細胞内凝集体の合成生物学

中村 秀樹(ジョンズ・ホプキンス大学医学部細胞生物学科・細胞ダイナミクスセンター)

2018年11月06日 火曜日 14:40-16:10 場所:ウエストウイング5階 物理演習室1

アブストラクト

われわれの研究室では、小分子化合物や光照射による刺激でふたつのペプチド間の相互作用を制御する技術、CID (chemically-inducible dimerization)とLID (light-inducible dimerization)を基に、生きた細胞内の様々な現象を、高い時間・空間分解能で思いのままに操作する技術を開発してきました。これらの技術を用いて、従来の技術では理解の難しかった細胞のあらたな側面を発見し、その生物学的意義を解明する『合成細胞生物学』の確立を目指して研究を推進しています。 その中で私は、細胞内で起こっている物理学的現象にスポットを当て、これらの現象を生きた細胞内で操作する技術の開発を行ってきました。今回の発表では、その過程で開発したふたつの技術、
1) ペプチド鎖のゾル−ゲル相転移を操作する技術(iPOLYMER)[1]
2) アクチン重合を介して物理学的力を発生させる技術 (細胞内アクチュエータ)
について、その動作原理とこれまでに得られた結果をご紹介します。 さらに最近の予備実験で、これらの技術はストレス顆粒と呼ばれるRNA-タンパク質複合体の集合・離散を操作する技術として応用可能であることを示唆する結果が得られました。ストレス顆粒は、最近大きな注目を集めている、脂質二重膜に囲まれていない細胞内構造、『生体分子凝集体 (biomolecular condensates)』2の典型的な例であり、細胞ストレス応答や神経変性疾患において重要な役割を果たしていると考えられています。これら凝集体についての最新の知見を基に、その生物学的意義を探る上で『合成細胞生物学』に何ができるのかを考察し、合成生物学の今後の可能性についてお話しします。
[1] Nakamura, Lee, et al., Nature Materials (2018) 17(1):79-89
[2] Banani et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. (2017) 8(5):285-298

ネットワーク状弾性体のトポロジーと強靭性

山口 哲生(九州大学大学院工学研究院機械工学部門)

2018年10月31日 水曜日 14:00-15:30 場所:ウエストウイング5階 物理演習室1

アブストラクト

高分子ゲル,フォーム,網,トラス構造などに共通して見られるのは,弾性体からなる疎なネットワーク構造である.このようなネットワーク状弾性体は,軽量や物性透過性などの優れた性質から,すでにさまざまなところで用いられている.しかしながら,わずかな弾性体部分が応力を支えなくてはならないため,多くの場合に力学的脆弱性という問題を抱えることになる.本講演では,脆弱性を克服するために我々が取り組んでいるアプローチを紹介する.一つ目は,トポロジーを考慮したネットワークデザイン[1],二つ目は,負のポアソン比をもつメカニカルメタマテリアル[2]の導入である.これらのアプローチは,近年注目されているトポロジカル物性に触発されて研究が始まったトポロジカルメカニクス[3]や,折り紙・切り紙の力学[4],粉体・ガラス系の低周波振動特性[5]などと深く関連しており,さらに破壊現象のような欠陥を含む材料の力学に発展させようというものである.講演では,バルク材料とは大きく異なるかたちで現れる”スカスカな弾性体の物理”の面白さを伝えたい.
[1] T. Yamaguchi, Y. Onoue and Y. Sawae, in preparation.
[2] G. N. Greaves, A. L. Greer, R. S. Lakes and T. Rouxel, Nature Mat. 10, 823 (2011).
[3] S. D. Huber, Nature Phys. 12, 621 (2016). [4] R. Zhao, S. Lin, H. Yuka and X. Zhao, Soft Matter, 14, 2515 (2018).
[5] M. Wyart, Phys. Rev. E 72, 051306 (2005).

長時間連続観察による植物の根の形作りと成長の解析

郷 達明(奈良先端大 バイオサイエンス領域)

2018年09月03日 月曜日 14:00-15:30 場所:ウエストウイング5階 物理学演習室1

アブストラクト

移動することのできない植物は、胚発生中に器官形成がほぼ完了する動物とは異なり,一生を通して新たな側生器官(葉・花・側根など)を形成し、その成長を制御することで、周囲の環境に適応した形づくりを行う。このような可塑性に優れた形づくりは,植物の生存戦略として重要である。植物の細胞は,柔軟性と堅牢さを兼ね備えた細胞壁で覆われており,その細胞壁を介して細胞同士が接着しているために,細胞の変形や移動は制限されている。そのため,多細胞からなる組織や器官が形成・成長するためには,細胞集団として協調的な制御が重要となる。  近年のライブイメージング技術の向上によって、植物の器官発生や成長を顕微鏡下で連続観察することが可能になってきた。経時的に連続観察することによって,断片的な画像からではわからなかった動的な植物細胞のふるまいが明らかになりつつある。私たちはこれまでにシロイヌナズナの根における新しい器官の発生(側根発生)や組織脱離(根冠剥離)の過程を連続観察して、細胞分裂や伸長,または,細胞分化などの個々の細胞の挙動が時間的・空間的に協調的に制御されていることを明らかにしてきた。一方で,細胞の挙動は設計図どおりに決まったふるまいをするのではなく,細胞の置かれた環境に応じて柔軟に変化することも示唆された。本セミナーでは、長時間連続観察によってみえてきた動的な細胞のふるまいを紹介するとともに、細胞レベルから植物の器官発生や成長の制御機構について議論したい。

鎖状系におけるエネルギー分配の自発的な不均一化と遅い緩和

小西 哲郎(中部大学 工学部)

2018年08月29日 水曜日 16:15-17:30 場所:ウエストウイング5階 物理学演習室1

アブストラクト

鎖状系、すなわち、DNAやタンパク質、高分子のような、要素が列をなしてつながっている系の振舞いは、理論的にも実用上も興味深いものがあります。このセミナーでは、鎖状系のモデルについての最近の我々の研究をご紹介します。主な内容は以下のとおりです: ・要素間の結合が固く剛体とみなせる場合、一般化エネルギー等分配則により、質点の平均運動エネルギーが自発的に不均一となり、典型的な場合には末端部で過剰になること ・結合の固さが強いけれども有限である場合、通常の等分配則への緩和は遅く、ボルツマン=ジーンズ則でよく説明されること (柳田達雄氏(大阪電気通信大)との共同研究です)
「鎖状系のエネルギー分配と遅い緩和:Boltzmann-Jeans 則」 日本物理学会誌 vol.72, No.10, 2017, pp.728-733

自己駆動コロイド粒子の鎖状構造の示す鞭打ち運動

西口 大貴(CEA-Saclay & パスツール研究所(フランス))

2018年01月18日 木曜日 14:30-16:00 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

精子や藻類など真核細胞の鞭毛にみられる鞭打ち運動は、どのような仕組みでどのような波が生じているのだろうか? 鞭毛の運動を理解するヒントを得るために、我々は自己駆動コロイド粒子でできた“人工鞭毛”の振る舞いを調べた。具体的には、半球を金属でコートされた誘電体の球形の異方的なコロイド粒子(ヤヌス粒子)を用いた。このヤヌス粒子は、鉛直方向に交流電場を印可すると、それを動力源として水平面内を自己駆動する。さらに、交流電場の周波数を調節することにより、粒子の進行方向(金属面と誘電体面のどちらを前に進むか)や相互作用を制御することができる。 先行研究により、金属面を前に駆動する高周波数領域でヤヌス粒子が自己組織化的に鎖状につながって駆動することは知られていたが、我々は、溶液の 塩濃度を新たに制御パラメーターに加えることにより、誘電体面を前に駆動する低周波領域でも鎖状構造が形成されることを発見した。これらの鎖状構造は、先頭に負荷を加えると、鞭毛のような鞭打ち運動を示す。鎖の先頭を固定すると、limit cycleと見なせる安定な鞭打ち運動をする。この鞭打ち運動は、ヤヌス粒子が押し合って内部に応力が蓄積されることによる座屈現象が主な要因とみなせる ため、内部の分子モーターの力により座屈が生じる真核細胞の鞭毛と類似している。生物実験で分子モーターの駆動力を瞬時に変化させることは困難だが、ヤヌス粒子の推進力は印加電場の強度により容易に制御できる。これを利用し、鞭打ち運動の振動数の、鎖の構成粒子の推進力に対するスケーリング指数を測定し、理論予測と比較したところ、理論と食い違いが見られた。この食い違いは、ヤヌス粒子間に働く引力が粒子表面の誘導電荷に由来すること、そして誘導電荷が四重極子的な分布をしているとすることで説明できた。これにより、測定の困難なヤヌス粒子の表面電荷分布に間接的な実験証拠を与えられた。本研究での鎖状構造の形成条件や鞭打ち現象の理解を通して、未解明な箇所の多いヤヌス粒子の駆動・相互作用の原理の理解を進めることができた。本講演では、鞭打ち運動のPCA解析の結果や波の分散関係などの詳細な解析についても紹介する。また、個々のヤヌス粒子が作る流れ場が鞭打ち運動に与える効果についても考察し、ヤヌス粒子の鎖のような“推進力による鞭打ち運動”と生き物の鞭毛のような“鞭打ち運動による推進力”にどのような差異がありうるのかについても議論する。
[1] D. Nishiguchi, M. Sano: Phys. Rev. E 92, 052309 (2015).
[2] D. Nishiguchi, J. Iwasawa, H-R. Jiang, M. Sano: New J. Phys. 20,015002 (2018).

行動を規定する普遍的法則の解明

杉 拓磨(滋賀医科大学 神経難病研究センター)

2018年01月11日 木曜日 14:00-15:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

動物は外部環境や他個体との化学的・物理的な相互作用を通じて行動を可塑的に変え, 生存確率を高める. 動物の行動戦略は時に極めて知的に映り, 研究者のみならず多くの人を魅了する. そのため動物の行動戦略を規定する普遍的な化学・物理法則を理解することは「知性とは何か?」という問いとも関連する興味深い課題である. 線虫C. elegansは体長わずか1 mmで959個の体細胞からなるシンプルな形態にも関わらず, 過去の経験をもとに行動を可塑的に変化させる. さらに1細胞レベルで分子遺伝学的操作が可能であり, 多くの変異体が利用できることから, 数理モデルのパラメータを実験で自由に変えることが可能である. 本研究者はこの特徴を活かし, 独自の視点から, 従来は古典的な行動遺伝学分野のモデル動物である線虫C. elegansを, 物理エソロジーやアクティブマターの研究にまで応用し, 行動を支配する普遍的法則の理解を目指している. 本セミナーでは, 現在の研究を紹介すると同時に, これまであまり注目されていない「潜る」行動の物理についても議論したい.

Wetting & Elastomer

谷 茉莉(PMMH-ESPCI, フランス)

2017年10月26日 木曜日 14:00-15:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

濡れと弾性体に関する最近の研究結果について講演する。(1) 微細加工表面の濡れ(浸透現象):自然界には微細構造をもつ生物が多く存在し、その機能性は実用的・産業的応用への可能性からも注目されている。我々はフナムシが脚表面に持つ微細構造を伴った流路と、その流路への浸透の動力学に注目、模倣微細加工表面への浸透を実験と理論から調べた[1]。また、 開毛管(open capillary)への浸透現象に対し、ある高さで上昇が停止する“バルク”と、その先方に伸び続ける“先行薄膜”の動力学・静力学を実験と理論から説明した[2]。(2) 弾性体・剛球間の濡れ(潤滑膜):弾性体チューブの中で、チューブよりもやや径の大きな剛体球を動かす際の抵抗を調べた。チューブが潤滑化されている場合 には、この力は潤滑化されていない場合の1/10程度になる一方で、液体の粘性、引っ張り速度、チューブの力学特性、幾何形状等に依存する。この問題に対し、我々はスケーリング法則を導出、実験結果を説明することに成功した。(3) 弾性体シェルの球表面への毛管接着:ソフトコンタクトレンズ使用者の眼の曲率は人によって異なるのに対し、市販のソフトコンタクトレンズの曲率は幾つかの値に限られている。ガウス曲率の異なる表面をしわや歪みなく完全に接触させることはできないから、この状況は時に大きな問題となりえる。我々はマクロスケールで、弾性体球殻の一部(“ソフトコンタクトレンズ”)を、曲率の異なる球表面(“眼球表面”)に毛管接着させるモデル実験を行った。 特に、弾性体がしわや剥離をすることなく完全に接着可能な最大サイズを、実験と理論から得た。
[1] M. T., D. Ishii, S. Ito, T. Hariyama, M. Shimomura and K. Okumura,PlosOne 9 e96813 (2014).
[2] M. T., R. Kawano, K. Kamiya and K. Okumura, Sci. Rep. 5 10263 (2015).
[3] M. T., T. Cambau, J. Bico and E. Reyssat (in preparation).
[4] H. Bense, M. T., M. Saint Jean, B. Roman, E. Reyssat and J. Bico (in preparation).

Spiroplasmaのらせん形状を光で反転させる

伊藤竜朗(学習院大学理学部物理学科 西坂研究室)

2017年3月27日 月曜日 13:30-15:00 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

Spiroplasmaはハエなどの昆虫やトウモロコシなどの植物に寄生するバクテリアであり、太さ150-200 nm、長さ2-7 µmのらせん形状をとる。この小さな生物は一般的なバクテリアの運動装置であるべん毛や線毛を持たずに水中を遊泳運動することができる。このとき、細胞は右巻きらせんと左巻きらせんを切り替えるねじれ(キンク)を細胞の先端から発生させ、後端に向かって一方向に伝播させることが光学顕微鏡下で観察されている。このキンクの伝播によって細胞が回転することで推進力を得ていると考えられているが、伝播機構の詳細についてはわかっていない。そこで本研究では、光学顕微鏡下で細胞を観察し、細胞の運動形態を光照射によって意図的に変えることで、キンクの伝播機構について考察した。

自己駆動粒子とそれらの集団運動における流体力学の役割

義永 那津人(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 WPI-AIMR)

2017年3月8日 水曜日 13:30-15:00 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

アクティブマターは、個々の要素がエネルギーを消費しながら運動する集合体であり、要素間や環境との相互作用によって平衡状態から遠く離れたところで集団的な挙動を示す。現状では明確な定義があるわけではないが、生命現象、特に動物の群れの運動や、細胞集団の運動などが典型的なものである。最近では、 synthetic biologyと呼ばれる、生体分子を「賢く」混ぜ、ATPのエネルギーを加えることによって生物のような振る舞いを再現する試みや、化学反応を用いて非平衡状態にしたコロイドや液滴などによって自発的な運動をつくり出す研究が大きく進んである。本発表では、我々がこれまで行ってきた研究を紹介しつつ、上記のアクティブマターと呼ばれる分野でこれまで行われてきた数理的手法をまとめてみたい。特に、個々の粒子について、自発運動がどのように現れるのかを、流体力学と他の自由度との結合の立場から考察していく。また、集団運動に関しては、 squirmerモデルやJanus粒子のような流体力学が陽に現れるモデルの最近の研究結果を用いて、Vicsekモデルなどとの類似点、相違点を整理していきたい。

動く温度勾配が誘起する流れと分子集束

前多 裕介(九州大学理学研究院物理学部門)

2017年3月7日 火曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

温度勾配の下で分子が高温側から低温側へと輸送される現象をSoret効果(Ludwig-Soret effect)という。高分子溶液中のSoret効果においては、溶質の輸送方向の制御やリング状等の分布パターンの制御など新たな分子操作技術として注目を集めている。しかし、自在な分子操作という観点では、空間2次元での様々な制御が要求される。その観点で未だ理解が十分ではない点に、空間2次元を「動く」温度勾配下での輸送現象がある。高粘性流体中を伝搬する温度勾配では流動が生じることが報告されており、自在な分子操作を実現するには、Soret効果のみならず流れとの協同作用を理解しなくてはならない。本研究では、伝搬速度や伝搬する幾何形状を制御可能な温度勾配を実現する系を新たに構築し、動く温度勾配下の分子輸送について解析を行った。その結果、温度勾配が動く方向とは逆向きに溶液の流れが生じること、さらに特定の温度勾配の伝播速度で流速が最大となる共鳴的な振る舞いが生じることを見出した。熱拡散方程式およびストークス方程式から得た流速の近似解は実験結果の多くを説明し、Soret効果に起因する粘性勾配が流れの方向を決定し、共鳴的な振る舞いは熱拡散と熱膨張の競合によることを示唆する。さらに、この流れと分子輸送が協同的に作用することで、静的な温度勾配下よりも高い収率で溶質を濃縮する「分子集束」を実現した。以上の結果から、動く温度勾配下の流れと輸送の制御による新たな分子操作法を提示する。

往復的に自己駆動するコロイド粒子の定常的な集団運動とそれをもたらす非対称性

加藤 愛理(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻)

2017年1月23日 月曜日 14:00-15:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

エネルギーを散逸しながら自ら駆動する粒子系「自己駆動粒子系」は,魚などのマクロな生物の運動や細胞運動といった生態学的・生物学的理解につながるばかりでなく,非平衡状態の一つのクラスと捉えられる.自己駆動粒子は一粒子レベルの多様な運動や集団としてのさまざまな動的 秩序形成がみられているが,まず定常状態に着目することは自然である.そこで,本研究では,一粒子レベルでの駆動速度操作性をもち定常状態が観察できる人工的な自己駆動粒子として,電場で駆動するコロイド(クインケ粒子[1])を用いた.クインケ粒子の直流電場下でのふるまいは,近年Bricardらにより報告されており[2, 3],一粒子では二次元面内ランダムな方向にバリスティックに動くが,集団としては運動の向きの揃った相が現れることが知られている.我々は,より長時間挙動が見られるよう交流電場下のクインケ粒子系を用いた.一粒子の運動は適当な周波数範囲ではその周期で往復運動する.多粒子系の場合も各粒子は往復運動するが,元に戻らないことにより生じる正味の変位が方向性を持つことを発見した.その定常的な集団運動は,印加電圧によって異なるが,最も特徴的な集団運動は渦である.このとき渦を構成する粒子の配置は周期的に変化しているが,時間反転対称性が破れておりそれによって正味の変位が生じていることがわかった.セミナーではなぜ方向性を持った正味の変位が生じるかの議論に焦点をあてつつ,実験結果を報告する.
[1] N. Pannacci et al., Phys. Rev. Lett., 99, 094503 (2007).
[2] A. Bricard et al., Nature 503, 7474 (2013).
[3] A. Bricard et al., Nature Comm. 6, 7470 (2015).

光に向かって泳げ!:光刺激に対するボルボックスの応答

村山能宏(東京農工大学大学院工学研究院)

2017年1月11日 木曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

ボルボックスは数千個の体細胞から成る緑藻の一種であり,照度の大きい方へ泳ぐ性質(正の走光性)を示す。我々はボルボックスが照度差に対して線形に応答し,相対照度差(照度差と合計照度の比)を刺激とみなすと易動度が一意に決まることを見出した[1]。ボルボックスの動力源は各体細胞に備わる二本の鞭毛であり,50Hz程度で振動する数千本の鞭毛が協同的に動くことで10秒程度の応答時間の走光性が実現される。本セミナーでは,光刺激に 対する易動度と応答時間について,細胞数が異なる種の実験結果や鞭毛運動の観測結果を交えながら議論したい。
[1] M. Ozaki and Y. Murayama, Curr. Phys. Chem., 5, (2015), 64-72.

円軌道を描く自走粒子の集団運動

永井 健 (北陸先端科学技術大学院大学)

2016年12月15日 木曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

自走粒子の集団運動の普遍クラスがあると考えられており、Vicsekモデルなど現象論的な少変数の数理モデルが盛んに解析されている。抗生物質で引き伸ばされた大腸菌の集団運動などそれらの数理モデルとよく一致する実験系もいくつか見出されている(D. Nishiguchi, et al. arXiv:1604.04247)。今回は2次元平面で円軌道を見せる自走粒子の集団運動に注目し、モータータンパクに駆動される微小管(Y. Sumino, et al., Nature (2012))、ガラス上の線虫、寒天上のシアノバクテリアの集団運動を解析した。これらの自走粒子は孤立している時に円軌道を描くことがわかっている。観察の結果、どの系でも数密度を上げると渦状の構造を作ることがわかった。Vicsekモデルを元にした少変数のモデルを用いて実験結果を解析し、異なる 3つ系で見られた集団運動が共通の数理モデルでよく再現されることがわかった(Ken H. Nagai et al. PRL (2015))。

細胞核はどうやって細胞の中央に配置できるのか?

木村 暁 (国立遺伝学研究所 細胞建築研究室)

2016年11月17日 木曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

細胞内には小さな分子が多数ひしめきあって存在しています。無秩序にも思えるこの分子の集団から、どうやって分子は適材適所に配置し、細胞という空間的に秩序ある建築物を作ることができるのでしょうか? 私たちは「小さな分子が細胞の大きさを測って、細胞内の空間配置を規定するしくみ」に注目して研究を進めています。多くの細胞で核は中央に配置しています。核はどのようにして細胞の中央を認識し、そこまで移動し、留まることができるのでしょうか? 線虫(C.elegans)やウニの胚をモデル系とし、細胞の観察とコンピュータ・シミュレーションを組み合わせた解析から明らかになった細胞内の仕組みについて報告します。

Experimental study of contact angle hysteresis on a solid surface

Prof. Hsuan-Yi Chen (National Central University, & Institute of Physics, Academia Sinica, Taiwan)

2016年9月26日 月曜日 16:00-17:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

When a liquid droplet rests on a solid surface, the angel between the solid-liquid interface and the liquid-air interface is called contact angle. For a liquid droplet sliding down a oblique solid surface, the contact angle in the front (advancing contact angle) is different from the contact angle in the rear of the droplet (receeding contact angle). The difference between advancing and receeding contact angle is called contact angle hysteresis (CAH). In this talk I will introduce recent high-precision experiments carried out by my collaborators in Hong Kong, and compare with classic theories of CAH. Then I will discuss the differences between the experimental results and theoretical predictions. A new model is proposed to account for these differences.

対向する自己駆動粒子系における自己組織化現象:レーン形成とその動的な転移の解明

池田 光佑(新潟大学 大学院 自然科学研究科 数理物質科学専攻)

2016年8月30日 火曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

多数の個体が相互作用することによって自発的に自己組織化を生じる現象が数多く存在し,これらを包括的に解明すべく近年ではアクティブマターとして学際的な研究分野を形成している.講演者は対向する歩行者が自発的に隊列をなして進行するレーン形成現象に焦点を当て,分子シミュレーションによって無秩序からレーン形成へ遷移するメカニズムの解明を目指している.これまでもレーン形成に対するシミュレーションは,Lowenによるコロイドやプラズマに対応するシミュレーションと,HelbingによるSocial Forceモデルを用いたシミュレーションの,大きく2つの流れにしたがって数多く行われてきた.一方で,両者の共通点,相違点を俯瞰し,レーン形成のメカニズムを統一的に理解するための知見が十分だったとは言えない.そこで,講演者はSocial Forceを用いた対向する自己駆動粒子系で生じるレーン形成現象において,レーン数,レーン幅,対向レーン間の界面長の系統的な解析を行った.特に密度依存性からレーン形成をもたらす条件を特定するにいたっている.さらに,システムサイズ依存性からレーン形成現象が熱力学的な相転移ではなく動的な効果によることを明らかにしている.

生物学ではお手上げ!?不思議な細菌運動の仕組みに迫る

中村 修一(東北大学大学院 工学研究科 応用物理学専攻)

2016年8月8日 月曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

熱揺らぎと粘性に支配される微小空間で、細菌(バクテリア)は1秒間に自分の体の数十倍もの距離を移動できます。レーウェンフックが自作の顕微鏡で初めて動く微生物を観察したのは今からおよそ350年前のこと。それ以来、細菌運動の仕組みを理解しようと様々な研究が行われてきましたが、未だに多くの謎が残されています。このセミナーでは、獣医微生物学を原点とする私がこれまでに研究してきた 「べん毛」と「らせん細菌」の話を中心に、生物学の知識だけでは決して解決できない細菌運動の不思議な現象を紹介します。これからの細菌運動研究において、私たちは何をすればよいのか。そういったことを考えるきっかけになれば幸いです。

キラルな液晶液滴の自発らせん運動

山本 尚貴(東京大学 理学系研究科物理学専攻)

2016年4月26日 火曜日 14:00-15:00 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

細胞や微生物の運動機構、集団運動の理解に向け、人工的な自己駆動粒子を用いた研究が注目されている。多くの自己駆動粒子は並進運動を行うように設計されているが、実際の細胞では並進運動に加え、鞭毛の回転運動や細胞体のカタチのらせん構造に起因して円運動、らせん運動のようなキラルな運動が見られる。私達はこのようなキラルな運動に興味を持ち、らせん運動をおこなう自己駆動液晶液滴の実験系と理論モデルを考案した[1]。  近年、Herminghausらは臨界ミセル濃度以上の界面活性剤水溶液にネマチック液晶を分散させると、液晶液滴が自発的に並進運動をおこなうことを報告している[2]。運動メカニズムに関しては、液滴表面で界面活性剤濃度の前後対称性が自発的に破れることで、表面張力勾配駆動のマランゴニ流が発生し、並進運動をおこなうという理解がなされている。  一方、コレステリック液晶(CLC)は構成分子がキラリティを持ち、配向場が空間的にねじれたらせん構造を示す液晶相として知られている。CLCはキラリティをもつため、温度勾配などの外場と配向場の運動がカップルすることができ、回転運動をおこなう(レーマン効果[3])。私達はこのようなCLCの非平衡の性質に注目し、CLCを界面活性剤水溶液に分散させ、液滴内に発生するマランゴニ流とCLCのもつキラルならせん配向場がカップルすることで回転流が発生し、キラルな運動をおこなうことを期待した。実際に実験を行ったところ、CLC液滴は界面活性剤水溶液中でらせん運動をおこなうことが分かった。さらに液晶のらせん構造の右巻き、左巻きを反転させることで、らせん運動の右巻き、左巻きも反転することも実験的に確認しており、この結果はらせん運動は液晶のキラリティによるものであるということを強く示唆している。  これらの実験結果をもとに、回転力をもつ変形自己駆動粒子の現象論的モデルであるTarama-Ohta model[4]の考え方を基にした「キラルな物体の自発運動モデル」を考案し、その数値計算、理論解析をおこなった。このモデルでは、らせん運動に加え、他のキラルな運動も非自明な分岐現象の結果として発生することがわかり、それらの運動に関しても実験で観察できはじめている。本セミナーでは、これらのらせん運動の実験・理論について紹介したい。
[1] T. Yamamoto, et al., arXiv:1604.00298 (2016).
[2] S. Herminghaus, et al., Soft Matter, 10, 7008 (2014).
[3] O. Lehmann, Ann. Phys., 2, 649 (1900), P. Oswald, et al., Phys. Rev. Lett., 100, 217802 (2008), J. Yoshioka, et al., Soft Matter, 10, 5869 (2014), T. Yamamoto, et al., Europhys. Lett., 109, 46001 (2015).
[4] M. Tarama, et al., Prog. Theor. Exp. Phys., 013A01 (2013).

機能性分子のリン脂質膜小胞に対する物理学的作用

吉田 一也(東北大学 未来科学技術共同研究センター)

2016年3月29日 火曜日 14:00-15:00 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

細胞膜は、リン脂質の二重膜を基礎構造として、そこに蛋白質やコレステロールなどのさまざまな分子が入り込むことによって成り立ち、複雑な多成分系であると考えられる。その細胞膜における物理学的な作用を調べるためには、人工リン脂質二重膜小胞であるリポソームが、もっとも単純なモデル系として広く用いられている。本研究では、機能性分子として知られている分子の、リン脂質二重膜小胞に対する影響を調べた。まず、紫外線照射によって異性化するフォロクロミック分子をリン脂質膜の二重膜内に添加し、リポソーム形態への光異性化の影響を調べた。その結果、紫外線の照射によって小胞全体が大きく変形することがわかった。また、局所麻酔薬ジブカイン塩酸塩の添加によって、三成分リポソームの相分離温度(Tc)が低下するという事実を明らかにした。

生き物の管の形態形成 ー管のかたちの動的恒常性と変形についてー

平島 剛志(京都大学 再生医科学研究所)

2015年12月10日 木曜日 15:00-16:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

細胞で作られる管は、生体内の臓器の基本組織形態であり、その形態形成機構の解明は臓器のかたち作りの理解へとつながる。遺伝子・発生工学の発展により、管の形態形成に寄与する分子実体が明らかになってきているが、多細胞の動態から組織変形をまたぐ階層間の力学的な理解は未だ進んでいない。本セミナーでは、マウス胎仔の精巣上体細管を具体的な題材とし、増殖している細胞で構成される管が、1)自発的に『曲がる』仕組みと、2)曲がるために必要な『(管径を維持して)伸びる』仕組みを、実験データと数理モデルを交えて紹介する。

線形弾性論における動的破壊の数理モデリング

平野 史朗(立命館大学 理工学部物理科学科)

2015年8月11日 火曜日 16:00-17:30 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

破壊現象をモデル化する上で最もメジャーな枠組みは、線形弾性破壊力学である。 線形な弾性体力学そのものはよく知られた扱いやすい概念であるが、ここに破壊という非線形で不可逆な現象を組込むには様々な困難を伴う。 特に地震を理解するためには摩擦・高速破壊・媒質不均質といった要素間の相互作用を扱う必要があり、本講演ではそのための数理モデルを紹介する。

せん断流下における微粒子のブラウン運動

瀧川 佳紀(立命館大学 理工学部物理科学科)

2015年8月11日 火曜日 14:30-16:00 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

微粒子などの物質の拡散現象は、大気、河川、血管内などあらゆるところでみられる現象である。静止流体中では、微粒子の平均自乗変位は時間tに比例することは良く知られているが、せん断流下ではt3に比例する項が加わること(異常拡散)が1977年にvan de Vanらによって理論的に示された。これまでに光散乱法を用いた実験がなされたが、異常拡散は観測されていない。そこで本研究では、共焦点レーザー顕微鏡とレオメーターが一体となった装置を用い、せん断流下にある微粒子のブラウン運動を実空間で観察することにより、異常拡散の実験的検証を試みた。通常の平均自乗変位では、せん断による流れの影響が大きく、異常拡散を観察することが困難であった。そこで、ブラウン運動による拡散のみを抽出できる量を新たに導入し、得られた軌跡の解析を行った。その結果、理論的に予言されていた異常拡散を実験的に観測することに成功した。さらに、持続確率と呼ばれる量を求めたところ、冪関数的に減衰することが明らかとなった。また、その指数はせん断を印加することによって変化することを実験的に示した。さらに、詳しい内容については当日発表する。

断熱ピストン問題と揺らぐ熱機関の平均場モデル

佐野 友彦(京都大学 基礎物理学研究所)

2014年11月14日 金曜日 14:30- 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

断熱ピストン問題とは、円筒容器に封入した圧力は等しいが温度が異なるように保たれた2つの気体を用意し、それらに挟まれた“断熱”ピストンの静止位置は何処か問う問題である[1]。この問題はLiebによって提案された平衡熱力学のみでは答える事のできない問題として知られているが、Gruber, Piaseckiによる定量的な解析によりピストンは高温側に向かって動く事がわかり[2]、Fruleuxらによる運動量欠損の概念により現象論的な理解がなされている[3]。しかし円筒容器を滑って運動するピストンは現実的には容器側壁との固体摩擦を避ける事はできないため、固体摩擦によりピストンの振舞が定量的にどのように影響を受けるか理解する必要がある。セミナーでは固体摩擦下で気体分子の衝突を受け運動するピストンの運動方程式を、複合ポアソンノイズに駆動される確率微分方程式でモデル化し、固体摩擦の大きさが大きければピストンは摩擦の無い場合と逆の低温側に向かって動く事等をまず報告する [4]。次に2つの気体のうち1つの気体の等温等圧条件を外し、封入気体の密度と温度が時間変化する場合を考え、気体の加熱と冷却を繰り返す事で気体を熱機関とみなす。このセットアップに対し、前述のピストンの運動方程式に加えて封入気体の内部エネルギーに対する確率微分方程式をカップルさせる事で、封入気体の時間発展や熱機関の熱効率等を議論する。分子動力学計算による結果と比較を行い、揺らぐ封入気体の時間発展の有効記述となっている事を報告する。
[1] E. H. Lieb, Physica A 263, 491 (1999).
[2] Ch. Gruber and J. Piasecki, Physica A 268 412 (1999).
[3] A. Fruleux, R. Kawai and K. Sekimoto, Phys. Rev. Lett. 108 160601 (2012).
[4] T. G. Sano and H. Hayakawa, Phys. Rev. E 89 032104 (2014).

A polymer physics approach to DNA: topology and statistical properties

Prof. Giovanni Dietler(EPFL, Lausanne, Switzerland)

2014年10月31日 金曜日 14:30- 場所:ウエストウイング7階 数物系会議室2

アブストラクト

The talk will present how to use DNA of various topological forms (linear, circular and knotted DNA) in order to study polymer physics. On the other side, I will show the benefits of this approach for the study of DNA and its function inside the cell and what it can be gained from polymer physics. Examples will be presented for linear DNA of various lengths, circular DNA as isolated molecules and in concentrated forms, and knotted DNA. For these studies, Atomic Force Microscopy (AFM) images of DNA were analysed and interpreted using polymer physics concepts. It turns out that AFM images deliver a wealth of detailed data never available before and that now it is possible to compare theoretical predictions for linear, circular and knotted polymers with real polymers. The effect of supercoiling on bubble formation in double stranded DNA will be also presented and its importance for gene expression control.

アクチン細胞骨格の力学

平岩徹也(Department of Physics, Freie Universitaet Berlin, Germany)

2014年8月4日 月曜日 15:00- 場所:未定

アブストラクト

アクチン細胞骨格は、アクチン繊維(アクチン分子が連なってできる繊維状構造)が真核細胞の細胞膜直下につくるネットワーク状構造である。多くの場合、ミオシン繊維(ミオシン分子が束になってできる構造)や架橋タンパク質によりアクチン繊維同士は結節されている。真核細胞の外形変化に対する弾性や粘性抵抗を与えると同時に、ミオシンの分子モーターとしての働きによる力を媒介することで能動的な細胞変形にも関与し、真核細胞の形の維持や変形に重要な役割を担っている。当日はまず、ミオシン分子モーターに誘起される細胞骨格の収縮力に関して話す予定である。真核細胞は遊走や細胞分裂などの際の能動的な変形においてミオシンの生み出す収縮力を活用している。しかし、ミオシンがアクチンに加える力が如何にしてネットワークの”収縮”力になるのかは自明ではない。我々はアクチン細胞骨格を表すミニマルな理論モデルを提案し、内部のミオシンがネットワークに与える応力を計算した。これにより、ミオシン繊維がアクチン繊維の方向に沿って力を発生するだけで、繊維たちが自然と角度関係を変えることで収縮力が生じることがわかった。加えて、この機構で収縮力が生じるには、アクチンとミオシンだけではなく一定量以上の架橋タンパク質も不可欠であることが明らかになった。このことは過去の実験でも観測されている。収縮現象に関する先行研究を紹介した後、我々のモデルとその解析結果を説明したい。アクチン細胞骨格の力学応答特性についても話す予定である。細胞骨格が示す特徴的な力学応答についての先行研究を紹介した後、我々が研究を進めている、ネットワーク全体の粘弾性を単独の繊維の粘弾性から計算する手法について簡単に触れたい。

粘性流体中を落下する滴の変形現象に関する実験的研究

下川倫子(福岡工業大学 工学部 知能機械工学科)

2014年7月24日 木曜日 15:00- 場所:生物物理学研究室

アブストラクト

グリセリン水溶液中に比重の異なるグリセリンの滴を落とすと、滴は落下しながらトーラス状に変形した後、不安定化を起こし、複数の滴に分裂する [1,2]。分裂の数は無次元量 F = ΔρVg /μD と S = μ/ρD に依存し、増加減少すると報告されてきた[2](Δρ はニ流体の密度差,V は滴の体積,μ は粘性流体 の粘度,D は滴の拡散係数)。我々はグリセリン水溶液と硫化鉄(Ⅲ)n 水和物水溶液の滴を用い、同様の実験を行った。硫化鉄(Ⅲ)n水和物水溶液の密度は従来のものよ り 1 ケタ大きく、滴の落下速度は従来の約 4 倍である。 本実験でも、滴の分裂現象が観察されるが、従来の丸い形状のままで分裂は起こらず、多角形に変形したのち、分裂が起こることが実験で観察された。また、 本実験で溶液が与える F~106では、S~102から 104の範囲で3つ以上の滴の分裂が起こるとされてきたが、本実験では 6 ケタ以上異なるSで3つ以上の滴の分裂が観察された。その理由として、Sの導出において、滴にかかる抵抗としてストークス抵抗を仮定していることが考えられる[2]。この予想の検証のため、分裂の数 n と分裂前後の滴落下の終端速度 v 0, v1 の関係を実験で調べた。ストークス抵抗を仮定した場合、v1/ v 0 ~n-2/3 となる。実験が示すv1/ v 0はストークス抵抗が与える-2/3 乗ではなく、-1/6 乗とよく一致している。この実験結果は、本現象においてはストークス抵抗とは関数形が異なる抵抗力が滴にかかっていることを示す。講演では、v1/ v 0が-1/6 乗に従う理由について 考察を行い、滴の変形機構を議論する。
[1] D’arcy Thompson, “On growth and forms”, Cambridge University Press (1961).
[2] F.T. Arecchi, et al., Europhys. Lett., 15, 429 (1991).

弾塑性体リボンのループ-ねじれ転移

森垣康昭(横浜国立大学環境情研究院)

2014年7月3日 木曜日 15:00- 場所:ウエストウイング7階 生物物理学研究室

アブストラクト

紙(弾塑性体)でできたリボンをねじり、両端を近づけるとループが形成される。次に両端を再び引き離していくと、ループが潰れてキンクになる場合(“ループ-キンク転移”)とループが解けてねじれに戻る場合(“ループ-ねじれ転移”)がある。このような転移現象をリボンの形状や両端の駆動条件を制御パラメータとして実験的に研究した結果を報告する。

筋肉の自励振動と局所大域結合振動子

佐藤勝彦(理研CDB)

2014年5月23日 金曜日 13:45- 場所:エポック立命 309号室

アブストラクト

通常、筋肉の収縮・弛緩の状態は細胞内のカルシウム濃度でコントロールされている;カルシウム濃度が高いと収縮し、低いと弛緩する。この常識に反する筋肉の自励振動(SPOC)と呼ばれる現象がある。そこではカルシウム濃度がある一定の値に固定されているのにもかかわらず、筋肉は収縮・弛緩を繰り返す。このことはカルシウム濃度以外の何かが筋肉の状態をスイッチングしていることを意味する。この現象は40年ほど前から知られているが、其のメカニズムはいまだ明らかにされていない。本研究では筋肉の最小単位であるアクチンフィラメントとミオシンフィラメントの短軸方向への距離(格子間隔)に注目し、時間変化を考慮すると、自然に筋肉の自励振動が説明できることを示す。また、この筋肉の振動を説明するモデルを振動の位相だけで記述したモデル(位相方程式)に縮約すると、其のシステムは局所的には吸引的で、かつ、大域的には排他的な結合振動子であることが明らかになった。このタイプの相互作用はアクティブな力を出して振動している系の普遍的な構造である。位相方程式を用いて局所大域結合振動子の代表的な振る舞いを調べる。

Active Phase Field Crystal Model

Andreas Menzel (Institut fur Theoretische Physik II, Heinrich-Heine-Universitaet Dusseldorf, Germany)

2013年3月7日 木曜日 15:00- 場所:ウエストウイング7階 数物系会議室2

アブストラクト

We are interested in the formation and in the behavior of crystals that are composed of self-propelled particles. To study such materials using a mean-field approach, we combine the phase field crystal model by Elder and Grant with the Toner-Tu theory for active media. In general, we observe collective motion of the emergent crystals above a threshold value of the active drive. Various different crystalline phases can be observed: resting hexagonal, traveling hexagonal, swinging hexagonal, traveling rhombic, traveling quadratic, resting lamellar, and traveling lamellar. Upon quenching from the fluid phase, the traveling crystals emerge through a coarse-graining process from domains of different directions of collective motion. Furthermore, we qualitatively outline the impact of additional hydrodynamic interactions.

 

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