教養教育×カナデビア×QULTIVA
多様な学部・学年の学生が、
日本を代表する企業の社会課題解決に挑む。
さまざまなトライアルを盛り込んだ教養科目「教養ゼミナール」
OUTLINE
立命館大学社会共創推進本部は、実社会が抱える課題をテーマに、仲間と共にその解決策を考えながら、参加者一人ひとりの可能性を掘り起こし、育んでいく人材育成プログラム「QULTIVA(カルティバ)」を構築し、2024年度春セメスターより始動させています。立命館学園がR2030で掲げる創発性人材の育成を目的とするもので、TRY FIELDで実施されるプロジェクトをはじめ、課外での学びに積極的に取り入れられ、自主的に参加した学生の可能性を育んでいます。
2024年度秋セメスターからは、正課の科目に取り入れる試みも始まりました。その一つが経営学部「経営学特殊講義α」。もう一つがこの教養科目E群の「教養ゼミナール(47)」です。本教養ゼミナールは、初めての試みがさまざまに盛り込まれたクラスでした。「未来創造の探究×研究」をテーマに、総長、副総長など学園のトップ研究者が「なぜ研究者を志したのか?」について語りかけ、多様な学部と回生で構成されたグループで、世界的企業であるカナデビア株式会社(旧 日立造船株式会社)から課された社会課題の解決に挑む。さらにそれらを複数の教員と職員がサポートする。およそ教養科目らしからぬ内容に履修学生の負担は大きかったかもしれません。しかし、多くの学生にとっては視野が開かれるような瞬間があったに違いありません。
大学にとってこの「教養ゼミナール(47)」は、学園ビジョンR2030に向けての多くの試みが詰め込まれた授業となりました。その中核として研究と教育の拡大的再結合にむけた大きなビジョンを描くためのオリジナルの人材育成プログラムや企業との共創など、TRY FIELDで生み出された学内リソースを活用した取り組みについてご紹介します。
EPISODE
EPISODE01
初年度教育改革を目指して
社会課題の解決、
探究活動の発展にトライ
「教養ゼミナール」とは、普段、顔を合わせる機会が少ない異なる学部や学年(回生)の学生が、1つのクラスで学ぶ小集団形式の教養科目のことです。2024年秋セメスターにOICで開講された「教養ゼミナール(47)」の授業設計にあたり大学側がテーマとしたのは、学園ビジョンR2030にも掲げられている新たな価値を創造する「次世代研究大学」にむけ、各学部教学を接合し、さらに高校までの「探究学習」と大学院での「研究」との架け橋となる学士課程教育を構築する「初年次教育改革」でした。担当教員の1人、経営学部の横田明紀教授は話します。「複雑化した社会課題を解決するためには、多面的・多角的な視点での学びが必要で、多様な分野の知を統合して新しい価値の創出を目指すといった『総合知』が大切になっています。そのため、初年次教育改革を目指すにあたり、領域横断での学際知と実社会やフィールドを通じた実践知を結びつけ、社会課題への解決策の模索を通じて高校教育で盛んに行われている探究活動を発展させ、各学部での学びを深化し、研究へつなげる架け橋となると同時に、出る杭を伸ばすような授業を試行してみることになりました」。
初年次教育改革では新しい評価基準の構築も論点となっており、これに関しては2024年春セメスターから課外の運用がスタートした「QULTIVA(カルティバ)」プログラムでのコンピテンシー評価が参考となりました。多角的な視点から内省・振り返りを行う「リフレクション」を基軸としたプログラムの実践を通じて、7つのマインドと3つのスキルを中心とする「コンピテンシー」の習得を支援します。こうしたQULTIVAのプログラムでの実践と知見は「これまでのようにテストで学力を測ったり、レポートを課したりするのではなく、『この科目を通じて自分がどれだけ成長したか』という新しい評価指標を試してみる目的もあり、明確なコンピテンシーマップのある『QULTIVA』プログラムを正課の科目でも取り入れてみることにしました」(横田教授)。
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EPISODE02
立命館のトップ研究者が
「なぜ研究を志したのか?」を語る
学園ビジョンR2030年の柱の1つに「次世代研究大学」があり、初年次教育改革においても、将来、研究に取り組む学生を育てることを目指しています。そのため、この科目では、さまざまな学部・回生が有する多様な知識や視点を融合し合いながら社会課題への解決策の模索を通じ、研究に挑む力を養うことにもトライしました。最初の授業には仲谷善雄総長が登場。学園ビジョンR2030に掲げる「次世代研究大学」の趣旨が丁寧に説明されました。「学園のトップが、これから学園全体をどのように変えていこうとしているのかを学生に直接語りかけてほしいと思ってお願いしました」(横田教授)。
2回目からは、初年度教育改革の主管となる教学部の中本大教学部長・文学部教授のほか、松原洋子副総長・大学院先端総合学術研究科教授、伊坂忠夫副総長・スポーツ健康科学部教授、三宅雅人社会共創推進本部本部長・OIC総合研究機構教授といった錚々たるメンバーから「なぜ研究者を志したのか?」について「私と研究」を共通テーマに講演いただきました。また、徳田昭雄副総長・経営学部教授からは本科目のキーワードでもある「総合知」に着目し「総合知の発動による社会的インパクトの創出」というテーマで、現代社会における総合知の重要性について話していただきました。それぞれが取り組んできた研究内容や経験談は、学生にとってこれまでの「探究活動」の経験とこれからの「研究」とがつながるイメージを持てるような内容でした。
※いずれも役職名は2024年度当時
それぞれ分野は異なるのに、先生方のお話から共通して浮かび上がってきたのは「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」というキーワードでした。「自分が考える範囲、ものの見方や捉え方をちょっと超えたところに新しい視点みたいなものがある」と横田教授は話します。立命館を代表する研究者の先生方が、まったく違う研究内容について説明しながら、共通してそのことを話されたことは、強く学生の意識に残ったのではないでしょうか。
EPISODE03
ごみを資源だと認識できた時
「どう活かすか」の発想が湧いてくる
三宅雅人副学長・社会共創推進本部長による「QULTIVA」「デザイン思考」講義の後は、いよいよグループワークによる社会課題への取り組みが始まりました。テーマを提供してくださったのは、OIC H棟4階の社会共創拠点「Co-Creation Hub with Ritsumeikan」のブース(プロジェクトルーム)に入居し、すでに大学とのさまざまなプロジェクトに取り組んでいるカナデビア株式会社(旧 日立造船株式会社)です。取締役・常務執行役員の橋爪宗信氏、ICT推進本部 デジタル戦略企画室の山下智史氏のお二人が、最後まで授業に参加してくださいました。同社はごみ焼却発電施設や、造水および浄水などの水処理プラントやシステムなどを中心とした環境事業を主に展開しており、環境関連の分野で高い存在感を示しています。最初の授業で同社の沿革や事業内容の説明があり、次の回で同社が考えてほしい社会課題の大きなテーマが提示されました。その中から学生が選んだのは「地方再生」「離島や過疎地域のコンパクト/スマートシティ」「林業」「茨木市内でのごみ・水の循環」の4つです。
5~6人のグループに分かれて始まったグループワーク。学生が最も苦しみ、時間をかけたのは「課題の設定」でした。あまりにも壮大なテーマにどう立ち向かえばいいのか、ヒントさえもつかめずにいたのです。そのなかで学生たちがたどりついたのは「視点の転換」でした。「私たちは『ごみ』を『ごみ』としか認識していません。でも、カナデビアさんにとって『ごみ』は『ごみ』じゃないんです。例えば、ごみを燃やして発電したり、プラスチックのごみを固形燃料にしたり、生ごみをバイオガスにしたり、『ごみは資源』なんです。ごみだと認識するのは単に私たちの見方であって、別の見方だと資源やエネルギーに変わるんですね。そこに気づいた時に『どう活かそうか』という発想が湧いてくる。この『視点の転換』にたどりつくことが、この科目の1つの山場だったのではないかと思います」(横田教授)。図らずも、立命館を代表する研究者の先生方がお話しされていた「アンコンシャス・バイアスを超えることの大切さ」とも一致する話です。


中間発表では立命館アジア太平洋大学の学生も招いて質疑応答が行われました。留学生が多く、立命館大学とは異なる雰囲気と視野を持った学生たちからの質疑によって、また違うものの見方にふれたことは受講生にとって良い刺激になったようで、さらにブラッシュアップした内容で最終発表が行われました。
EPISODE04
科目内容の一部は
「EDGE+Rプログラム」に展開
将来の教育ビジョンにも
活かされる見込み
この科目の受講生は、H棟4階のCo-Creation Hub (with Ritsumeikan)をグループワークの場として使用することができ、同プロジェクトルームに入居するカナデビア社が、オフィスアワーを設けて学生の質問を受け付けてくださいました。また、同社から寄附をいただき、それを原資に受講生がより自由にフィールドワークや資料の購入ができるよう研究費として配布することも試みました。こうしたカナデビア社からの有形無形のサポートが講義の充実化につながりました。さらに職員2名が、学生に伴走し、学びをサポートする「探究コンダクター(仮称)」として毎回授業に参加したのも本科目の特徴です。
授業全体を振り返って、横田教授は「さまざまなトライアルを盛り込んだ授業でしたが、学生のモチベーションにもバラつきがあり、すべてがうまくいったわけではありません。それでも、履修後、一部の学生が正課外のプロジェクトに参加するようになり、学びを広げてくれていることは良かったと考えています」と話します。
受講生が参加するようになったのは、イノベーション創出を担い得る次世代の育成を目的とした正課外の実践型プログラム「EDGE+Rプログラム」です。多様なメンバーと課題を創造・実行・達成する為に必要なマインドとスキルを実践的に身につけることを目指すもので、この科目での社会課題解決アプローチの経験が後押しとなりました。

この科目の内容も2025度では「EDGE+Rプログラム」の一部として展開されるようになりました。ごみ問題を扱うプロジェクトとして、引き続きカナデビア社の協力をいただきながら石垣島を訪れるなど、さらにフィールドを広げた課外の学びとして継続中です。「教養科目としては思うような成果が上がらなかったとしても、このトライアルが立命館の大きなビジョンの中で未来に活かされることを願っています。正課、正課外でのQULTIVAでの取り組みを活かし、将来、立命館先端研究アカデミー「RARA」で次世代の研究者を志すRARA学生フェローや、起業支援プラットフォーム「RIMIX」から羽ばたくアントレプレナーの発掘・育成にもつながればと考えています」(横田教授)。
REFLECTION
プロジェクトを終えて、関わった方々の
振り返りをお聞きしました
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立命館大学経営学部
横田 明紀教授
大学としてはさまざまなトライアルを盛り込んだ科目となりました。参加した学生の皆さんには、「課題の設定」がいかに重要であり、同時に大変に難しいものであること、また、設定した課題に対して解決策を模索する中で私達が無意識に持っている特定のものの見方(アンコンシャス・バイアス)を排したところに視点の転換が見えてくることにも気づいてもらえたのではないかと思います。例えばごく普通のジュースの缶を例にすると、缶を真横から見れば長方形に見えますが、真上から見ると円形に見えるように、同じ「ジュースの缶」でも見る視点を変えるだけで見える形が異なります。同様にペットボトルもただ捨ててしまえば廃棄物ですが、視点を変えれば資源(エネルギー)として捉えることもできます。このように同じ対象物であってもどのような視点から見るのかによってまったく異なる捉え方が生まれます。しかしながら、そのような「視点を変えてみることの気づきを得る」ためには、さまざまな立場、経験、考え方、学問領域を持った人達と意見を交わし、またそれぞれの違いを理解し、包摂することが必要であることをこれからの学びに活かしてもらいたいと思います。

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立命館大学経営学部
善本 哲夫教授
今回の教養ゼミナールは受講生が学部での専門的学びを「総合知」や「Transdisciplinary Research」に結びつけていくためのブリッジになればとの想いで講義設計をしてきました。特に、異なる学部・回生の学生が多様な価値観や専門的素養に触れながら学び合うことで、現実を多軸的に理解・解釈する視点の面白さに気がついてくれたら嬉しいなあ、との期待がありました。総長・副総長による多彩な研究領域のリレー講義はその触媒であり、受講生にとって自身のアンコンシャス・バイアスから抜け出すきっかけになったと思います。その成果は講義後半の産学連携型グループワークで見て取れました。企業から与えられたテーマではなく、受講生同士が見聞き・収集した事実・解釈を共有しながら創造的な問いを共創していく姿は、多様な専門的学びの意味的つながりを見出し、個々の学生が自分自身の新たな可能性を見出そうとする意欲に溢れていました。その風景は、研究者である教員が今後目指すべき姿であると実感したものです。教学と研究の次代の融合を具体化するためのシナリオにとって大きなヒントを得る科目でした。

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立命館大学副学長 社会共創本部本部長
三宅 雅人教授
バックグラウンドの学問が違う人が集まると、議論の幅が広がります。私はこれが「教養ゼミナール」の最大の良さだと思います。例えば、理系の人と文系の人では数字の見方が全く違い、自分たちの常識は相手には通用しません。だから自ら言葉を尽くして説明しなければなりません。でも、実社会に出たらそれは当たり前のこと。学生の間にそのような経験にトライできることを面白いと感じてもらえるといいなと思います。この科目では、研究と教育の両面でさまざまなトライアルを行いました。今後も、未来につながるトライアルを進めていきたいですし、「QULTIVA」の取り組みをさらに広げていきたいと考えています。

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カナデビア株式会社 取締役 常務執行役員
橋爪 宗信氏
授業を通じて、弊社が取り組んでいるさまざまな課題に向き合っていただきました。ごみひとつをとっても、生ごみ、燃えるごみ、燃えないごみ、核のごみなど、さまざまな種類があることを知っていただけたかと思います。また、それらすべてにおいて、何ひとつとして不要なものはなく、しっかりと処理をすれば、必ず循環していきます。つまり、人間が生活しているだけで、ごみはさまざまな形に変化していくものだと考えていただけると嬉しく思います。森林も、何もしなければ木が茂って大きくなり、草が枯れることで循環が生まれます。しかし、人間が関わることによって、また別の循環や、より良い未来が現れることもあります。海や土地も、同様かもしれません。より良い未来を目指して頑張れば、地球の未来は変えられるかもしれません。皆さんにはまだ想像がつかないかもしれませんが、結婚して子どもが生まれると子どもたちの未来を考えるようになり、孫が生まれたら孫の未来も考えるようになります。この授業が、地球の未来を考える機会になれば幸いです。これからもぜひ、一生懸命勉強を続けてください。

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立命館大学教学部教学推進課(教学マネジメント)
落合 弘望職員
職員による授業支援の試行的な取り組みとして、「探究コンダクター(仮称)」という立場で本科目に参加しました。学生と教員、そして企業の方々が交わりながら探究を深める現場に、伴走者としてかかわることができたのは貴重な経験でした。授業の中で印象的だったのは、学生たちが課題の設定に苦戦しながらも、少しずつ「問いを立てる力」を身につけていく姿です。初めは与えられたテーマの大きさに圧倒されていた学生も、グループでの対話や教員・企業担当者との議論を重ねる中で、自分たちの視点を見つめ直し、問いの角度を変えていくようになりました。その過程で生まれる「視点の転換」の瞬間に、探究の本質があると感じました。一方で、授業運営を支える立場として、教員・職員・企業がそれぞれの専門性を持ち寄りながら、ひとつの科目を共に創り上げていくことの難しさと面白さも実感しました。教員の挑戦的な授業設計を理解し、具体的な運営面をサポートするなかで、「教員の意図する学びの環境をどのように実現できるか」というテーマに、自分自身も向き合うことができました。多様な関係者が関わる授業では、調整や準備に多くの時間を要しますが、それが結果的に学生の学びを支える基盤となることを再確認しました。今後もこの経験を活かし、学生の探究心を育む環境づくりに貢献していきたいと考えています。

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