介します。

RBS観光マネジメント専攻は、世界標準のマネジメント理論と観光の現場経験を往復しながら学びを深めていくことを重視しています。第5回となる今回は、そうした環境で学ぶ社会人学生を取り上げます。東京観光財団(TCVB)で東京の観光振興を担いながらRBSで学び、ニュージーランドでの調査インターンシップに参加した髙橋あす香さんのストーリーを紹介します。

今回の「挑戦する人」

髙橋あす香(たかはしあすか)さん

RBS観光マネジメント専攻 観光事業マネジメントプログラム2回生。
2006年に大手飲食チェーンに入社。その後、米国への留学を経て、2011年に旅行会社へ入社。2013年より公益財団法人東京観光財団(TCVB)に勤務。インバウンド黎明期のプロモーションから国際会議(MICE)誘致、総務、地域振興まで、東京の観光行政を幅広く支え続けている。

インタビュアー
安藤采子(あんどうあやこ)さん(RBS観光事業キャリア形成プログラム2回生)

幼少期から琉球舞踊を習い、伝統芸能が持つ観光資源としての可能性に気づき、観光業界への就職を目指している。

インタビュアー
亀田仁太郎(かめだじんたろう)さん(RBS観光事業キャリア形成プログラム2回生)

立命館大学経営学部を卒業後、観光学と、より実践的な経営学を学ぶべく当研究科に進学。現在は三木ゼミにて地域資源を活用した地元地域のまちづくりについて研究中。将来的には地元地域の観光事業に携わり、地域活性事業や観光促進事業に携わることを目指している。

「楽しさ」だけでは戦えない――観光業の地位への違和感

髙橋さんのキャリアの原点は、飲食業界の現場です。大手外食チェーンで副店長として店舗運営に携わり、昼12時から夜12時まで勤務し、さらに早朝研修もこなすというハードな日々を送っていました。

髙橋さん:「当時はまさに体力勝負の毎日でした。『この働き方は長くは続けられない』と感じる一方で、お客様に喜んでいただくこと自体はとても楽しかったのです」

現場での手応えはありましたが、過酷な労働環境と、それに見合わない社会的な評価には強い疑問を感じていました。

髙橋さん:「観光業もホスピタリティ産業も大好きなのですが、産業としての地位が低いことがずっと悔しかったのです。仕事はこんなに楽しいのに、対価や評価がなかなかついてこない。その現状にもどかしさを感じていました」

その後、カリフォルニア大学アーバイン校に留学し、マーケティングやホスピタリティを学びました。現地でのインターンシップでは、剣道の指導や防具の販売を通じて「海外の人に日本文化を伝える」経験を積みます。この経験が、インバウンド観光への関心を決定づけました。

2011年に帰国した当時、日本ではまだ本格的なインバウンドブームの前でしたが、「外国人旅行者を日本に呼び込みたい」という思いから旅行会社に入社。2013年には東京観光財団に移り、航空会社と連携したプロモーションや、国際会議の誘致に向けた数年後のホテル客室の調整など、インバウンド黎明期の実務に奔走してきました。

働きながら学ぶ――RBSを選んだ理由

多忙な業務を続けながら、髙橋さんがRBSで学ぼうと決めた背景には、「学位をきちんと取得したい」という思いがありました。

髙橋さん:「アメリカ留学時に取得したのは履修証明で、学位ではありませんでした。アメリカでは学位の有無が重視されますし、自分の経験に理論的な裏付けを持ち、プロフェッショナルとしての説得力を高めたいという気持ちが、ずっと心のどこかにありました」

コロナ禍で業務が一時的に落ち着いたタイミングで、改めて学び直しを検討します。その時に「観光MBA」を掲げたRBSの開設を知り、進学を決めました。
RBSを選んだ理由として、髙橋さんは「働きながら学び続けられる仕組み」を挙げます。

髙橋さん:「実際にキャンパスに行って受講するほうが得るものは多いと思いますが、すべての授業に対面で参加するのは現実的ではありません。その点、オンラインを活用しながら履修を組み立てられるRBSの仕組みは、仕事との両立という意味で非常に助かりました」

加えて、職場の休暇取得に対する理解も大きな支えになりました。有給休暇と夏季休暇を組み合わせて一定期間まとめて休むことができ、後述するニュージーランドでの調査インターンシップには10日間の休暇を取得して参加しています。

RBSは「異世代」と出会う場――学生との対話から得たもの

RBSでの学びで印象的だったのは、科目内容だけではなく、「異なる世代・立場の人たちとの対話」だったと髙橋さんは振り返ります。

髙橋さん:「東京観光財団では、ここしばらく新卒採用がありませんでした。そのため、20代前半の人たちが何を考え、どのように観光業界を見ているのか、直接聞く機会がほとんどなかったのです」

一方で、観光プロモーションにおいては、若年層、とくに若い女性が重要なターゲットセグメントとなります。しかし職場の意思決定層は男性が中心であり、「ターゲット本人の感覚」と「組織の感覚」の間にギャップが生じがちです。

髙橋さん:「RBSでは、そうした世代の学生が隣の席に座っています。授業後に雑談をしたり、就職活動の相談に乗ったりするなかで、『この世代はこういうふうに考えるのか』と気づかされることが非常に多くありました」

観光業を志す学生と接すること自体が、髙橋さんにとっても励みになっていると言います。

髙橋さん:「現場の大変さを知ったうえで、それでも観光を志望してくれる学生がいることは、私自身にとっても希望です。この業界にはまだ可能性があると感じさせてくれる存在だと思います」

ニュージーランドで見つけた「フラットさ」と「スピード感」

RBSでの学びを深めるなか、西本教授の紹介により参加したのが、ニュージーランドでの調査インターンシップです。Tourism New Zealand(TNZ)をはじめとする観光関連組織や現地自治体、大学等を訪問し、ビジネスイベントや観光政策に関するヒアリングを行いました。

髙橋さん:「形式としてはインターンシップですが、実態としては、観光政策やビジネスイベントに関するヒアリング調査に近い位置づけでした。1週間ほどの滞在期間のなかで、多様な組織の方々から話を伺うことができました」

そこで強く印象に残ったのが、「組織文化のフラットさ」と、それに支えられた意思決定のスピードです。

髙橋さん:「日本の公的機関では、隣の部署と調整するにも、いったん上長に上げて、そこから横展開し、また現場に落とすというプロセスが一般的です。その話をニュージーランドの方にしたところ、『隣にいるなら直接話せばよいのでは』と言われて、根本的な前提の違いを実感しました」

情報や意思決定が縦方向に何段階も流れる日本の組織と、担当者同士が直接対話しながら進めるニュージーランドの組織。その違いは、観光施策のスピード感や柔軟性に直結していると痛感したそうです。

加えて、ニュージーランドでは、観光政策全体が「理念」と「データ」の両面から支えられている点も印象的でした。マオリ語で「守る」を意味する「Tiaki Promise(ティアキ・プロミス)」は、土地や人々を守るために旅行者・地域・事業者が守るべき原則を示したもので、持続可能な観光を推進するために国全体で共有されている行動指針です。そのうえで、観光の影響を計測するデータが整備され、理念と数値の両方に基づいて議論が行われていました。

大学のエコシステムから考える「挑戦の場」

調査インターンシップでは、現地大学の役割にも注目しました。ビジネスイベントの視点から訪問した2つの大学では、キャンパス全体が「挑戦のフィールド」として機能する仕組みが整備されていました。

髙橋さん:「印象的だったのは、大学の中にイベント運営を専門とする部門が置かれていたことです。学外・学内のイベントの相談窓口を一元化し、講堂やフィールド、教室などの利用を調整するとともに、学生の実践の場としても活用していました」

AI研究の学生が開発したロボットをイベントで試験的に稼働させたり、ホスピタリティを学ぶ学生がケータリングを担当したりと、教育・研究・社会連携が一体となったエコシステムが形成されていました。

髙橋さん:「教員個人の努力に依存するのではなく、大学としてイベントやプロジェクトを受け止める組織があることで、学生も教員も安心して新しい試みに挑戦できるようになっていると感じました。RBSでも、今後プロジェクト型の学びが増えていくなかで、参考になる仕組みだと思います」

ニュージーランド政府観光局で受け入れてくださったチームの皆さんと

世界標準との「答え合わせ」がもたらした自信

インターンシップを終えて帰国した髙橋さんは、RBSでの2年間をこう振り返ります。

髙橋さん:「行ってよかったのは、『学んできたことは正しかったんだ』と確認できたことです。RBSで学ぶ組織論やアカウンティング、マーケティングのフレームワークは、日本では『理屈はそうだけれど現場は違う』と言われることも少なくありません。しかしニュージーランドでは、そうした理論が実務の共通言語として使われている場面を多く目にしました。まさに『答え合わせ』ができた旅でした」

それは、日本の現場で感じていた「違和感」が、間違いではなかったという確信に変わった瞬間でもありました。

「日本にいると、組織の論理や『現場はこうだから』という現実に流されそうになることもあります。でも、ニュージーランドではMBAホルダーたちが当たり前のように共通言語で話し、理想を実現していました。『私たちが学んでいることは、机上の空論ではなく、世界では当たり前のことなんだ』と自信を持てたことは大きかったですね。これからは自信を持って、学んだことを現場で活かしていけると思います。」

現地の観光組織にはMBAホルダーも多く、意思決定の際には組織論やファイナンスの基本的な考え方が自然に共有されていたと言います。

髙橋さん:「現実の職場では、さまざまな制約や前提があるため、教科書通りに進まないことも多いです。それでも、RBSで学んでいる内容そのものは、国際的な水準から見ても妥当なのだと確認できたことは大きかったです。現場感覚とアカデミックな理論がつながった感覚がありました」

ニュージーランドで見た「理論が当たり前の前提として機能している現場」と、RBSでの学びが重なったことで、高橋さんは、これまで抱いてきた観光業への問題意識に対して、理論的な支えを得られたと感じています。

これからの挑戦――「稼ぐ観光」と向き合う

修了を目前に控えた今、髙橋さんは、これまでの経験とRBSでの学びを踏まえ、「観光を持続的なビジネスとしてどう成り立たせるか」という課題に改めて向き合おうとしています。

髙橋さん:「観光業やホスピタリティ産業に対する愛着は変わりませんが、産業としての地位や収益性の課題は残っています。長年、公益性を重視する組織で働いてきましたが、これからは『稼ぐ観光』という視点もより強く意識していきたいと考えています。RBSで得た理論と海外での学びを活かしながら、経済的な持続可能性も追求できるような関わり方を模索していきたいですね」

インバウンドやMICEの現場で培ってきた経験、そして海外留学やニュージーランドでの調査インターンを通じて身につけた国際感覚は、今後も大切にしていきたい資産です。

髙橋さん:「国際的な視点を持ち続けることは、自分のキャリアにとっても、これからの日本の観光にとっても意味のあることだと思っています」

観光が「なんとなく楽しい産業」で終わるのではなく、経済的にも潤い、働く人が胸を張れる産業になるように。髙橋さんは、RBSでの学びを起点に、自分なりの「答え合わせ」を続けながら、観光の未来に関わり続けていこうとしています。

インタビュアーから

髙橋さんが「観光業もホスピタリティ産業も好きだが、産業としての地位が低いことに違和感があった」とお話しされていたことは、就職活動中の自分にとって非常に印象的でした。現場を知り尽くした方がMBAで学び、次のステージを見据えている姿を間近で拝見し、「観光業界は自分たちの世代で変わっていく」と感じるきっかけになりました。(安藤采子)

観光事業マネジメントプログラムで実務に携わっている方々は、私たちキャリア形成プログラムの学生にとって、大きな刺激であり目標でもあります。今回、髙橋さんの東京を拠点とした観光行政の仕事や、ニュージーランドでの調査インターンシップの経験を伺い、日本と海外の違いを具体的にイメージすることができました。自分が今後、地域の観光やまちづくりに関わっていくうえでも、大きな学びになったと感じています。(亀田仁太郎)

取材日:2025年10月28日