STORY #01

全員で作り上げた
人力飛行機が、
大空を翔る。

家門優光、杉江知輝

「立命館大学飛行機研究会(RAPT)」のメンバーとして、プロペラ人力飛行機作りに懸けてきた家門優光さんと杉江知輝さん。AIOLや工作センターを活用して飛行機を手作りする中でモノづくりのおもしろさを実感。その経験が進路選択にも生かされています。

部品の一つひとつまで手作りし
全長9m、翼幅32mの飛行機を
作る

パイロットがペダルを漕ぎ出すと、全長9m、翼幅32mのプロペラ人力飛行機がゆっくりと滑り出しました。プラットフォームから約10m下の水面に落ちたように見えた瞬間、機体がフワリと空中に浮かび上がりました。「誰よりも近くでそれを見届けられたのが、嬉しかった」。プラットフォームでスタートの合図を出した杉江 知輝さんは、そう感動を伝えました。

毎年7月に開催される「鳥人間コンテスト選手権大会」。「立命館大学飛行機研究会(RAPT)」は、人力プロペラ機部門への出場を目指し、飛行機作りに挑んでいます。

「入学した時、最初に興味を持ったのが、理工学部のプロジェクト団体の中でも『RAPT』と『ロボット技術研究会』でした。飛行機もロボットもおもしろそう。迷った末に、せっかくならたくさんの仲間と一緒にモノづくりをしたいと思い、『RAPT』を選びました」と、家門 優光さんは振り返ります。

翌年に向けて新しい飛行機の製作が始まるのは、8月。代表して1名が全体設計を行い、その後はパーツ別に「フレーム」、「翼」、「プロペラ」、「フェアリング」、「駆動」、「電装」、「操舵」の7班に分かれて詳細設計と製作に取り組みます。

「RAPT」の飛行機は、部品の一つひとつに至るまですべてがメンバーによる手作り。そこで強い味方になるのが、工作センターとAIOLです。「旋盤やフライス盤、CNC工作機、3Dプリンタやレーザー加工機など、工作センターやAIOLには、簡単には手に入らない本格的な工作機械が揃っています。それを自分で動かし、金属などを思い通りに加工するのがおもしろい。モノづくりが好きだったので、工作機を使うのは楽しくて仕方ありませんでした」と家門さんは言います。

長距離を飛ぶためには、極限まで軽くしながら、しかも頑丈な機体を作る必要があります。家門さんの所属する駆動班は、軽量化と強度を両立させるため、パーツの素材から検討を重ねました。「駆動部分は金属のパーツが多いので、どうしても重くなりがちです。といって無理に軽量の素材を使うと、今度は強度が心配になります。そのため含有量の異なるさまざまなアルミニウム合金を比較検討したり、負荷が大きく強度が不可欠なところと、それほど大きな荷重がかからないところで素材を変えたり、部位ごとに解析や試験をして材料を選びました」

材料が決まると、次は実製作に進みます。家門さんたちは旋盤やフライス盤でアルミニウム合金を削り、パーツを一つひとつ作っていきました。「パーツの数は駆動班だけで200以上。既成のネジや留め具でも、必要ないと判断した箇所を細かく削り、極限まで軽量化を追求しました」

機体が完成したのは、翌年の春。飛行場を借り切って行ったテスト飛行では、敷地の端まで、300m以上も飛距離を伸ばしました。「時間をかけて作った何百ものパーツが飛行機の形になって、空を飛んだ瞬間を見た時には、大変だったこともすべて吹き飛びました」と家門さん。しかし自信を持って臨んだ大会当日。台風のために競技途中で中止となり、残念ながら本番で飛行機を飛ばすことはかないませんでした。

トライ&エラーを繰り返しながら
理想の飛行機を設計する過程が
楽しい

その2年後、3回生になった杉江さんらが中心メンバーとなり、新たな機体の製作がスタート。この年、杉江さんは自ら志願し、全体設計を担当しました。「全体設計で重要なのは、パイロットの体重や体形に合った形や寸法を正確に導き出すこと。翼にはどのくらい揚力が必要で、そのために長さは何mにすべきか、コックピットはどのような形状が最適かなど、シミュレーションを行います。トライ&エラーを繰り返しながら理想形に近づけていく過程が楽しかったです」

製作では、杉江さんも「フレーム」班の一員として機体の骨組み作りを担いました。「翼の骨組みにはカーボンファイバーを使用。皆で夜を徹して4mの長さのフレームを溶接でつなぎ合わせ、32mの翼を作り上げました」

皆で協力して一つの飛行機を作るのは、楽しい反面、難しさもあります。「3回生と、1、2回生ではスキルも飛行機作りに懸ける熱量も違います。どうやったら後輩たちにも意欲的に製作に取り組んでもらえるか、ずいぶん悩みました」と葛藤を語ります。

そうして苦心の末に飛行機を完成させ、本戦出場権を獲得。しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会は中止に。杉江さんたちも後輩たちに思いを託し、活動を終えたのでした。

AIOLで実感したモノづくりの
楽しさ
将来にも生かしたい

また二人は「RAPT」の活動だけでなく、AIOLの学生スタッフとしても活躍しています。AIOLを訪れる学生に、機械の使い方をはじめ、モノづくりに関するさまざまな相談に乗るのがスタッフの役割です。「こんな研究をしているけれど、どうやって実験機器を作ったらいいでしょうか」「電子工作をするために電子部品を買ったけれど、作り方が分からない」など、その内容は多岐にわたります。「もちろんすべての質問にすぐに回答できるわけではありません。分かるのは、どんな資料やツールを調べたらいいかということ。必要な情報にたどり着くための力は鍛えられたと思います」と家門さん。

「尋ねられたら『一緒に考える』ことを大切にしています」と語る杉江さんは、自身もAIOLでモノづくりを楽しんでいます。「3Dプリンタを使って、自分用の携帯電話ケースなどいろいろなものを作りました。ベアリングのような、3Dプリンタでしか作れない造形を作るのがおもしろいです」

「『RAPT』やAIOLでの活動を通じて、モノづくりが好きだと改めて実感したので、仕事でも携わっていきたい」と語る家門さん。大学院修了後はメーカーで研究開発に携わる予定です。「自社の製品がどのように作られるのかを理解することは、研究開発においても非常に重要です。モノを作るための機械や設備を知っていることが、強みになると思っています」

一方、杉江さんは大学院へ進学。「モノづくりを通じて『考える力』が身につきました。仮説を立て、実験などで実証し、考察するといった研究を進めるプロセスにも、『RAPT』での経験が生きると思います」

モノづくりの経験を糧に将来を見据えています。

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