2026.07.09

【研究紹介】救急搬送データを活用した安全なまちづくりへの挑戦(衣笠総合研究機構 白石陽子補助研究員)

救急搬送データを活用した安全なまちづくりへの挑戦
― データに基づく「セーフコミュニティ」の実現を目指して ―

 私たちの暮らしのなかでは、転倒や交通事故、スポーツ中のけがなど、さまざまな事故や受傷が発生しています。安全・安心なまちづくりを進めるためには、こうした事故が「いつ・どこで・どのように起きているのか」を把握し、地域ぐるみで予防に取り組むことが重要です。しかし、多くの自治体では事故・受傷に関するデータの収集や分析が十分に行われておらず、効果的な対策につなげることが課題となっています。

 立命館大学 衣笠総合研究機構の白石陽子補助研究員は、地域の事故やけがをデータに基づいて予防する「セーフコミュニティ」の実現を目指し、全国の自治体で継続的に収集されている救急搬送データを活用した事故・受傷予防モデルの構築に取り組んでいます。セーフコミュニティとは、地域で発生する事故やけがの実態をデータで把握し、行政や医療機関、学校、住民などが協働しながら継続的に予防活動に取り組む国際的なまちづくりの考え方です。

眠っている「救急搬送データ」に着目

 救急搬送記録には、けがや事故が発生した日時や場所だけでなく、「なぜ起きたのか」「どのような状況だったのか」といった事故予防に役立つ情報が含まれています。しかし、こうした情報の多くは文章で記録されているため、十分に分析・活用されてきませんでした。

 白石補助研究員は10年以上にわたり救急搬送データの分析に携わるなかで、事故や外傷予防に役立つ重要な情報が十分活用されていない現状を実感してきました。そこで本研究では、自治体が自らデータを分析し、地域の特徴や課題に応じた予防策を検討できる仕組みの構築に取り組みます。

地域特性を反映した事故予防へ

 本研究では、救急搬送記録に記された事故の経緯や受傷時の状況を分析し、「どのような事故が、どこで、なぜ起きているのか」を地域ごとに明らかにします。そして、その結果を自治体職員や地域の関係者が安全対策の検討に活用できる仕組みづくりを進めます。

 対象となるのは、これまで協力関係を築いてきた京都府亀岡市や埼玉県秩父市などの自治体です。写真は、こうした自治体との連携のなかで実施した、救急搬送データの活用状況や地域課題を把握するためのワークショップの様子です。

 蓄積された救急搬送記録を分析することで、その地域で発生しやすい事故やけがの特徴を把握し、地域の実情に応じた事故・受傷予防対策につなげていきます。

写真1
写真2

ワークショップの様子
(ワークショップを通して地域課題の認識や問題解決の検討において救急搬送データがどう活用できるかを確認しました)

「根拠に基づく安全なまちづくり」を支える

 白石補助研究員はこうしたセーフコミュニティの実践と研究に長年取り組んできました。データに基づいて地域の安全課題を明らかにし、多様な主体が協働して解決を図るセーフコミュニティの考え方は、本研究の基盤となっています。

 2021年には救急搬送データの事故予防への活用に関する研究成果を国際学会で発表し、2022年には「地域協働で子どもが安全安心に生活できるまちを育てるセーフコミュニティ」と題した論文を公表しています。さらに、本研究「事故・受傷予防にむけた救急搬送データ活用モデルの構築」は、その社会的意義や実現可能性が評価され、公益財団法人JR西日本あんしん社会財団の2026年度研究助成(2年助成)に採択されました。安全・安心な社会の実現に向けた研究として期待が寄せられています。

 この研究が実現すれば、自治体は新たな調査を行わなくても、既存の救急搬送データから地域の事故やけがの傾向を把握できるようになります。また、行政だけでなく地域団体や住民もデータを共有しながら安全対策を検討することで、地域の実情に即した安全・安心なまちづくりの推進が期待されます。


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白石 陽子 (しらいし ようこ)
立命館大学衣笠総合研究機構 補助研究員。博士(政策科学)。
救急搬送データの活用による事故・傷害予防、安全なまちづくりをテーマに研究を進める。一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構代表理事も務め、自治体や地域社会と連携した実践的な研究活動を展開している。


関連情報
立命館大学歴史都市防災研究所
一般社団法人日本セーフコミュニティ推進機構(JISC)
公益財団法人 JR西日本あんしん社会財団