STORY #04

ミクロの世界で
医療・創薬に役立つ
マイクロマシンを作る

清水彩乃、清水志歩、坂田万依

マイクロ・ナノサイズの微小な電気機械システムを医療や創薬に役立てる研究をしている清水彩乃さん、清水志保さん、坂田万依さん。マイクロマシンの製作を通じてモノづくりのおもしろさを実感。その経験を自信に、未来を切り拓こうとしています。

医療や創薬、検査に役立つ
マイクロサイズのマシンを開発

マイクロ・ナノメートルサイズの機械にCPUやセンサ、動くためのアクチュエータを備えた微小な電気機械システム。「MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)」と呼ばれるそうしたマシンが今、社会のさまざまな分野で活用され始めています。清水 彩乃さん、清水 志歩さん、坂田 万依さんは、そんなマイクロ・ナノメカトロニクスを医療や創薬に役立てる研究に取り組んでいます。

清水(彩)さんが研究しているのは、手術を支援するアクチュエータとして働くマイクロハンドです。長さ7㎜、厚さわずか100μmほどの指の内部に微細な流路を作って液体金属を注入。何かに触れた際の指の歪み具合で硬さを調べるセンサの役割を果たします。軟らかいシリコンラバー製で、体内に入れても安全な低侵襲マイクロマシンとしての活用を目指しています。

また清水(志)さんは、人間の小腸を模倣したシリコンラバー製のデバイスの開発を進めています。飲んだ薬が小腸でどのように吸収され、効いていくのか。目指すのは、人の代わりに薬効を検証できるデバイスです。「新薬開発にはとてつもない時間と費用がかかります。薬の候補化合物を見つけ、試験管での実験や動物実験で薬効が認められても、最終段階の人への臨床試験で効果が出ず、それまでの開発が無駄になってしまうことも少なくありません」と研究背景を解説した清水(志)さん。「人工筋肉によって円管状に変形させ、人間の腸管を再現します。そこに薬液を流し、薬剤の灌流試験を行う人工腸管を作りたい。こうしたデバイスを使って臨床試験のもっと前段階で人への効果を調べられたら、開発効率を飛躍的に高めることができるはずです」

一方坂田さんが研究しようとしているのは、微小な基板上で、数マイクロリットルの液滴を混ぜ合わせたり、分離したり、反応を分析したりできる検査・分析マシンです。「化学物質の検査や分析をマイクロサイズで行うことができれば、現在とは比べ物にならないほど少ない試料、省スペースで、しかも迅速に検査・分析を行うことができるようになります」

高性能なCNC工作機で
微小なパーツを製作
工作センターがあるから心強い

それぞれが作ろうとしているのは、まだこの世にはないマシン。そのため、研究するには一から作らなければなりません。「リソグラフィという電子回路を作るのと同じ手法で、シリコンウエハにマイクロサイズの流路を作ります。サイズが小さいと、細かい埃でさえも精度に大きな影響を及ぼしてしまうので、製作には細心の注意を払います」と清水(彩)さん。

また研究室で作れないパーツの製作は、工作センターに依頼します。「CADで作成した設計図を渡せば、そのデータをもとに、マシニングセンタなど高度なCNC工作機で図面通りに作ってくれます。外部の企業に依頼すれば、時間も費用もかかりますが、工作センターなら専門的な加工をスピーディーに仕上げてもらえるので、ありがたいです」と清水(彩)さんはメリットを語ります。

「心強いのは、いろいろな相談に乗ってくれるところ」と清水(志)さん。「『こんなものを作りたいんです』と説明したら、『それなら自分で作れるんじゃないか』とか『寸法はこうした方がいい』など、ていねいにアドバイスしてくださいます」。スタッフに図面を見せると、「ここに固定具を付ける設計になっているけれど、ここは厚みが1㎜程度しかないから強度に不安があるね」など、工学的な見地から専門家として指摘を受けることも少なくないといいます。「図面の描き方の間違いを教えてもらったことも」と明かした清水(志)さん。「学生の間違いに気づいて直してくださるのは、学内の工作センターだからこそ。もし外部の加工会社に委託していたら、目的とは異なる部品ができてしまうところでした。工作センターを利用することが、学びにも役立っています」

工作センターのサポートを得て作製した実験用機材

自分で作るからこそ、
おもしろさを実感
「できる」という自信が
未来も拓いていく

坂田さん、清水(志)さんは、課外では「立命館大学ロボット技術研究会」に所属し、ロボット製作にも打ち込みました。中でも二人が作っていたのは、脚や腕を持ったラジコン型の格闘技ロボット。主に国内の著名ロボット競技会の一つ「かわさきロボット競技大会」に挑戦していました。

「かわさきロボット競技大会」の「バトルロボット部門」は、脚・腕構造を持つラジコン型ロボットによる異種格闘技戦。アームを使って相手のロボットを倒したり、場外に押し出したり、毎試合、激しい戦いが繰り広げられます。「一人ひとりが自分専用のロボットを製作します。例えば、アームを鎌のような形にしたり、重厚なキャタピラーを付けたり、戦い方によってロボットもさまざま。自分だけのロボットを作るのが醍醐味です。AIOLや工作センターに通って、細かいパーツも手作りしていました」と坂田さん。3Dプリンタや高性能なCNC工作機など、本格的な機器を自由に使えるのは、他大学にはない強みです。「同じプロジェクトのメンバーといえども、試合ではライバルです。大会が近づくと、AIOLは機器を使う順番待ちのメンバーで、修羅場のような雰囲気になりました」と苦笑いで思い出を振り返りました。

「授業や研究、課外活動を通じて、CADで設計したり、工作機を使って金属加工に挑戦したり、自分で『作る』経験をしたから、そのおもしろさを実感できた。何より『できる』という自信がついたからこそ、希望進路も明確になりました」と口を揃えた三人。「モノづくり企業で製品開発に携わりたい」(清水(彩))、「『メカ』がおもしろい。電化製品や電子機器の設計・開発に興味を持っています」(清水(志))、「『動く機械』が好きなので、工場などで使われるロボットを開発してみたい」(坂田)。研究に打ち込みながら、未来に向けて次の一歩を踏み出そうとしています。

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