コラム
Column「大学と地域とのコーディネーション」
立命館大学共通教育推進機構准教授 髙橋 結地域と大学がともに学びあうためのコーディネーション
大学は近年、研究・教育に加えて、地域社会への貢献という第三の使命を強く求められています。特に地方においては、地域系学部の創設が相次ぎ、地域との連携を通じた教育が注目されています。一方で、大学にとって地域との関わりは、必ずしも地域社会への貢献だけを目的とするものではなく、学生の学びを深める手段としての意味も持ちます。このように、地域と大学とでは期待や目的が必ずしも一致しておらず、相互理解を深めるためのコーディネーションが不可欠です。
全学必修のフィールドワークの実践
筆者は宮城県にある宮城大学という公立大学に勤務していた際、全学必修のフィールドワーク科目「地域フィールドワーク」に関わる機会を得ました。初年度は4市町村と連携し、自治体職員の説明を受けたうえで、学生が行程を組み、教職員が受け入れ先の調整を行いました。初めて大学と関わる地域の方々からは戸惑いもありましたが、大学1年生が地域の現状を学ぶ意義(地域への気づきや動機づけが今後の学びにとって重要である点など)を丁寧に説明することで、理解と協力を得ることができました。
もちろん、初年次学生の活動が直接的に地域課題を解決するわけではなく、受け入れ側の負担も小さくありません。しかし、大学が地域に入ること自体が価値を持つ場合もあります。例えば、フィールドワークをきっかけに、自治体職員が地元事業者と新たな接点を得たり、地域内でこれまで薄かった関係が再構築されたりするなど、偶発的な協働の機会が生まれることもありました。大学が地域にもたらす価値は、学生の学びにとどまらず、地域内の主体を結びつける媒介としての役割を果たし得るという示唆を、宮城大学での実践から得ました。
地域での課題解決型演習での実践
その後、筆者は東北大学にて、ボランティア活動やサービスラーニング、課題解決型学習(PBL)を担当する機会を得ました。特に福島県をフィールドとした授業では、語り部活動を行う市民団体や、探究学習で地域のことを学んでいる地元高校生と協働し、震災の記憶や復興の現状について学生が学び、発信するなどの取り組みを行いました。この授業を構築する際には、地域支援団体やNPOと連携しながら、学びと実践のバランスを取るように努めました。
支援団体やNPOの方々が大学の意図を汲み取り、学生と地域との橋渡しを担ってくださることは、両者の目的のすり合わせに大きく貢献します。支援者やNPOが間に入ることで、大学と地域の間にある目的や期待のギャップ(すなわち「大学が学びを主な目的とし、地域が成果を求める」というような違い)が緩和されることもあります。特に初年次の学生は専門性を十分に備えているわけではないため、期待とのギャップが生じやすいのですが、こうしたコーディネーションによって、そのリスクを軽減することができます。
ともに学びあう関係性を目指して
こうした実践を通して得た小さな気づきから、筆者自身は、地域に入る前には可能な限り訪問し、講義の目的や意図を直接伝えるように努めています。文書やメールだけでは伝わらない「温度感」を共有することで、期待感のギャップを埋め、信頼関係を築きやすくなると考えているためです。また、学生には現場で積極的に問いを発するよう指導しています。外部からの視点が、地域の資源や活動を再認識する契機となることもあるからです。
大学が地域に入ることは、学習と地域貢献の両面において価値を持ちます。お互いの目的を理解し、共に学び合える関係性を築くために、適切なコーディネーションは不可欠です。単なる依頼と受け入れではなく、相互の期待に応える関係を目指すことが、これからの大学と地域の連携において、ますます重要になると考えています。