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RBS通信

2026.03.31

記事

挑戦と創造、その先へ。

「行ってから考えたらいい」――39人の中小企業が、バングラデシュの街を変える

立命館大学ビジネススクール(RBS)は、多様な人々が挑戦を通じて自らの可能性を切り拓く「挑戦するプラットフォーム」です。

この連載では、挑戦し、創造し、その先へ進むストーリーをお伝えします。 第6回は、家業の技術を活かしてバングラデシュの社会課題解決に挑む山野正高さん。インタビュアーは、製薬会社の海外部門でグローバルビジネスの最前線に立つ社会人学生・加藤貴大さんと、自動車系商社で新規事業に携わり独自のキャリアを切り拓く今岡愼太郎さんです。国境や業界を越えたビジネスのあり方について、実践者同士の熱い対話をお届けします。

今回の「挑戦する人」

山野 正高(やまの まさたか)さん

日本クリーンシステム株式会社 常務取締役。エン・ジャパン、シティカードジャパン(シティバンクグループ)を経て、父が創業したゴミ圧縮貯留機メーカーに参画。RBS第12期修了。在学中の学びを活かし、独立行政法人国際協力機構(JICA)の案件化調査(契約期間:2021年1月~2022年12月)、普及・実証・ビジネス化事業(契約期間:2024年7月~2026年12月)を通じてバングラデシュ・ダッカ市の廃棄物問題解決に自社技術で取り組んでいる。

インタビュアー
加藤 貴大(かとう たかひろ)さん(RBSマネジメントプログラム1回生/田辺ファーマ株式会社)

MR(医薬情報担当者)としてキャリアを歩み始め、その後は中国現地法人への出向を含む約7年間、アジア・欧州事業本部に所属。自社の海外拠点における新製品の市場導入や予実管理を担うほか、拠点の無い国でのライセンスビジネスを推進し、グローバル市場における収益基盤の拡大に貢献。趣味はスポーツ観戦と岩盤浴。

インタビュアー
今岡 愼太郎(いまおか しんたろう)さん(RBSマネジメントプログラム2回生/株式会社東邦ホールディングス)

商社(自動車)のグループ本部にて採用・M&A・マーケティングに従事し、過去には新規事業の責任者やM&A候補先への出向経験も有する。現在はRBS入学後に株式会社NEXTGAMEと業務委託契約を締結。ポートフォリオワーカーとして幅広い職務経験を積み、挑戦を続けている。RBSで取り組んだ課題研究(アスリートのキャリア自律)のビジネス実践に向け、修了後もさらなる飛躍を目指す。

45年前に父が創業し、ごみを圧縮して貯留する機械を作り続けてきた日本クリーンシステム株式会社。そこで経営に携わる山野正高さんは、RBSでの学びをきっかけに社会課題の解決へとマインドを転換しました。現在は独立行政法人国際協力機構(JICA)の普及・実証・ビジネス化事業を活用して、バングラデシュ・ダッカ市の廃棄物問題に自社の技術で挑んでいます。 今回は、異なる業界でグローバルビジネスや新規事業展開を目指す加藤さんと今岡さんの2名が、山野さんの海外挑戦に迫ります。

山野さん:社会課題を解決するようなことを自社のプロダクトで実現できないかと考えたのがきっかけです。いかに自社製品を売るかよりも、社会課題を解決したいというマインドにシフトしていきました。

科目履修生として飛び込んだ、経営の学び

山野さんは、まだ事業承継についての心構えができていなかったため、東京で複数の企業に勤め、経験を積んでいました。しかし約10年前、弟が代表に就任した際に役員が相次いで退任し、兄弟で経営を担うべく合流を決めました。

経営の知識を得るためビジネススクールを探す中で、山野さんはまず科目等履修生としてRBSの授業を受講します。そこで企業のトップが直接経営哲学を語る、実務に基づく講義に触れたことが、大きな転機となりました。

山野さん:生で経営者の方のお話を聞ける環境が本当に面白くて。ここでは実践的な学びが得られると肌で感じ、これは絶対に面白くなると思って本格的な入学を決めました。

お金の管理から「社会課題の解決」へ

入学前の山野さんにとって、経営とは売上拡大や固定費の削減にしか注力できていませんでした。しかしRBSでの学びを通じて、その考え方は大きく変わります。

山野さん:会社は何のためにあるのか、お客様とどのように関わっていく必要があるのか、そうした事業の本質の掘り下げができました。

コンサルティングファーム出身の教員をはじめとする実務家教員の存在も、山野さんにとって大きな魅力でした。さらに、仕事と学業の両立というハードな環境も経験します。土日も課題に追われ、国内外へ出張した際も空き時間はすべて課題に費やしたと言います。そうした徹底的な没頭が、ビジネスへの視座を一段引き上げました。

条件と制約から市場を絞り込む、的確なターゲティング

日本の国内市場は人口減少とリサイクルの推進に伴い、一つの施設から出る一般廃棄物の量が減少しつつあります。既存の枠組みにとらわれず新たな海外市場を開拓しなければならないという危機感も、学びを後押ししました。

RBSで身につけたマーケティング思考が、海外挑戦の道筋を描きました。売りたい場所に売るのではなく、自社の技術が活きる市場がどこにあるのかという発想から、JICAのウェブサイトにある各国の課題一覧を参照し、市場を絞り込みました。

山野さん:当社の機械はゴミを圧縮して貯めるものなので、リサイクル処理のもう一歩手前、まず衛生的に貯めることに困っている国がターゲットになります。

自社の製品特性と物理的な制約から、ターゲットは明確でした。機械は40フィートコンテナで運ぶ必要があるため、海上輸送ができない内陸国は候補から外れます。また、東南アジアの多くはすでにリサイクル段階に進んでおり、「保管」のニーズが合致しませんでした。そこで浮上したのが、港を持ち、まだ保管段階で課題を抱えるバングラデシュでした。

山野さん:在学中に問題を深く掘り下げる意識が身につきました。どうすれば解決できるか、この問題をどう数値化すれば行政に伝わるだろうかという思考は、RBSに入ってからできるようになったと感じています。

労働環境の改善と、自治体の課題解決を両立

バングラデシュ・ダッカ市の二次収集ポイント(STS)。人力車で回収されたゴミが地面に散乱し、作業員がそれを手作業で収集車(パッカー車)へ積み替えるという、感染症リスクと隣り合わせの重労働を強いられていました。

機械導入前のSTS(二次収集ポイント)。ゴミが地面に散乱する過酷な現場で現地スタッフと協議を重ねた

さらに、街中にあふれたゴミが排水路を塞ぎ、大雨の際に深刻な洪水を引き起こすという問題も抱えていました。 山野さんたちは、前述のJICA事業を活用して課題を解決するために、現地の課題に精通したコンサルタントとパートナーシップを結び、STSへの自社機械の設置に取り組みました。作業員はゴミをコンベアに落とすだけの作業になり、ゴミは機械に圧縮貯留されるため衛生的に保管でき、収集車へも自動排出が可能となります。この取り組みは気候変動対策の観点からも注目されNHKニュースで放送されました。

山野さん:作業員がゴミに直接触れることなく、そのままパッカー車に積み込めます。また、立体的に圧縮することでSTSの設置面積を小さくできるメリットもあります。

これにより、ゴミに直接触れる労働環境が改善されただけでなく、自治体側の用地不足の課題解決にも繋がりました。 設置後、かつて悪臭が漂っていた現場は一変し、床面の本来の色が見えるほど清潔で衛生的な空間に生まれ変わりました。

現地の作業員たちの反応が、山野さんにとって何よりの手応えでした。

山野さん:現地の作業員たちが、この機械は本当に素晴らしいと大絶賛してくれるんですよ。そうした反応を直に感じられたので、本当にやってよかったと思っています。

英語が堪能というわけではなかった山野さんは、翻訳ツールを駆使し、初訪問時は単独で現地へ飛び込みました。すべてを自社で抱え込まず、現地メーカーに周辺機器の製造やメンテナンスを委託し、関係者全員に利益が生まれる持続可能な仕組みを構築しています。

山野さん:すべて自社だけで抱え込んではいけません。良いパートナーと組んで、利益を分かち合う。みんながハッピーになる仕組みを作ることが大切です。

公共の信用を、民間ビジネスへの足がかりに

実際にダッカ市内にはSTSがまだ84箇所存在します。今回の1台を実証のモデルケースとして行政からの信頼を盤石にし、残りの拠点へビジネスとして横展開していく明確なロードマップが描かれています。さらに山野さんは、その先の市場拡大も見据えています。

山野さん:バングラデシュが経済発展していけば、ショッピングモールや外資系ホテルが次々と建ちます。その民間施設へ営業に行く際、公共施設での稼働実績が最大のプロモーションになります。

公共事業(B2G)での導入実績をショーケースとし、将来的な民間市場(B2B)の開拓へとつなげる。国内市場の縮小に直面する中小企業が、海外で社会課題を解決しながらしたたかに成長戦略を描いています。

「まず行ってみる」行動力が未来を拓く

バングラデシュという未知の国へ単身で飛び込んだ山野さん。その原動力となった「まず現場へ行ってみる」という姿勢は、経営を学ぶためにRBSの扉を叩いた時のスタンスと完全に重なります。最後に、入学を迷っている人へのメッセージを伺いました。

山野さん:行ってみたら発見があるかもしれないし、それは行ってみないとわからない。だったら行ってみてから考えたらいいのではないでしょうか。合わなければやめることもできますから、まずは科目等履修生としてお試しで受講してみることをお勧めします。

経営に通じる自己管理――アイアンマンレースへの挑戦

山野さんは健康維持を目的として2021年からトライアスロンを始め、完走を重ねるたびにハードなレースへ挑戦するようになりました。2024年9月には「ロングディスタンス」と呼ばれる最も過酷なアイアンマンレースに出場しています。

「スイム3.8キロ、自転車180キロ、ラン42.195キロの3種目を、15時間29分かけて完走しました。長時間のレースの中でトラブルを想定し、自分をコントロールして戦略を立てるプロセスは、経営に非常に通じるものがあります」と語る山野さん。極限状態での自己対話が、経営者としての粘り強さと圧倒的な行動力を支えています。

アイアンマンレースでスイム3.8キロ、自転車180キロ、ラン42.195キロの3種目を、15時間29分かけて完走

インタビュアーから

経営を体系的に学ぶ必要性を感じてRBSへ入学された経緯は、私自身と重なる部分が多くありました。しかし、山野さんの「まずはやってみる」という強い行動力があったからこそ、バングラデシュの衛生環境を劇的に変えることができたのだと痛感しています。現場のビフォーアフターの写真は本当に衝撃的で、日本の技術が現地の人々の生活を根底から支え、喜ばれている姿に深く感動しました。RBSでの学びをどう社会に還元していくべきか、大きな勇気と示唆をいただいた時間でした。(加藤 貴大)

RBSの価値は、ビジネスに本気でチャレンジしてきた方が体系的な学びを得ることで、更なる飛躍につなげていくことだと再認識いたしました。海外における社会課題解決に本気で取り組む意義を見出し、市場や困っている国がどこにあるのかを探り、まずは行動する。成果がすぐに得られなくても知識と経験として蓄積していくという言葉に、修了後にMBAを活かす本当の意味と実践を実感しました。私自身もRBSでの学びを経て、目標となる多様な修了生の背中に少しでも追いつき、追い越せるように挑戦を続けていければと思います。(今岡 愼太郎)

取材日:2026年2月10日