スポーツの場を設計する:京都スタジアムに見る空間デザイン
2025年5月15日、立命館大学びわこ・くさつキャンパスにて、スポーツ健康科学特殊講義の特別レクチャーが開催されました。
講師には、京都スタジアム(サンガスタジアム by KYOCERA)の設計を手がけた建築家・上羽一輝氏(東畑建築事務所)をお迎えし、スポーツ施設設計の現場における実践的な知見と空間づくりの哲学について、幅広い視点からお話を伺いました。
スタジアム設計の実例として、コンパクトな敷地条件の中で、観客席とピッチを近接させることで臨場感を高める工夫や、建設・維持管理コストを抑える設計手法が紹介されました。
建設予定地が変更となった背景には、アユモドキという希少生物の保護が関係しており、環境との共生を前提とした計画調整の過程も語られました。
空間設計においては、選手と報道関係者の動線を分けることで、選手のプライバシーや集中力を確保するといった配慮がなされています。芝の選定においても、選手自身が複数の芝を試し、最も適したものを選ぶプロセスが採用されたとのことです。
反面、芝の育成が地域風土に合わなかったことや、ゴール裏ネットが破損し通風性に支障が出たことなど、実務における反省点も率直に共有されました。
BIM(Building Information Modeling)の導入により、図面作成や設備・構造・環境のシミュレーションが効率化され、複雑な設計業務の一元管理が可能になったことも大きな成果として挙げられました。
スタジアム設計においては、建築的な美しさのみならず、施工性・運用性をも含んだ包括的な設計手法が求められることが理解できました。
また、VIPラウンジやホスピタリティ空間を軸とした新たな収益構造の展望についてもお話がありました。欧米のスタジアムに見られるように、試合前後の商談や接待を可能にする空間づくりは、今後の日本においても重要なテーマになると感じられました。
京都スタジアムでは、足湯や保育園、3x3バスケットボールコートなど、地域と日常的に関わる施設機能も積極的に導入されています。
さらに、外観には黒を基調とし、京都産の木材ルーバーを取り入れるなど、京都らしさを意匠に反映させた点にも触れられました。山並みに溶け込むような景観への配慮や、地域文化との調和は、単なる建築物ではなく、地域社会の一部としてのスタジアムを体現するものです。
上羽氏ご自身がサッカー選手としての経験を持ち、現在も育成世代の指導に携わっていることから、講義全体を通してスポーツへの深い愛情と、空間を通じて支える姿勢が印象に残りました。
スポーツと建築、デザインと地域、そして身体と空間のつながりを考える上で、大変貴重な学びの機会となりました。