コラム

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「震災から4年、長野から~地域の支援を通して見えること」(上)

島根県立大学総合政策学部准教授
(2020年3月末まで 立命館大学共通教育推進機構講師)
宮下 聖史
 私は2011年9月から3年間、長野大学の復興支援コーディネーターとして、長野県栄村の復興支援活動に従事しました。このコラムでは、この間の活動の内容を紹介し、最後に大学による地域貢献活動の意義について考えることにします。

長野県北部地震の発生と長野大学による復興支援の開始-第1期
 東日本大震災の翌日となる2011年3月12日早朝、長野県北部を震源とする震度6強の地震が栄村を襲いました。最大で全村民2,330名の77%が避難を余儀なくされたり、被災地域のほぼ全ての家屋が被害を受けたりしたことをはじめ、道路・橋梁・農地等に甚大な被害がもたらされました。
 長野大学では、同じ県内に立地する大学として復興支援を実施するため、3月22日に学長を会長とする災害復興支援協議会を設置しました。そして学内で学生ボランティアの登録を呼びかけたうえで、その年の5月から7月まで栄村復興支援機構「結い」を窓口として、ガレキの撤去や農作業・仮設住宅への引っ越しの手伝いなどのボランティア活動を実施しました。これが長野大学による栄村復興支援の第一段階となります。

第2期・復旧期
 ただし私はこの時点では本学社会学研究科に在籍しており、京都にて博士論文の執筆と提出、そして審査を受けることに追われていました。従って私が復興支援コーディネーターとして長野大学による復興支援に従事するようになったのは、震災から半年が経った2011年9月からとなります。その時点では、既に被災地では震災直後の混乱から落ち着きを取り戻しつつあり、状況の変化に応じた、かつ私たちならではの活動を進めていく必要がありました。
 こうして長野大学による復興支援の第2期は、現地での人間関係・信頼関係を築きながら細く長い活動へとシフトチェンジしていく方針を取りました。そこで具体的には仮設住宅に暮らす高齢者の孤独感解消、地元の子供たちや若い学生の異世代交流を目的として、仮設住宅集会所でのお茶のみ交流会を実施しました。さらにこの活動は他の支援団体との連携を進めることも意識しました。この点を特に進めたのは、阪神淡路大震災、東日本大震災などにおいて、支援団体がそれぞれ独自の活動を展開するために、被災者は度重なる支援団体の訪問への対応に迫られたことについて、復興支援に関わるNPO団体の方々との議論を通じて学んだからです。この段階の活動は、復興村営住宅が完成し、仮設住宅が取り壊される直前の2013年3月まで続けました。

第3期・復興期へ
 そして第3期は、復興地域づくりに向けた村民聞き取り調査の実施です。上記のお茶のみ交流会と並行して2012年6月から2014年8月まで村民60名、のべ74回の聞き取り調査を行いました。この調査の目的は、村行政による「震災復興計画」の策定に関わる議論を横目に、かかる復興計画がより実りあるものとして実現できるように、村民の皆さんからリアルな意見を聞き、それを分析し、提言をまとめることにあります。その成果は『復興地域づくりの前進に向けて-栄村震災過程の現段階と展望-』(長野大学、2014年9月)にまとめることができました。
 私はこの調査を通じて、栄村復興地域づくりの最大の課題は人口減少と高齢化にあると強く認識していました。ただしこのことは震災があってもなくても直面する構造的問題です。震災は高齢化や後継者不足などもともと抱えていた地域の問題を一気に顕在化させるという側面があります。
その意味で、栄村復興地域づくりとは、長期的視野に立った地域再生への挑戦に他なりません。ここでまとめられた報告書は、調査協力者全員と村役場の課長級以上の職員に送付しました。そこで得られた知見と課題については、次回のコラムにて論じることにします。

小括
私がかかる栄村復興支援活動を通じて学んだ大学による地域貢献活動の意義は、以下の3点にまとめられます。第1に「外部」の立場で住民から話を聞いたり人びとのつながりをコーディネートしたりできること、第2に大学の専門性を活かして課題提起やアドバイス、提言ができること、第3に(若い)学生ならではの体力や機動力・突破力を活かした活動を展開してもらい、なおかつ学生にとって生きた教育の機会となりえることです。そしてそのことは、これからの地域づくりの担い手となる人材育成へとつながっていきます。実際の活動に即してみれば、第1の点はお茶のみ交流会を通じた異世代交流に加えて、聞き取り調査ではそれぞれのアクターが抱えている不満やアクター間の意思疎通の不充分な点について把握し、風通しの良さを促す役割を心掛けました。そうした役割も担いながら第2にあげた調査報告書を村に提言したわけですが、むろん復興地域づくりはこの先も長く続くものですし、そこで明らかとなった課題も一朝一夕で解決できるものではありません。私たちの提言がどう活かされるのかもまずは栄村の皆さんの受け止め方次第でもありますが、今後も、末永く栄村に通い、ともによりよい村づくりに向けて考え、実践していきたいと考えています。
最後の点についてですが、一連の活動には、67名の学生が参加してくれました。また第1期での関連する復興イベントの参加者はこの数倍になるようです。ただし、単発的な参加になりがちであり、学生の学びと被災地での実践を系統的にマネージメントすることに成果があげられたとは言いがたい結果であったように思います。今振り返って、この点が大きな反省点です。

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