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2009年度研究会報告

第2回(2009.6.27)

テーマ アジアの国際労働力移動 ―東南アジアの状況を中心に―
報告者 石井 由香(立命館アジア太平洋大学・アジア太平洋大学学部・教授)
報告の要旨

構 成:
はじめに
1.国際労働力移動の全体状況とアジアの国際労働力移動
2.東南アジアにおける国際労働力移動の特徴
3.東南アジアの国際労働力移動と受入れ国-シンガポールの事例-
4.地域レベルの新たな動向―ASEANと国際労働力移動―
5.東南アジアにおける国際労働力移動と観光
おわりに

要 旨:
本報告ではまず、近年の国際労働力移動の世界全体の傾向、とりわけ東南アジア世界に見られる特徴についての概観がなされ、次のような諸点を明らかにした。

①東南アジア各国の経済発展の格差が、労働力の受入れ国と送出し国との混在化を生じさせていること、②一口に労働力移動といえども、専門職従事者、契約労働者、非合法労働者、難民など属性を異にする多様な移動形態がみられること、③移動の女性化(フィリピンやインドネシアからの移動者の6割以上が女性)、④移動の政治化(外国人労働者の人権問題、労働者の処遇をめぐる送出し国と受入れ国との外交問題化)、⑤ASEAN共同体形成(リージョナリズム)の動きのなかで、ASEANでも移民、国際労働力移動に関する問題への検討が行われていること。

東南アジアにおいて最も早い時期(1960年代)から国際労働力の受入れ国としての役割を果たしてきたシンガポールでは、自国の発展に必要な専門職従事者・熟練労働者や留学生の優遇受入れを推進する一方で、非熟練労働者に対しては管理抑制的な受入れ政策を堅持しているが、永住権を持たない外国人比率だけでも総人口の約22%(2007年)、永住権を持つ外国人を含めると25%を下らない状況にある。外国人労働者の社会的な「可視化」も起こっており、たとえば、オーチャードロードやブギスなどの繁華街のショッピングコンプレックス内にミャンマー、タイ、フィリピンからの労働者を顧客とする店舗街が出現するに至っている。

ASEANでも、近年専門職従事者や熟練労働者の自由な移動、観光の推進、女性・児童の人身売買に対する規制など、域内における人の移動に関して宣言や協定が出されているが、こうした宣言、協定の実施にあたっては、受入れ国の人権に対する意識・制度をめぐる内政事情、域内国家間の温度差あるいは隔差(ASEANデバイド)をどのように克服するかが、今後の課題となってこよう。

国際労働力移動と観光とのかかわりについて言及するならば、ASEAN各国のツーリズムが進展するに伴い、ツーリストのニーズに即したサービスを提供する専門職従事者、労働者のツーリスト受入れ国のツーリズム産業への参入の契機が増大する可能性、また、ツーリズム産業における研修、情報交換等を目的としたツーリズム関連産業従事者の移動などが注目される。今後、こうした視点からの国際労働力移動に関する研究が増えてくるものと予察される。

藤巻 正己

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