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応用人間科学研究科 震災復興支援プロジェクト

8月23日~9月7日 青森県むつ市「東日本・家族応援プロジェクトむつ in 2014」




「東日本・家族応援プロジェクト2014 in むつ」を開催しました 

(応用人間科学研究科教授・村本邦子)

   4年目を迎える「東日本・家族応援プロジェクト」が、今年もむつからスタートしました。昨年に引き続き、むつ市、むつ市連合PTA、下北地域県民局地域健康福祉部(青森県むつ児童相談所)との共催で、今年は漫画展の期間を8月23日(土)~9月7日(日) と2週間に延長し、 むつ市立図書館にて、9月6・7日に、むつ市役所、むつ市中央公民館、むつ市立図書館にて、家族支援プログラムを開催しました。

   私は中村さんと一緒に定例の支援者支援セミナーを担当し、ワークショップ形式で事例検討を行いました。60名の参加者を小グループに分け、むつの方々から提供して頂いた事例をもとに、家族の強みに着目した支援、専門家に頼るだけでなく地域の力を活かす支援を考えてみました。支援者たちはつい問題点に眼が行ってしまいますが、強みをうまく引き出す眼を鍛えたいものです。一人では難しいこともグループで話し合えば視野が広がり、全体で知恵を共有すると、さらに大きな力になります。毎年、みなさんとご一緒しながら、むつの家族や地域の強みが少しずつ具体的に見えるようになってきます。私自身も勉強です。ここで学ばせて頂いたことを、また他の地域にも還元していきたいと思います。

   今年は、プロジェクトについて地元の方々の声を聴くということもやってみました。むつのみなさんが、忙しい日常のなかで、少しでも多くの人たちに届けるにはどうしたらいいのかと知恵を絞りながら、1年かけて準備をしてくださっていることをあらためて知り、嬉しくありがたく、大きな力を頂きました。むつ市長はじめ、共催機関の代表者たちも応援に駆けつけて下さり、協働の土台が築かれてきたことを感じます。

   アンケートからも、4年かけて蓄積してきた力を感じました。今年初めて出会ったという方もいらっしゃれば、3回目、4回目という方もいらっしゃいます。「今年も来てくれたと思いながら足を運びました。10年のプロジェクトですが、毎年自分の1年と思いながら漫画展を見ています」というお声もあれば、「はじめて参加し、色々な意見を聞き合えたことは大変勉強になりました。私が先生のご本と出会ったのは、2011の初冬に岩手県遠野市にあるボランティアセンターに何度か足を運んだ時、『木陰の物語-3.11への記憶―』でした。そこから避難所を訪ねていた折に冊子の中のことばがジワジワと染み込んできて少しずつ、そこからあったかいものが広がっていく不思議な状況を体感したのを覚えています」というお声もありました。

   東北4県で10年やると決めて始めたことの手応えを感じます。10年後には、きっともっとたくさんのものが生まれ育っていることでしょう。

 四回目をむかえたむつ市図書館のギャラリーは (応用人間科学研究科教授・団士郎)

   四回目をむかえたむつ市図書館のギャラリーは、ますます落ち着いて安心できる展示会場になっていた。来場者もなにが展示されているのかを了解して、見て下さっている方が多い気がした。

   毎年、スタートとなるここが、パネルになった自分の作品を初めて目にする場所なので、ちょっとドキドキするのだが、いつもおおむね納得である。しかし今年は、ギャラリー正面に展示された黄色バックの作品が、展示の中で浮いている気がしていた。背景の色の選択が、思った以上に明るかったのだ。村本さんからもそのことを言われたので、やっぱりそうなのだなぁと確認。

   来場者の感想の書かれたアンケートやノートも年々、充実したものになっている。こちらが届けたいものと、受け取っていただいているものが調和して、生まれて欲しいものが成立している気がする。やはり継続は力である。そしてそれは質的な深まりであるのだなと実感する。

   四巻目になる配布用冊子「木陰の物語」だが、図書館スタッフの一~三巻を読みたいと思う人もいるだろうという配慮から、バックナンバーの貸し出しテーブルを用意して下さっていた。この発想は私にはなく、ここのスタッフならではの対応だと感心し、こんな風に大切にして貰っているのがとても嬉しい。

   マンガトークも四年目。「子どもの貧困」が話題になる昨今、そこから見えてくるものの話を選んだ。「火種」、「赤いワンピース」(展示作品)そして「その、チカラ」(第四巻収録作品)をスライドショウで見てもらいながら、家族の貧困と援助者側の貧しさについて考えたことを話した。

   ただ、テーマがシリアスなところもあってだが、話題全般が真面目な基調になってしまった。マンガトークはもう少し楽しんで貰うというか、笑って聞いて貰いたいところがある。シリアスになると心理学的分析というか考察が増加するのだと思う。

   次回、多賀城展でのマンガトークは、内容を少々変更する予定だ。

 むつレポート(応用人間科学研究科教授・中村正)

①支援者支援セミナー
   村本さんがメインで進行役となり、私はサブの役割で分担しました。地元からそれぞれ事例を提出していただき、60名の参加者でケース検討風にすすめました。主眼は「事例研究をとおした家族理解と地域における支援の協働」です。

   私が担当した後半は、いわゆる泣き声通報の事例でした。近隣住人からの匿名通報です。協力支援は出来ないという方からでした。ここ1ヶ月くらい、夜中や早朝に女の子の泣き声が聞こえるというものでした。女の子は幼稚園くらいで、わめくような、怖がっているような泣き声で、男の人の怒鳴り声も聞こえるとのことでした。夜中に家から追い出されていような声も聞こえるというのです。市には家庭状況や健診等の情報提供を求め、地区民生委員には近隣の調査を依頼しました。調べていくと、母の怒鳴る声が時々聞こえるようですが、何処の家庭でもあるような感じの声だということでした。「子育てで忙しいのではないでしょうか。あの若さで幼い子どもが3人ですから大変だと思います。怒る回数は多いかも知れないけれど、虐待と思われるような感じではありません。」という地域の方々の印象でした。三人の就学前の乳幼児さんを育てている家族で、特に問題はない様子です。

   ここで悩ましいことは調査に入って親がこころを閉ざさないかということです。幸い、すんなり会話ができたようです。子どもは泣いて大きくなります。窓を開けている季節に通報が多くなるのです。この場合は7月とのことでした。関西では冷房を入れるので7月は通報が少ないのですが。この家族は長女が幼稚園にも通い、保健所の定期的な診断にも来ていたそうです。だから、虐待ではありませんでした。

   こんな時に地元の民生委員は何ができるだろうかと問いかけました。5人ずつに分かれた各グループでは、地域で子育て支援のことや困った様子の人に関心をもつ人たちを中心にして自然な働きかけができるといいよねという結論に落ち着いていきました。さらに、泣き声通報をどう捉えるとよいのか、以前だったらどう対応していたのかと聞いていきました。子育ては難儀な仕事なので、「大変ですよね」という一言が大切だろうということになりました。全国の児童相談所が対応した児童虐待件数、2013年度は7万3,765件、これまでで最も多いといいます。こうした泣き声通報もカウントされているのでしょう。虐待の疑いのある親として警察のようにアプローチするのではない工夫が要ると思います。民生委員の役割が期待されるテーマだったのです。

   復興に関わる場合でもそうなのですが、時間の経過とともに、支援者支援は間接支援として重要なものとなります。参加者60名のうち、地域の民生委員の方々が半数くらいでした。昨年から研修の機会として位置づけていただいています。前半の事例は虐待があり、養育里親に出したあとに家族再統合をしたのですが、また虐待があり別の里親のもとで育っている事例だったのです。ともに、虐待家族や虐待のおそれがある家族として責めるのではなく、それでもなんとかがんばっている「強み」(ストレングス、レジリエンス)を見いだしていく、そうした家族の見方ができないものかと思ってケースの見方の練習をしているつもりです。これはこの震災プロジェクト全体の課題と重なります。各地域との協働で、その地域がもつ本来のレジリエンスが発揮できるようにする、そしてそのことをとおして私たちも「力づけられる」(エンパワーメント)という重層性、相互性を成しています。

   でも、問題点ばかりに注意がむかいます。泣き声通報の調査に応じてくれた母親は立派である、という具合に家族が見えればいいなと思っています。重篤な虐待事例の発見になるかも知れないので、匿名通報もいいのですが、困った時の暖かい声かけが大切だと思います。それほど身近な人たちの役割は大きいのです。学校でのいじめでもそうです。周囲の人たちの暖かい支援的な関わりや声かけがまずは大きな機能を発揮します。虐待、いじめ、暴力は、周囲から孤立したなかで起こり、密室化していきます。見えなくなっていきます。そして批判したり無視したりするような周囲の環境だとそれはさらに閉じていきます。ですから「通報」は諸刃の刃です。相互監視のようなものに映ることがあるので、信頼関係や共感的な声かけが功を奏していくことになります。地域で日常生活をともにする民生委員の役割はこうしたことに自覚的であればあるほど効果が大きくなります。

②お父さん応援セミナー
   今年で4回目です。昨年と同じ中央公民館でした。9月5日、金曜の午後6時から90分間です。30人が参加してくださいました。リピーターは10人です。お父さんセミナーに来るのだから、何かしら父子関係にテーマを感じている男性たちだろうと思い、自己紹介を兼ねて聞いてみました。自分のお父さんとの関係があまりよくないと思っている人がどのくらいいるのかと。3分の1くらいはうまくいっていないと答えてくれました。その内容は、厳しいしつけや暴力だったといいます。年配の方からは父が海軍に入っていたので近寄りがたかったと話してくれました。あるいは、親父は寡黙だったのでもっと話がしたかったという人もいました。感情面での交流が少なかったというのです。自分の子どもとの関係を意識してお父さんセミナーに来てくださっているのですが、まずは自分の父子体験を見つめ直すことをもっと重視したいと思いました。これは来年の課題にしたいと思う発見でした。3分の2は自らの父子関係は良かったと思っているので、それはどういう意味なのかと話し合い、言葉にしながら、この二組の男性たちの対話を試みようと思ったのです。20代から60代までの、仕事も多様な男性たちの偶然の集まりなので、豊かな男性の出会いができるはずだと思ったのです。こんな集まりは、まず自然にはありません。一期一会の男性たちの出会い頭を感動的にしたいと思いました。

   もちろんリピーターの方々はこうした男性同士の関わりを強く望んでいます。でも、その方々も最初から、そうであったわけではないはずです。何かしら感じていたとはいえ、毎年、このセミナーに参加し、徐々に協働しながら面白さや心地よさを発見していったはずなのです。今年も、「いやいや・しぶしぶ参加した動員組」の男性たちが3分の2いました。PTAによる動員です。まあ、それでも来てくれたのだからよしとして、90分を楽しんでもらいます。動機が低い分、満足度を高めることができます。申し訳ないのですが、いつも女性たちは受付です。男性ばかりのグループワークだからです。入ってきたときの男性たちの表情とはうってかわり、楽しげな顔つきで帰って行きますという報告を聞くと、動員組もそれなりの満足感を得たとのかと嬉しくなります。やっていることはコミュニケーション教室です。アサーショントレーニングの男性ジェンダー版です。なんといっても、お父さんたちはがんばっているというメッセージを送り続け、あとひといき、親父が変われば社会が良くなるというメッセージをだしています。いつもは刑務所のなかで性犯罪者たちと、児童相談所では虐待父親たちと、学校ではハラスメント加害者や体罰で処分された男性たちとの面談や相談をしているので、こうした健康的な男性たちとのグループワークは、私の健康的な男性性が刺激されて心地よいのです。では、健康的ではない男性性とはどこが違うのでしょうか。私のなかにも巣くう男性性のダークサイドがあります。この両者は地続きでもあるなと思います。でもその違いは決定的です。むつの男たちと出会いながら思うことは、グループワークを楽しんでいるということです。アルコールもなく、ただ純粋に出会いを楽しんでいるのです。結びつけているのはただ男性であるという一点につきます。健康的なホモソシアルさです。利害のない、競争もない、背景も知らない、多様な世代と経験をもつ男たちが、純粋の会話を弾ませます。本当に楽しそうなのです。もちろん、暴力を振るわないことや子どもを育てる責任のこともいいます。だから社会問題を気にします。男性の責任も刺激するので、未来を案じる気持ちもでてきます。ちょっぴりだけですが、きちんとした面もあるグループワークなのです。また来年も動員組とリピーターの出会いがあればいいなと思いました。90分はあっという間に過ぎていきました。

むつ市における遭遇から考えさせられたこと(対人援助学領域M3 清武愛流)

   私が足を運ばせていただいたのは3回目。漫画展のアテンドという役で参加をさせていただいている。『家族漫画展』が行われていることを知って来てくださる方、知らずして来てくださる方が今年度の『家族の物語』に「遭遇」をする。私は、ここで起きている「遭遇」が如何なるものなのだろうか、と興味深く感じている。今回、その意味が少しずつ見えてきたように思う。ふいに何かと出くわす瞬間をイメージさせる言葉ではあるが、一瞬だけの出来事だとは言い切れないのではないだろうか、と思ったからだった。

   昨年まで、青森空港からむつ市まで、共催いただいているむつ市児童相談所の方が送迎をしてくださっていた。今回は、院生だけで京都駅から下北駅へ入った。同じ道ではなかったのだが、駅名を聞くと思い出す過去の出来事があった。送迎をしていただいた時、休憩がてら立ち寄ってくださった「横浜町」。ここにある「ほたて観音」で毎年写真を撮ってもらっていた。これらは、今までとは違う経験をすることで、再確認してゆく自身があったのだと思う。誰かが時間をかけてくれているということ、そして、その土地にスポットとなる場所があるということを。

   漫画展においても同じ様なコトを感じた。むつ市における『家族漫画展』会場は、むつ市立図書館で行われる。プログラムを持っていくのは、私たちである。しかし、置いていただける場を創りあげてくださる方々は、当日を迎えるまでに丁寧に段取りをしてくださり設営をしてくださっている現地の方々である。今年も、パネルの順番やアンケートの配置、プログラムの案内をしてくださっていた。する側とされる側と区分されるわけでなく、もともと場所があり、互いに参加し合いながら当日を迎えることができるのである。

   こうした場に私も含め、展示会場に足を運ぶ方がいると思うと、「遭遇」するということは、そこに至るまでの過程に誰かが関与していること、そして、出会うということで見える事象だけでなく、過去の経験にも遭遇していくのだと思った。

   漫画展のアテンドは、何か直接的に問題や原因に関与していくものではない。しかし、展示会場といった場所や漫画パネルといったモノに関与していることで他者との「遭遇」が生まれることを、これからのヒューマン・サービスを考え具現化していく上で意識しておくことも大切なのではなかろうか。それは、何かを指示、提案することを目的とされていない「遭遇」の中で私自身が、過去の気づきやこれからのテーマを考えさせられる機会となったからだと思う。

   最後に、これらを体験できたのは、継続的にかかわりを持ってくださる現地の方がいたからだった。ありがとうございました。

「東日本・家族応援プロジェクト2014 inむつ」に参加して(臨床心理学領域M2 洪 潤和)

   今回が私にとって2回目のむつだった。2回目ということもあって、比較的肩の力を抜いてプロジェクトに参加できたように思う。

   今回のプロジェクトに参加する中で特に感じたのが「地域性」ということだった。支援者支援セミナーでの事例も、この地域の特性がよく表れているものでとても興味深かった。また、セミナーを通して、やはり支援を必要とする人が元々持っている力、強み、そしてその人や支援者がいる地域が持つ力や資源といったものに支援者自身が積極的に目を向けるというのはなかなか難しいのかもしれないと感じた。もちろん自分自身も含めて。グループディスカッションでも強みより「もっとこうだったらいいのに」という話のほうが多かったように思う。支援を必要とする人が生きる地域、取り巻く環境、その土地の文化、社会的状況なども視野に入れながら支援をしていく必要性、そして専門家だけがそれを担うのではなくその地域に住む人たちが互いに支援し合う、助け合うということがまたその地域の力を高めてくことに繋がるということを改めて学んだセミナーだった。

   去年は原発や基地といった事柄で語られがちな中、そこで実際に人々がどのように生きているのかを自身の五感を通して知りたいと思いむつへ行ったが、地域の過疎化やそこに絡んでくる原発関連施設や基地といったものが自身の生活の隣り合わせにあり、また生活に深く食い込んでくるというのはどうゆう感じなのだろう、ということを今回は現地の方々のお話や自分の見たものから考えさせられた。

   みなさんと「また来年」とお別れしたが、私に来年があるかどうかはわからない。でも私がいなくても次の人が繋いでいってくれるのだろう。この土地に、この土地に住む人々に、そして人々が営む生活に思いを馳せ続けることが私にできる小さなことであり、これからもしなくてはならないことだと思う。

東日本家族応援プロジェクトin むつ (臨床心理学領域M2 木下大輔)

   今回で2度目となる東日本家族応援プロジェクトの参加にあたり、私は院生という異質な他者がその場に入っていくことにどんな意味があるのかを特に意識した。ここで言う異質とは、もちろん現地の人間ではないということに加え、プロジェクトの準備、企画、運営に直接関わることはないが、かと言って支援者として専門的な知識や技術を持っているわけでもないという意味で異質だと私自身が感じていることによるものである。先述したような意識を持ってプロジェクトに参加しようと思ったのは、昨年参加した際に、このプロジェクトがそもそもむつ市の児童相談所の方々やその他関連機関の方々、そして先生方による支えのもと成立しているものであるということや、自分がそのプロジェクトに参加して何もできなかったということを痛感したからである。それゆえ、今回はプロジェクトに参加される色々な方に積極的に声をかけることを心がけ、院生という立場だからできることや院生である自分がこのプロジェクトに参加する意味を考えた。

   2日目の支援者支援セミナーとお父さん応援セミナーに向けての打ち合わせや、当日に児童相談所の職員さんとの会話を通して、改めてこのプロジェクトが児相を含めその他関係機関の方々の努力の上に成り立っていることが伺われた。そんな中、児相の方にとって特に大変なことは何か聞いてみると、参加者を集めることであるとおっしゃっていた。「参加した方に満足してほしいし、絶対何か得るものはあると思うから、少しでも多くの人にこのプロジェクトを知って欲しい」という言葉から、このプロジェクトに懸ける思いの強さを感じた。支援者支援セミナーでは、参加された方々が一つの事例をグループで検討することになっており、私もいくつかのグループに混じって議論を聞かせていただいた。活発に議論されているところもあれば、なかなか意見が出ずに考え込んでいるグループもあったが、参加された方はみんなこの機会に事例を考える上での視点や、支援のための技術を学んで帰ろうとされていた。また、お父さん応援セミナーでは昨年と違ってリピーターの方が何人かいたが、初めて参加する方々が多く、正直に言うと気乗りしないと言う方もいた。しかし、これは昨年と同様にセミナーが始まると表情もやわらかくなっていき、最後にはみんなとても良い笑顔で帰っていかれた。このように、児相の方には「このプロジェクトをもっと多くの方に知って欲しい」という思いが、セミナーに参加する方には「参加するからには何かしら実りある物を得たい」という思いがあるのではないかと私には思えた。しかし、冒頭で述べたように、院生である私にはそういった方々の思いに応えることができない。実際にできることと言えば、会場の設営や受付、そしてその後片付けぐらいのものだった。

   昨年はこうした状況を知って、院生は何もできないのではないかという考察で終わってしまっていたが、今年は2回目の訪問ということもあり、昨年とは少し違ってきた。それは、お父さん応援セミナーでリピーターの方が「昨年もいたよね?」と私の顔を覚えていてくださったり、児相の方が夕食のときに「昨年関わった人たちで一緒に食べよう」と私を誘ってくださったことが原因である。昨年大したことは何もできなかったにも関わらず、私を覚えていてくれたり、色々なことを話してくれたりすることがとても嬉しかったし、意味のあることだと考えるきっかけになった。つまり、何もできないからこそ、異質な存在であるからこそできることがあるのではないかと考えたのである。例えば、支援者支援セミナーやお父さん応援セミナーで、参加者の方と同じ地平に立って簡単に答えの出ない問いを一緒に考えることができたり、児相の方にこのプロジェクトに対する本音などが聞けたりするのは、参加者の方が求めるような知識や技術を持っていない、あるいは職員でもない先生でもない院生だからこそできることではないだろうか。

   最終日に行われた漫画トークで、「励ましているほうが逆に励まされる」という言葉があったように、今回プロジェクトに参加したことで、「何もできないけど何かしたい」という思いを持っていた私に、むつの方々は「何かしてくれた」のである。きっと、こうした「励まし合いの連鎖」のようなものは、プロジェクトの内外を問わず伝わっていくのではないだろうか。そして、その連鎖をまた別のところに伝え続けていくことが院生という異質な他者がプロジェクトに参加してできることなのだと考えた。また、昨年参加した人と再開することを通して、むつ市だけでなく他の色々な地域が抱えている問題を忘れない、そしてそれを包括する大きな問題としての東日本大震災を忘れないということに意味があるのだと考えた。以上のことを考えるきっかけを与えてくださったプロジェクト関係者の皆様に感謝したい。

「東日本・家族支援者セミナー2014 in むつ」に参加して (対人援助学領域M1 真鍋拓司)

   東日本大震災から3年半、人々から段々と関心が無くなりつつある今日、被災地では多くの問題を未だ抱えている。その中でこのプロジェクトに参加できたことを嬉しく思っている。メディアでしか見聞きしたことのない下北半島を訪れ、そこでの人々の暮らしを感じ、現地の方々と協働することは私にとって大きな刺激となった。

   「原発」、「基地」ばかりが目立ってしまう下北半島だが、確かにそこには人々の暮らしがあった。世間で叫ばれている問題とは裏腹に現実にそこで暮らしている人々がいる。そういった当たり前のことを、現地を訪れることでやっと分かった気がする。賛成・反対で切り捨てずに、抱えながら生きていることを含め、その人、土地の背景を理解して初めて対人援助は成り立つのだと思う。

   また、他職種の連携の難しさ、素晴らしさを感じることができた3日間であった。立場や目的、手段の異なるお互いを理解し、共に1つのものを目指すことの大変さはあるが、結果は1つの目線や持っているものだけでは到底できなかったものだった。そして築かれた連携がお互いのこれからのパワーになるのだと思う。それは知識やスキルだけでなく、このプロジェクトのプロセスで築いたたくさんの繋がりであり、素晴らしいものであった。今回得たパワーは他の地域で、来年この地で再び活かされるのだろう。

   最後に、このプロジェクトを通して自分が出来ることはたくさんの人と繋がり、プロジェクトを次へと繋げることだと思った。私1人が出来ることはとても小さなものだが、継続して参加することでその意義も深くなり、伝えられることも増えいくのだと思う。このプロジェクトに参加できたことを感謝し、この3日間で経験できた多くのことを活かしていきたい。

「東日本・家族応援プロジェクト2014 inむつ」に参加して (対人援助学領域M1 尹 榮淑)

   9月4日-6日、青森県むつ市における家族応援プロジェクトに参加した。いくつかの企画の中、私は支援者支援セミナーに参加した。

   支援者支援セミナーでは「家族の力・絆」をテーマとして、児童相談所からの事例を挙げてジェノグラムを用いてグループワークショップを行った。参加者は民生・児童委員、児相、児童家庭課など子ども支援をされる方々であった。私はスタップ・参加者としてグループを回しながらワークに参加していろんな意見を聞くことが出来た。事例が挙げられ、また問題提示をすると参加者みんなが問題について積極的に取り組み意見を交換して支援方法を考えていた。事例の子どもの状態から始まってお母さんの仕事による問題、お母さんとお祖母さんの関係性や旦那さんとの関係、近所の人たちとの関わりはないのかなどいろんな事を考えながら問題原因について意見を交換した。また、家庭の問題・原因が分かれば解決出来るという意見も多く、みんなが家族の大切さ・力を分かっていて支援者として問題に立ち向かえ家庭を守ろうとすることを感じた。

   「家族の力」を感じ、「むつ市の子ども支援者の方の力」も2時間の間、目と耳、心で感じる時間であった。来年もぜひプロジェクトinむつに参加したいと思う。

「東日本・家族応援プロジェクト2014inむつ」に参加して (対人援助学領域M1 村上歩未)

   本プロジェクトに参加するにあたって事前レポートでは、むつの地域の特徴(観光など)、原子力船「むつ」、使用済み核燃料中間貯蔵庫について調べた。むつの観光サイトから見どころが沢山あることが分かったが、それに対して、原発関連施設が集中していることもあって、この地域をイメージすることが難しかった。しかし、実際現地での3日間は、観光名所をまわった訳ではないが、至る所でむつの良さを発見することが出来た。釜臥山はこれまでみた山の中で一番面白いかたちであった。むつ湾は特に美しく、素晴らしい所であった。現地でのスタッフの方々のお話からむつの良さを知ることも沢山あり、よりこの地域をもっと観てまわりたくなった。

   支援者支援セミナーでは、グループディスカッションのサポートをした。ここが足りないという考え方ではなく、「この家族の強みは何か」という考え方を持つことで、より支援の幅が広がり、その家族の未来にもつながっていくと感じた。また、地域という第三者とのつながりが、家族の支えになることも多いことを学んだ。つまり、第三者である支援者の皆さんも私も、家族を支援するにあたってとても大事な役割を担っていることを事例について検討する中で気付けたのではないかと思う。また、多職種との連携は、対人援助をするにあたって重要なことである。そこで、今回の支援者支援セミナーで様々な職種の方の経験や考えを聞くことで、それぞれの専門性が話題の中で発揮されていて「連携」というものを体験することができた。

   そして、何より驚いたのが、本プロジェクトの手伝いをしてくださった現地でのスタッフの皆さんのご配慮であった。そのおかげでセミナーにおいての会場準備もスムーズにいき、団先生のマンガ展でも、去年より観やすくなるように工夫をしてくださり、本当に感謝の気持ちでいっぱいになった。これは、これまで先生方や先輩達が築きあげてきた、「むつとの絆」の証であると私は思う。だからこそ、私もまた来年へとつなげていきたいと思う。また、市長とお会いすることが出来たこともこのプロジェクトにとってすごく励みになったと思われる。これからも、励まし、励まされるこの関係を大事にしていきたい。3日間、本当にありがとうございました。



むつ市役所







支援者支援セミナー



お父さんセミナー



むつ市図書館



漫画展



漫画トーク



市長との懇談



スタッフ記念撮影




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