近年,地球温暖化対策やインフラの海外輸出を想定して,鉄道システムに関する注目が高まっています.
国内の鉄道システムとしては,新幹線や在来線がよく知られています.
これら鉄道システムの情報通信や運行制御には,多種多様な無線通信方式が活用されています.
特に,これら鉄道システムの安全・安心・快適をサポートするためには,時速数百kmを超える高速走行時においても,
人命を託すに足る信頼性を有した列車無線システムを構築することが重要となります.
当研究室は,次の3点を課題解決のターゲットとして,列車無線システムの研究を進めています.
@鉄道の高速走行への対応
A基地局設置間隔の拡大
B高信頼化の実現
具体的には,次のような研究を進めています.
課題@に対しては,高速に変動する電波環境を予測する
伝送路予測技術
を研究しています.
課題Aに対しては,遅延時間広がりの増大に対応できるようにキャリア数を増加させた
差動マルチキャリア伝送方式
を研究しています.
課題Bに対しては,空間軸と時間軸を協調させることでフェージングや干渉への耐性を高める
差動時空符号化技術
を研究しています.
これらの研究成果により,高速鉄道のような厳しい環境においても,高信頼列車無線システムを実現することを目指しています.
災害発生時に,可搬型衛星通信電話が被災者の安否確認等に活躍したというニュースを観た人も多いと思います.
災害地域や人口密度が低い地域に通信サービスを提供するには,衛星通信が最も期待できる対応策となります.
しかし,広域サービスの提供が容易である衛星通信ですが,広く一般には利用されていないという現実があります.
当研究室は,次の2点を課題解決のターゲットとして,衛星通信システムの研究を進めています.
@微弱な受信電力の下での安定動作
A少ない周波数資源の下での収容ユーザ数の拡大
具体的には,次のような研究を進めています.
課題@に対しては,雑音の影響で受信信号の基準位相がスリップすることを防止する
誤り訂正と復調の一体化技術
を研究しています.
課題Aに対しては,自身の送信情報が分かっているという特徴を生かした
ネットワーク符号化
を研究しています.
これらの研究成果により,微弱な電波環境でも通信速度を高めた衛星通信システムを実現することを目指しています.
日本は資源のない国といわていますが,領海と排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位といわれています.このような状況を背景として,近年,日本周辺海域の豊富な海洋資源に関する注目が高まっています.
海洋資源開発には,無人海洋ロボットが重要な役割を演じますが,その通信手段には幾つかの課題が存在します.
課題の一つとして,海中では電波の減衰量が大きく,通信媒体として音波を使用する必要があることが知られています.
しかし,音速は光速の二十万分の一となり,通信環境の時間的変動の増大,信号の到達時間の遅延広がりの増大という問題を引き起こします.
このような環境は,専門用語で
二重選択性伝搬環境
と呼ばれます.
このような課題を受け,水中音響通信は,
無線通信の最後のフロンティア
と呼ばれています.
また,近年検討が始まった,Beyond 5G (6G)において,カバレッジ拡張を実現するために,
空中や水中への使用領域拡張
という目標が立てられています.
当研究室は,次の3点を課題解決のターゲットとして,水中音響通信システムの研究を進めています.
@厳しい二重選択性伝搬環境下での高信頼通信実現
A厳しい二重選択性伝搬環境の高精度環境計測
B水中音響通信の性能評価の模擬
具体的には,次のような研究を進めています.
課題@に対しては,高速な伝搬環境変動と遅延時間の広がりに対応する無線伝送技術として,
伝送路予測を用いた差動マルチキャリア伝送方式
を研究しています.
課題Aに対しては,受信信号の時間を自動的に圧縮・伸長することで,伝搬環境を計測する
リサンプラを用いたチャネルサウンダ技術
を研究しています.
課題Bに対しては,実環境を模擬した条件を実現することで,無線伝送方式のベンチマーク性能比較が可能な
パスバンドチャネルシミュレータ
を研究しています.
これらの研究成果により,無線通信の中で最も厳しいといわれる水中音響伝搬環境で,高信頼水中音響通信システムを実現することを目指しています.
無線信号処理技術は,電波による無線通信のみでなく,広範な分野に適用できるポテンシャルを有しています.
当研究室では,この無線信号処理技術を,電波による無線通信だけでなく,音響通信,光無線通信,センサ,高速回路インタフェースなど,
新規分野に展開
する研究を実施しています.
これら新規分野への展開により,新規課題の発掘も同時に実施し,無線信号処理技術をより高度なものに発展させていきます.
当研究室では,まず手始めに,2017年夏にリニューアルした滋賀県立琵琶湖博物館に,水中音を放送する装置を提供しました.
本装置は当研究室の研究成果である
水中音響通信
の技術を活用して,水中音からリアルタイムで雑音を除去するものです.
今後も,継続して,当研究室の保有技術を新規領域に展開を実施する予定です.