TBS「夢の扉+」出演記念企画 特別座談会 #2

研究のイノベーションは
異分野との融合・連携から生まれる

小西 聡 先生

渡辺
立命館大学は、分野横断で学部の壁を越えて研究に取り組むことのできる自由度の高さが、1つの特徴であると私は思っています。先生方は、高度な専門分野を極めると同時に、異分野と融合した研究にも積極的に取り組まれています。異分野との連携についてお考えをお聞かせください。
久保
そうですね。若い頃は同じ領域の人と研究することが多かったのですが、年齢を重ねるにつれ、研究領域や視野が広がっていく中で、異分野の多様な人たちと共同で研究を進めて行く価値が分かるようになりました。「社会に貢献する」ためには、問題を多面的に考えることが不可欠です。今ではCOI-Tというプロジェクトを通じて、農家の方々や企業、そしてスポーツ健康科学部の栄養学の先生など、多様な方々と一緒に食の生産から流通までを通じた農業イノベーションを目指して研究を進めています。
小西
私もバイオメディカルデバイス研究センター等の活動の中で、薬学部、スポーツ健康科学部をはじめとする他学部の先生方、医師の方々など様々な分野の方とお付き合いがありますが、わからないからこそ、他の分野のことは冷静に客観的に見ることができると感じています。逆の立場で、私もそう見られているだろうと気づくことにより、自分の研究に冷静で客観的な視点を入れることも可能になりました。立命館はそういう連携に積極的な先生方も多く、学際的な研究がやりやすい環境だと思っています。
西浦
最近は、COI-Tの研究の一環として経営学部や理工学部の先生と共同で、限られた空間だけに音を届けることで住宅街でも騒音を気にせず運動に取り組める実験や、東日本大震災の仮設住宅で騒音を快音化する実験など、開発したスピーカーを使った社会実験をさせてもらっています。こうした現場で感じたのは、研究者として最高の技術レベルを追求することが、必ずしも広く社会に喜ばれる訳ではないということでした。一方で次世代の技術を生み出すことも重要ですので、バランスをとりながら、現場の声に耳を傾けて、社会に受け入れられる技術を開発していきたいですね。
教員という立場から人材育成において大切なこと

小西先生が開発した「マイクロハンドみゅーたん」シリコンラバー製で、その先端に1ミリ幅の5本の指があり、その1本1本を自由に動かすことができる

渡辺
ここ20年、30年を考えると、夢を描きにくい時代になってしまった。その責任は我々60歳くらいの世代にあるんじゃないかと思ってしまいます。今の若い人たちは、高度成長期を知りません。日本経済が陰りを見せ始めたときに物心がついて、その後大震災。そういった厳しい状況の中で、未来を担う人材を育てていくために何が大切だとお考えでしょうか?
西浦
学生たちには、人の役に立つために何かをやってほしいなと思っています。面白いことや未解決の問題は教科書の外にたくさんあって、だからこそ私たちは研究をしているわけです。世の中の分かっていないことに挑戦し、何か一つでも得ることがあれば、大きな感動や、喜びを感じられることが多いと思っています。その喜びを噛み締めながら人に役立つものを一つでも追求するというスパイラルをつくることが未来を担う人材を育てていくために大切だと思います。実際、私の研究室には40名の学生がいて、学生たちが日々いろんなアイデアを持ち寄り、お互いに議論する中で人のために役立つより良い技術や思考に昇華しています。
小西
いろいろ考えてみましたが、アイデンティティというか自分自身がどういう魂を持っているみたいなところに正直になればいいかなと思います。自分の感じる心地よさとか気持ちよさなど、成長過程で変化していくと思いますが、そうした素直な感覚はすごく大事だと思います。高校や大学での勉強は、そうした感覚に従ってやりたいと感じたことを実現する手段だと思います。そして、短い時間で良いので10年後までに何をどのくらいしたいかというのを、自分に問いかける時間をもってもらえれば良いのではないかと思います。私の研究室も30人くらいの学生がいますが、学生のエネルギーと「やりたい」という気持ちが結びついた時の成果は格別に面白いものがあるなと感じています。
久保
ここ30年くらい、注目されてこなかったことや見落とされていたことの価値を再認識することが大切なのではないでしょうか。例えば、農業の分野では労働生産性の低さなどから若者が就労せず、高齢化が進んでいます。一方で、政治レベルではTPPの議論が進んでおり、世界に通用する安全・安心で質の高い農作物を安定的に生産する強い農業システムの構築が今後ますます重要になってくるでしょう。世界を視野に、これからの日本や世界が抱える問題は何なのかを自ら見極め、そこに解決策を提示していける人材を育てることが重要だと感じています。問題設定が難しい今、我々の研究者・教育者としての資質はより問われるのではないでしょうか。