写真左より:松原 洋子副学長 / 仲谷 善雄学長 / 長谷川 知子理工学部 准教授 / 高山 茂理工学部長

Special Edition#19

Highly Cited Researchers 2019 受賞報告会

世界で影響力を持つ研究者として認められた
長谷川准教授の功績を報告

理工学部の長谷川 知子准教授が、クラリベイト・アナリティクスのWeb of Science Groupが発表した“Highly Cited Researchers 2019(高被引用論文著者)”に選出されたことを祝し、2020年1月20日、朱雀キャンパスにて受賞報告会が行われました。「高被引用論文著者」は、特定出版年・特定分野において世界の全論文のうち引用された回数が上位1%に入る論文の著者を選出するものです。「世界で影響力を持つ研究者として認められる賞を受賞されたことは、大学・学部としても大変名誉なことだと思っています」と称えた高山 茂理工学部長。次いで仲谷 善雄学長は祝辞とともに、記念品を授与しました。

「シミュレーションモデルを使って気候変動問題を把握・予測し、その対策を検討する研究を行っています。大きな成果は、地球温暖化の飢餓・食料への影響を明らかにし、どうすれば環境に負荷をかけずに『飢餓の撲滅』を達成できるかを提示したことです」と説明した長谷川 知子准教授。中でも「地球温暖化対策によっては、何も対策を講じないよりも飢餓リスクを高める可能性がある」という驚くべき指摘が評価につながったと話しました。

続いて仲谷学長、松原副学長、高山学部長が加わり、座談会が行われました。「立命館大学には研究者が自らのテーマを自由に追求できる研究環境が整っている反面、資金や共同研究者を集めて大型研究を行ったり、若い研究者を育成できるのかが心配」と話した長谷川准教授に対し、教員同士が自主的につくる研究センターなどの活用例が紹介されました。仲谷学長は「大型研究を実施したり、研究資金も獲得しやすくなるので、ぜひ海外も含めて学内外の研究者を集め、本学に研究拠点をつくってほしい」と述べ、多方面での支援を約束しました。

SPECIAL TALK 特別対談

松原 洋子副学長

長谷川 知子理工学部 准教授

家庭・育児と研究を両立する女性研究者の活躍

世界トップレベルの研究を続ける最優先事項を明確に、子育てと両立

松原
日本の理工系分野で活躍してきた女性研究者の多くは、家庭と研究のトレードオフではなく、「やりたいことをやってみよう」と挑戦するマインドをお持ちのように感じます。長谷川先生はいかがですか。
長谷川
非常に共感できます。特に女性の研究者の場合、一定期間に博士号の取得、就職、海外留学などのキャリア形成と結婚・出産などのライフイベントが重なります。そのため、自分のやりたいことを成し遂げるように様々なことをうまくバランスさせ設計することが求められる気がします。
松原
お子さんが生まれて仕事のやり方や考え方に変化はありましたか。
長谷川
働き方は大きく変わりました。以前のように夜も週末も研究するというわけにはいきません。そのため優先順位をつけて順位の高いことに絞って取り組み、これまでの研究を維持しようと努力しています。
松原
優先順位の高いことは何ですか。
長谷川
世界に影響力のある、そして社会に役立つ研究を継続することが最優先事項です。そのために論文を書き、発表し、所属する研究コミュニティで最先端の研究を率いる立場をキープする必要があります。
松原
研究者の中には目の前の仕事に忙殺されて本来最優先すべき研究が後回しになってしまう人もいます。長谷川先生は明確な目的を持ってするべきことを客観的に見極めているところがすばらしいですね。立命館大学に着任されて約1年、働く環境について率直な感想を聞かせてください。
長谷川
自分のやりたい研究テーマを比較的自由に設定して取り組めるところがいいと感じています。また育児の面では学内保育園があるのは心強いですね。一方で子どもを持つ身としては、会議が時間外にあったり、担当授業の休講回数が制限される点は改善してほしいところです。何よりもっと女性研究者が増え、家庭のことを話しやすい環境になればいいなと思います。
松原
私は2019年に女性初の副学長に就任しました。理事会でもジェンダーを巡る課題を提起する役割があると自任し、積極的に発言しています。立命館大学には、提言すれば皆が耳を傾け、課題を共有する空気があります。女性の学部長も増えつつあるし、理系の女性研究者も積極的に採用したいと考えています。長谷川先生もぜひ忌憚ないご意見をお願いします。

地球温暖化問題に飢餓・貧困の視点を取り入れたところにインパクトがあった

松原
地球環境問題をめぐる研究は数多くありますが、長谷川先生の研究はそこに飢餓や貧困といった人の尊厳や人権に関わる軸を取り入れたところがすばらしいと思っています。
長谷川
飢餓や貧困を取り入れた背景には、私自身が以前からこういった国際的な社会問題に関心を持っていたことがあると思います。また、地球温暖化と食料生産の関係についてはこれまで研究されてきましたが、食料消費というもっと身近なところにどう影響するかまで踏み込んだ研究はなかったからです。最初の論文を比較的インパクトの低いジャーナルに投稿し、それを名刺代わりに同じ研究グループの研究者に「一緒にやりましょう」と呼びかけ、ネイチャー関連誌に掲載するまでに発展させました。
松原
地球環境問題から貧困や飢餓、一方でフードロスや肥満といった先進国の課題にまで結びつけたところ、さらに課題を可視化して解決のデザインを描き、提案されたところにインパクトがあったと思います。今後の立命館大学でのさらなる活躍を期待しています。