コラム
Column「国際協力NGOにとってのスタディツアーの意味」
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会 勝井 裕美1. シャプラニールの活動におけるスタディツアー
今日は、特定非営利活動法人シャプラニールにおいて、スタディーツアーが国際協力に果たす役割とは何か、を考えていきたいと思います。シャプラニールは、この問いに50年以上向き合ってきました。1972年に設立されたシャプラニールは、バングラデシュやネパールでの活動を基盤に、貧困や災害、児童労働といった社会問題に取り組んでいます。現在は、主に「子ども」「防災」「多文化共生」「市民同士のつながり促進」という四つの柱で活動を展開しており、特にネパールでは防災と児童労働削減に力を入れています。また、日本国内でも在住外国人支援や多文化共生、フェアトレードを通じた教育啓発を展開し、幅広い社会貢献を目指してきました。
特にスタディーツアーは、シャプラニールの活動において、国際協力の意義を体感し、現地の状況を深く理解するための重要なプログラムです。シャプラニールが実施するスタディツアーは多世代の一般市民を対象にしており、現地の文化や生活、社会課題について、ネパールやバングラデシュでの実体験を通じて学ぶことができます。参加者は、現地での活動を見学し、関係者と対話し、自分たちの目で課題の現実に触れます。
私が駐在員としてスタディツアーを受け入れてきたネパールでは防災と児童労働の削減に力を入れています。チトワン郡の平野部での洪水対策や、マクワンプール郡での学校環境の改善は、その一例です。現地の防災意識向上のために地域住民や地方行政関係者とミーティングを開き、洪水のリスクが高まる雨期前には避難袋の準備などを地域住民とともに確認します。また、児童労働削減に向けた支援として、子どもたちが教育を受けられる環境づくりや保護者への意識啓発活動を展開しています。ツアー参加者は、こうした支援現場に立ち会い、地域住民や関係者と交流することで、支援を受ける側の生活や思いに触れる機会を得ます。
2.市民とともに持続可能な社会を目指して
シャプラニールの国内活動もまた、スタディーツアーと同様に市民参加を重視しています。在住外国人の支援や、フェアトレードを通じた資金調達、不要品の寄付など、市民が参加しやすい取り組みを積極的に行っています。特に「ステナイ生活」と呼ばれる不要品寄付は、書き損じの葉書や切手などの寄付を募り、現地支援の資金とする活動です。市民による資金調達は、支援活動の安定的な運営に欠かせないだけでなく、フェアトレード製品の販売を通じてその製品を購入する人々の教育にも寄与しています。シャプラニールの国内活動は、「市民が身近なところから国際協力に参加できる場を提供する」ことを目指しており、全ての人が豊かな可能性を開花できる社会を実現するために、支援者とのネットワークを大切にしています。
このように、シャプラニールは国内外の活動を通して、人々が社会課題に対する意識を持ち、行動に移すための機会を提供しています。若い世代に向けては、ユースフォーラムやスタディーツアーといったプログラムを展開し、中高生や大学生が国際協力の現場を体感できる場を作っています。スタディーツアーでは、現地の同世代の若者と交流し、異なる文化背景や価値観について学ぶことができるため、参加者が自分の人生に対する新たな視点を得る貴重な機会となっています。
3.スタディーツアーがもたらす学びと経験
スタディーツアーの実施には慎重な配慮も求められます。現地の人々を貧困や困難の「見せ物」として見せてしまわないよう、参加者には現場での関わり方について理解を深めてもらう必要があります。また、途上国での活動では、日本とは異なる現地の社会的・経済的状況により、スケジュール通りに進行しないことが多々あります。天候や道路状況による急な変更にも柔軟に対応しなければなりません。こうした困難にも関わらず、スタディーツアーの実施を続ける理由は、現地でしか得られない「五感を通じた学び」があるからです。参加者は現地の空気や匂い、音、風景、そこにいる人々の生き生きとした表情を感じながら、書面や映像では伝えられない深い理解を得ることができると考えています。現地の人々との交流を通じて、支援の受け手についてのイメージが具現化され、貧困に対する考え方が変わることもあります。支援を受ける側と支援する側の双方が、互いに学び合い、共に成長していくことができるのがスタディツアーの魅力です。
さらに、スタディーツアーは参加者だけでなく、受け入れ側である現地の人々にも変化をもたらします。ツアー参加者が現地の活動に共感し、支援の意義について真摯に関心を寄せることで、現地の住民や支援者も自分たちの活動に自信を持つことができます。例えば、日本の参加者に「素晴らしい製品だ」と評価されることで、フェアトレードの生産者は自分たちの仕事に誇りを感じることがあります。また、参加者の熱意や新しい視点からの質問は、シャプラニールやパートナー団体の現地スタッフにとって、支援の意義を再確認し、活動の方向性を見つめ直す機会となります。
4. スタディーツアーの再開に向けて
コロナ禍で一時スタディーツアーは中断を余儀なくされましたが、この間にシャプラニールは対面での現場体験の重要性を改めて認識しました。オンラインでの情報提供が普及している現代においても、現地の課題に触れ、共に悩み、学び合う経験の意義は揺るぎないと考えています。対面での交流を通して生まれる「共感」と「連帯感」は、オンラインでは得られない深いインパクトをもたらし、参加者の意識と行動に変化を促すのです。
シャプラニールの活動を体感することを通して、参加者たちは国際協力において「自発的な市民参加と責任」を重視することの大切さを学びます。そして、スタディーツアーがひとりひとりに与える影響は、その場限りのものではなく、国内外の社会課題に目を向け、自らができることに取り組むきっかけとなっていくのです。実際、これまで、スタディーツアーへの参加をきっかけに、将来のキャリアを構築していく若者にも出会ってきました。
シャプラニールのスタディツアーは、参加者に現場の温度感や生き生きとした交流体験を通じて、国際協力を自分事として考えるきっかけを提供しています。現在、シャプラニールは、コロナで中断したスタディツアーの再開を検討しています。今後もシャプラニールは、現地の課題に寄り添いながら、日本国内の市民と共に持続可能な社会づくりに向けて努力を続けていきたいと考えています。