塚本さんが陸上を始めたのは小学校4年生のとき。運動会での走りが先生の目に留まり、地域の陸上クラブへの入部を勧められた。その後、中学、高校では全国大会や世界ユース大会にも出場し、高校3年生の時は、自己ベストの10秒47をマークし近畿総体優勝、全国高校ランキング3位と順風満帆な競技生活を送っていた。

      
しかし高校3年生の9月、トレーニング中に左足と腰に違和感があった。小学生の時発症した椎間板ヘルニアの再発だった。当時は鍼灸や整体で何とか症状が治まったが、今回は整体に行っても病院に行っても痛みとしびれは収まらなかった。

注射を打って何とか完走した10月の国体後に激痛が起き、医師にこう告げられた。「手術をしても治らない可能性もある。陸上を続けるのは無理かもしれない。」いろいろな病院を回り、整体、カイロプラクティック、レーザー治療など思いつく限りの治療を試したが効果はなかった。大学入学後の4月、「一か八か」という大きな不安の中、内視鏡を使った最先端の手術に賭けることにした。

手術が終わった翌朝、それまで思うように動かせなかった左脚が普通に上げられたので驚いた。この日から8ヶ月に及ぶリハビリが始まった。ブランクで筋肉が落ちていたため、リハビリは体力的につらかったが、それよりつらかったのは「本当に競技に戻れるのか」という精神的な不安。家族に弱音を吐いたこともあったし、暴飲暴食で10kg太った時期もあった。それでも家族や友人など応援してくれる人がいたから、復活を信じて頑張ることができた。
   　　
　

1回生の冬に陸上部の練習に合流し、2回生の春には試合に復帰。結果は納得のいくものではなかったが、走れるかどうかもわからなかったことを考えると、試合に出られたこと自体が嬉しかった。そして今年の大学生最後の夏、奈良県の選考会で優勝し、国体出場を決めた。4年ぶりの国体の舞台。タイムは10秒7台で自己ベストに及ばなかったものの、ようやくスタート地点に帰ってこられたという達成感でいっぱいだった。

国体に出られたら思い残すことはないと思っていたが、現役最後の大会と臨んだ関西種目別選手権で自己ベストタイの10秒47を出し優勝した。4年がかりで完全に手術前の状態に戻すことができた。卒業後は就職するが、休みの日は練習して現役を続けようという気持ちも出てきた。

ヘルニアを発症して、「何で自分だけ…」「これがなければ大学4年間で自己ベストが更新できたはずだ」と何度も思い苦しんだ。それが今では人間的に成長するチャンスを与えられたのだと思えるようになった。挫折を乗り越えたことで肉体的にも精神的にも大きくなった。社会に出ても苦しいことがあると思うが、この経験を思い出せば何があっても大丈夫だと思える自信がついた。塚本さんが自分を超える瞬間は、また見られるかもしれない。