キャリア形成科目「スポーツ健康科学セミナー」:特別講義 「保健体育教員という仕事について」
2025年6月23日のスポーツ健康科学セミナーでは、和歌山県・田辺市立本宮中学校の体育教員である井上一光氏をお招きし、「保健体育教員という仕事について」というテーマで特別講義を行っていただきました。井上先生は、立命館大学スポーツ健康科学部卒業後、数年間、民間企業で勤務した後、教員に転職されました。
井上先生が実施する体育授業のテーマは、「共生」です。井上先生がいう「共生」とは、「成果」の均等をめざすのではなく、物事や活動に向き合うことができる「機会」の均等をめざすことであり、井上先生は、「共生」に対する生徒の主体的な態度を育むため、公正、協力、責任、参画、共生の意義を感じることができるような場を設定し、スポーツ活動を通じて、生徒自らが共生社会を実現できる主体者になってほしいと考えているようです。
実際の授業では、誰もがスポーツに参加でき、共に活動できるような工夫が凝らされており、例えば、生徒自身が実施するスポーツ活動に対して、オリジナルなルールを考案したり、また実際、活動後に生徒自身が活動を振り返りながら、生徒自身がルールを修正したりするようです。
授業では、「楽しい」とはどういうことなのか、ということを、生徒が「楽しさ」という言葉を深掘りしながら、協力する楽しさ、応援する楽しさ、作戦を考える楽しさ、アドバイスする楽しさなど、「身体を動かす以外」の楽しさについて考える機会を設けるようです。
そのようなプロセスを通じて、スポーツが得意な生徒と苦手な生徒との「差」を包摂・包括するような環境を整え、誰もが楽しく活動できる場を生徒自身がプロデュースするようになっていくとのことです。またこのような学習活動を実施するために、井上先生は、授業計画の単元序盤で体育理論の学習を丁寧に進めているようで、タブレット端末などのICTを活用しながら、生徒との双方向のコミュニケーションも図り、授業を通じて、生徒が「共生」というテーマを考えるようになっていくとおっしゃっていました。
最後に強調されていたのは、「スポーツは楽しい、素晴らしい、努力すればできる」という言葉に過信してはいけないし、惑わされてはいけないとおっしゃっていました。
体育の授業で「つらい」「苦しい」と感じている生徒の声に耳を傾け、できないことを受け止めることが教員に求められているため、生徒をスポーツに合わせるのではなく、生徒にスポーツを合わせるという視点と発想が重要であると述べられました。
運動やスポーツを通して、人と繋がる楽しさを学び、それを実感することが、生徒を生涯スポーツへと導くのだということを受講生に伝えられました。