Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #3 海老久美子

アスリートへの栄養支援から、研究の道へ。

スポーツ選手、特に高校野球選手を対象に、栄養サポートを実施し、その効果を評価・検証しています。実際の栄養支援に重きを置き、実践を通じて得た「リアルなデータ」を扱うことで、実効力のある研究成果を目指しています。

私は、20年以上にわたって、栄養士としてスポーツ選手を栄養面から支える仕事に従事してきました。とりわけ力を注いできたのは、成長期アスリートへの栄養支援です。滋賀県立彦根東高等学校野球部の選手たちへの栄養支援は、15年間に及びます。そうした現場での経験をもとに、高校球児の身体づくりを支える食についてまとめた『野球食』を著したことが、転機に。「記したことの効果を検証するのが著者の責任」という恩師の言葉に推されて、研究の道へ転じました。

栄養指導による食事の改善が、体格・パフォーマンスに影響する。

まず取り組んだのは、高校野球選手が「強くなる」ために、食事や栄養教育がどれだけ重要かを確かめることでした。2004年、第86回全国大会(甲子園)に出場した全49校の高校野球選手の体格、体脂肪率や体脂肪量といった体組成、および食事について調査しました。その結果、勝利チームの選手は敗戦チームの選手に比べ、体重、除脂肪量が多く、この差が体力とパフォーマンスに影響していることが推察されました。また食事量の確保が、体格の維持向上、さらに勝敗にも影響を及ぼしている可能性も示唆されました。

また、高校1年生の野球部員の身体組成に及ぼす栄養指導の効果も調査しました。そこでも、栄養・食事指導による食事内容の改善が、体格の向上に寄与する可能性が認められました。

地域でスポーツ選手を育てる新しい産学連携のあり方を提示する。

これまでの研究で、高校野球選手のパフォーマンス向上には、体格や体組成を充実させることが不可欠であり、それには適切な食事が重要であることを明らかにしてきました。

そして現在、成長期選手の身体づくりを食事からサポートする新たな試みとして、「部活食」マネジメントシステムの開発に取り組んでいます。暑さや長期戦に負けず、試合で最高の力を発揮するためには、練習や筋力トレーニングだけでなく、「適切な食事」を「適切な時間」に摂る必要があります。そこで、滋賀県彦根市内のお弁当業者、近江米を栽培する農家などの協力を得て、地域資源である近江米を用い、必要なエネルギー量と栄養バランスを満たしつつ、おいしい「部活食」を考案。週3回、練習後30分以内に食べられるよう高校に届ける試みを開始しました。今後は、さらにさまざまな方面からの協力を募り、地域で選手育成を支援する仕組みを構築していくつもりです。

その一方で、「部活食」の効果の検証も進めています。「部活食」を取り入れていない別の高校の野球部の選手と、体格や体組成、さらにパフォーマンスに差がみられるか、比較検討中です。

私たちの進める産学連携の特長は、協力いただく企業や産業の利益を損なわないことはもちろん、それにも増して「地元の成長期選手を育てたい」という「思い」「夢」を共有していることです。「応援する気持ち」が皆を一つに結びつけ、さまざまな困難を乗り越える力になります。この取り組みを通じて、スポーツを軸にした産学連携の可能性も提示していけるのではないかと考えています。

実践を伴う研究活動では、その過程でさまざまなアクシデントに遭遇します。協力してくださる方々や何よりスポーツ選手に対する責任も小さくありません。それでも、スポーツ選手が成長する姿を目の当たりにできる喜びは、かけがえのないものです。後に続く人がたくさん出てきてくれることを願っています。

  • 企業のみなさまへ

    私たちの進める産学連携の特長は、「地元の成長期選手を育てたい」という「夢」を共有できることです。「応援する気持ち」とともに企業のみなさまと一丸となって、子ども達の成長を後押しできたらと考えています。

  • 若手研究者のみなさまへ

    実践を伴う研究活動では、アクシデントに遭遇することも多いし、スポーツ選手や協力してくださる方々に対する責任も小さくありません。それでも、スポーツ選手が成長する姿を目の当たりにできる喜びは、かけがえのないものです。後に続く人がたくさん出てきてくれることを願っています。


海老久美子

Kumiko Ebi

スポーツ健康科学部 教授

2007年 甲子園大学大学院栄養学研究科栄養学博士課程後期課程修了。博士(栄養学)。1989年 株式会社スポーツプログラムス栄養部門責任者、2006年 国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部契約研究員、2010年 立命館大学スポーツ健康科学部教授、現在に至る。日本臨床スポーツ医学会、日本食生活学会、日本栄養改善学会、NPO法人日本スポーツ栄養研究会に所属。

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