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応用人間科学研究科 震災復興支援プロジェクト

2012年9月3日~9月10日「東日本・家族応援プロジェクト2012 in むつ」




「東日本・家族応援プロジェクト2012 in むつ」を開催しました 

(応用人間科学研究科教授・村本邦子)

 このプロジェクトのスタート地点はむつです。むつの皆さんとの再会を指折り数えて、青森に入りました。今年は、下北地域県民局に加え、むつ市とむつ市教育委員会も一緒に共催という形をとり、漫画展は9月3~10日、プログラムは7・8日に実施されました。チラシはむつのスタッフが作ってくださいましたが、サブタイトルには「本州のてっぺん下北半島から家族の笑顔を」とあり、「立命館大学と本州最北の地元自治体の協働により、実現したこの企画は、『家族支援』という視点から地域の家族力向上及び被災地や被災者に対する復興の一助とすることを願い、サブタイトルには少しでも元気のある地域から被災家族を応援しようという思いを込めました」と記載されています。

   プロジェクト実施にあたり、現地共催機関のスタッフたちが会議を重ね、昨年の振り返りに基づいて、よりよいプログラムをと、さらにバージョンアップした企画となりました。私は中村正先生と支援者支援セミナーを担当しましたが、短い話題提供の後、ワークショップ形式で事例検討を行いました。50名ほどの参加者でしたが、なるべく所属をバラバラにした小グループを作り、困難を抱える家族の持つ力に注目して支援を考えるというものでした。緊張度の高かった参加メンバーが、グループで話すうちに少しずつほぐれていき、最初は事例の難しさにばかり眼がいっていたところから、グループで協力し、それぞれの立場や視点の違いを活かして知恵を出し合い、見立てを変えていくプロセスは感動的でもあり、連携と融合の精神を見る思いでした。

   打ち合わせや反省会、懇親会の場で、各機関のスタッフたちから肯定的なフィードバックを多く聞きましたが、なかでも、「このようなイベントを教育委員会、児童相談所、公民館、図書館が一緒になってやるのは初めてだったが、むつの支援者たちが、このようにネットワークし、むつの家族のために力を合わせることができれば、10年後にはむつの家族が幸せになっているのではないか」という言葉を聞き、このプロジェクトをきっかけに、むつのコミュニティ・エンパワメントが起こっていくとしたらありがたいことだとしみじみ感じています。私たちの役割は、何はともあれ外から定期的にやってくるというところにあるのかもしれません。

   今回は原燃PRセンターや東通村を見学し、米軍基地や自衛隊についての話を聞きましたが、下北から離れて暮らす私たちには知らないことが多すぎます。その後、核燃料再処理工場に関する報道にも注目するようにしていますが、あまりにギャップがあってほとんど報道されていません。「お父さんセミナー」の間、お父さんにパンを焼くという「キッズセミナー」に参加してくれた子どもたちの顔を思い描きながら、この子たちの未来に幸あれと願います。下北のみなさんの笑顔がこれからどんな形で京都まで届いてくるのかな?と楽しみにしながら、私たちは私たちのいるところでできることを重ねていきたいと思います。


 むつ2012 (応用人間科学研究科教授 団士郎)

    二年目を迎えたむつ市図書館ギャラリーは、状態も理解できているし、作品の展示効果も分かってきている。そのため、初めての時のような展示に関する心配は何もなかった。B全パネル20点を展示するギャラリーとしては最適だ。

   展覧会を実施すると、作者としてはできるだけ多くの人に見てもらいたいと思うのは当然である。しかし、このプロジェクトの場合、多くの人に見てもらえば貰うほど成功だと考えるのには少し首をかしげることになる。このプロジェクトには明確な目的があって、それは作者の画業の発表会ではないからである。

    展覧会という形態が自動的に持っているメカニズムを、目的に対して適切に整理しておかないと、いかに多くの観客を動員するかなどという野心が成立してしまう。たしかに観客のまばらなイベントは寂しいところはある。賑わっている場所は、それが何であろうと羨ましい気がするものかもしれない。

   しかし、私たちのプロジェクトはそういう目的で成立させているものではない。極論すれば、届いて欲しい人に、届くべきだった人に確かに届くなら、それは数名であってもよい。

   震災・津波の被災は渦中にいた人々だけではなく、徐々に様々な影響をもったものとして、日本全国に、そして世界中に波及し始めている。思いがけない影響を受けながら、そんなことは誰にも伝わることなく、暮らす人がいるにちがいない。

    その中の数人の方が会場に足を運び、展示された家族マンガを見ることで生まれたつぶやきを、聞き取ることができたら、それは何よりの対人援助だ。

    その人がどこにいるかは分からない。ならば、機会のある場で繰り返しパネル展を開催してゆけばよい。二年目のむつ市では、そんな人とのささやかな再会もあったようだ。

   二回目の反省として、いろいろな条件があった上のことだと承知で、やはり会場が二分されるのは、プロジェクト全体にとって弱点になったと思う。一週間のパネル展示が背景にあって、そこに週末の企画が実施されるのがよいのではないかと思った。 


 むつ市での活動報告(応用人間科学研究科教授 中村 正)

   今年は2回目です。

   今年度は二つの企画を担当しました。ひとつは「長続きする家族支援のために-子育て支援者応援セミナー」です。児童相談所の職員、地域の民生児童委員、学校の先生、子育てNPOなどの多彩な方々が参加してくださいました。9月7日(金)の午後1時から4時までの家族支援者支援向けの講座です。もうひとつは「お父さんのコミュニケーション教室-パパ素敵!にします」と題したワークショップです。同じ日の午後6時から7時半まででした。場所は青森県むつ市中央公民館です。下北半島のむつ湾のいちばん北側の奥まったところで海のすぐそばです。10年続ける企画の2年目です。

   「長続きする家族支援のために-子育て支援者応援セミナー」

   この企画の主旨は、ボランティア、保育士、教師、福祉職の方々など、対人援助に関わる支援者は、どうしても自分や自分の家族のことを後回しにしてしまいがちなので、ほどよい家族支援とは何かを考えるために支援者の家族理解力を高めることとしました。いろんな知恵やアイディアや相互の交流ができました。村本邦子先生と私が担当しました。最初は二人から自らの家族支援の経験と考え方を話ました。私は家族をシステムとしてみること、関係性の構成のされ方に注目すること、そのなかでも男性に焦点をあてて暴力や虐待をなくす取り組みをしていること、父親役割が家族システムを健康的に機能させる際にどんな役割を発揮するのかなどをお話させていただきました。これは知識編です。 そして後半は実践編です。児童相談所と学校から実際の事例を提供していただき、ジェノグラムを用いて家族支援することの大切さをワークショップ風に学びました。6人程度のグループに分かれて、1歳の乳児を抱えた夫婦が次の子どもが生まれてくる際にこの長子を乳児院に預けるという判断をした事例です。背景となる家族事情の説明をしつつ、家族の見立て、夫の役割、拡大家族の活用の可能性、母親の成育歴、地域との関連などの視点からこの家族の強みをみつけてそれを伸ばしていくための支援を探るという観点を共有してきます。×をつけるのではなく○をつけつつ家族のもつ力をひきだす支援の仕方を学習していきます。グループワークではみなさん実に活き活きとされていました。そして二つ目は中学でだんだんと不登校になり、いまはひきこもり傾向のある少年の事例でした。これも同じく家族の強みを見定めつつ、学校と緩やかな連携をどうつくり続けていけるのかという観点からのジェノグラムを活用した力のひきだし方を学んでいきます。 知識編と実践編の両方から、家族支援とは何かというものの見方とジェノグラムを活用した家族の潜在力をひきだしていくという家族相談者の役割について学ぶ機会が提供できたように思います。

   「お父さんのコミュニケーション教室-パパ素敵!にします」

   夜の部はお父さんのためのコミュニケーション教室です。「子育て中のお父さんが元気になるお話が満載で、お父さんに元気と勇気をもたらす千載一遇のチャンスです」とやや大げさに宣伝しました。その効果もあって18名のお父さんが一般参加してくださいました。昨年は就学前の子どもをもつ父子で参加して、お父さんのための絵本読み方教室だったのですが、今年はお父さんのみです。婚活中の未来のお父さんや孫のいるおじいさん世代まで幅広い年齢の男性たちでした。日頃思っていることや、どこかにぶつけたいこと、そして、妻には言えないことも、一緒に語りませんかと呼びかけたのです。普段あまりしないようなコミュニケーションの練習をいくつかおこないました。気持ちを伝えるコミュニケーションです。「気分や感情はいわなきゃ伝わらない!」という視点からの伝え合うための練習です。「気持ちいいな、ちょっと怒っている、それはとれも悲しい、こんなうれしいことがあった」と事実とともに伝えることが大切なのでそのためのちょっとしたトレーニングをいくつかおこないました。たとえば黙って肩をもむのとおしゃべりしながらそこがいいと気持ちを語りながら肩をもむという比較の練習です。後者の方があきらかに気持ちがいい。同じ時間でもあっという間に過ぎていきます。黙ってもみ合うのがいかに苦痛の時間なのか、加減もわかりません。自分のペースでやるしかありません。気持ちを伝え合うコミュニケーションっていいですね!と締めくくりました。こうしたワークを何種類か男性同士でやったのですが、お父さんたちもじつによくしゃべります。家に帰って家族でやってみてとアドバイスしました。帰り際のお父さんたち、別の部屋で子どもたちがパンを焼く調理実習をしていたのですが、とてもしなやかに会話がはずんでいる様子から、男もやればできる!を感じたワークショップでした。やっているこちらも楽しくできた企画でした。


 むつで過ごした3日間を通して(応用人間科学研究科 対人援助学領域 修士課程1回生 清武愛流)

  私は先日むつで行われた漫画展にアテンドとして参加した。漫画展がない時間帯はお父さん応援セミナーにも参加することが出来た。 漫画展では京都同様、たまたま通りがかり漫画展を知った方、興味を示して下さった方、躊躇いがちに遠巻きで見ている方、足早に通り過ぎる方、中には去年に引き続き漫画展に足を運んで下さった方もいた。

  今回むつ訪問にあたりどんな町なのか、震災東北3県の隣県として震災に対してどのような思いを持っているのだろうかと私は考えて訪問した。しかし漫画展に訪れる方からは漫画を通して感じた事、家族のことなど京都での参加者の方となんら変わりはなかった。京都同様、むつでもアテンドとして漫画展を見に来られた方と交流を持ち、漫画展で心地よく漫画を楽しんで貰えるように心がけた。冊子を渡したり、興味深そうな雰囲気だがあと一歩が出ない方への声掛けのタイミングを計ったりと京都でのアテンドの経験を元に私も働きかけていた。しかしきっかけやタイミングを計るのはとても考えてしまうところでもあった。そんな中でも会話を交わした方はいた。例えば、冊子を渡した方で末尾にある団先生のプロフィールまで読み、下北半島にゆかりのある「新島襄」の話をわざわざ戻ってして下さった方もいた。冊子と言う媒体を通して会話を持てた瞬間だった。他にも昨年も漫画展に来場されており、去年の冊子はお友だちにあげたとのことだった。プロジェクトに連日参加されている方は、先日渡した冊子はお友達にあげたと話して下さった。この会話から一つのきっかけが会話を広げ、つながりを広げているのだと知ることが出来た。こうして会話を交わすと前回の開催後からの展開を不意に知ることもでき、継続して開催することの意義が見えた気がした。

  また漫画展の会場だが図書館で開催された。ここで私は面白い発見をした。町の方々が図書館に集まるとは聞いてはいたが、本当に幅広い年齢層の方が集まっていた。読書をする為だけではなく一人で過ごす人、家族で来館する人、勉強をする人、食事をする人など様々だった。目的は何であれこうして人が集うコミュニティーがあり、そこで開催した漫画展は京都での開催とはまた違い、素通りされる方よりもじっくりと漫画展を楽しんで下さる方が多かったのも特徴的だったと思う。

  お父さん応援セミナーは、「パパ素敵にします」と言うサブタイトルでむつに住む方と関わり、私も含め最初は緊張している姿だったが終了時にはみんな一様に笑顔になり会場を後にする姿があった。セミナー中の会話は日常的な会話が弾んだ。

  最後に、直接・処方的な支援ではないとは思うが、私たちが東日本・家族応援プロジェクトという名前を掲げ、足を運ぶことでそれぞれ何らかのきっかけを届け、元気になる現地の人の姿や何かを考え去っていく人と関わることになった。そこで私は、ここに来られた方が感じたものや、笑顔がその人の身近にいる人の支援に繋がっていくのではないかと思った。このきっかけを提供する支援も復興支援の一つだと実感することができたように思う。それは、現地の人が自ら何かを発信したいという思いや姿から感じることが出来きたからだった。


東日本・家族支援者セミナー2012 in むつ(臨床心理学領域 修士一回生 永田智弥)

  私は今回、先生方のお手伝いとして同行させて頂いたが、学びの多い活動に携わることが出来たという思いを強く感じている。そのように思う一つには、本プロジェクトを企画、運営して下さったむつ市の職員の方々や、参加された方々とお話できたことによって、むつの方々の生活というものを少なからず知れたことであると思う。むつにおいては、原発関連施設や自衛隊の基地など、日常生活を営む上で危険に思われる要素があるが、それらが経済的に深く入り込んでいるため不満があっても「言えない」空気があるのではないだろうかと考えていた。しかしながら、それは幾分もズレていることだと、今思える。経済云々などの話ではなく、親類や知人など、個々人が正に「繋がっている」人々がそこに居るから「言わない」のではないだろうか。それは同情などではなく、共に生きているという確信と決意によるものではないだろうかと思う。

  またもう一つには、そこで確かな繋がりが出来ていると実感できたからである。本プロジェクトは10年継続する形をとっており、実施する内容が少しずつ拡張されたり、既に来年の日程の話も進められていることから、回を重ねる毎に関係者間での繋がり、ひいては参加して下さった方々との繋がりが濃くなっていくと思える。そして、今年参加した私にも同じことが言えると思う。それは、同い年の現地スタッフとしっかり話をすることが出来たからである。私が来年もこのプロジェクトに参加出来るかは分からないし、彼が来年も異動せずそこに居るかも分からないが、もしそうなれば「去年はこうだったよね」などとちょっとした昔話が出来る。そう思うだけで少し笑えるからには、彼と繋がりが出来たと言えるのではないだろうか。

  共に同行した同期とも、来年も行こうと話をしている。「継続は力なり?」「継続は繋がり」。



むつ市中央公民館



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むつ市図書館



漫画パネル



漫画パネル



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来年に向けて反省会




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