立命館大学人文科学研究所は、グローバリズムが、政治や経済、文化や社会の諸領域に生み出している諸問題を理論的に解明し続けています。

立命館大学人文科学研究所

人文科学研究所について

トップ > プロジェクト研究2009年度 > グローバル化とアジアの観光 > 公開国際ワークショップ

2009年度研究会報告

公開国際ワークショップ (2009.11.7)

アジアにおけるツーリズム空間の生産と
地元民-外国人労働者-外国人ツーリストが織り成すインターフェース
Production of Tourism Space and Interface among Local Residents,
Foreign Tourists and Foreign Workers: Comparative Studies on Asian Countries

【報告1】
テーマ 「大分県別府を訪れる外国人ツーリストの動向」
The Trends of Foreign Tourists to Beppu, Oita Prefecture, Japan
報告者 ハン・ジホ/四本幸夫(立命館アジア太平洋大学)
Hang Jiho and Yotsumoto Yukio (Ritsumeikan Asia-Pacific Univ.)
報告の要旨

まず、外国人ツーリストの日本観光における、次いで日本国内では温泉地として知られてきた別府における近年の動向が報告された。別府が外国人ツーリストからどのように評価されているのかについては、2000年より別府外国人旅行者受入協議会と立命館アジア太平洋大学とによる外国人観光客の月別統計を継続的におこなってきた。過去9年間のデータによれば、世界的な経済危機や新型インフルエンザの影響などにより、別府の集客数が全体として減少傾向を示しているなかで、外国人ツーリストの数は全体として増加傾向を示してきた。とくに韓国・台湾などアジアからの入込客数が多いが、近年ではアメリカ・ドイツなど欧米人の旅行者も漸増傾向にある(日本在住者も含まれているものと考えられる)。

かつて、別府の観光入込客数の減少を打開するために、韓国や台湾などからの集客をめざしてきたが、実態としては一部のホテルや旅館を除けば全体として、言葉の障壁、生活習慣の違いなどの理由から、外国人観光客の受入れに対して消極的であることが確認された。また、韓国・台湾からの観光客への対応のために、当該地域の労働者を受入れるという傾向は必ずしも明確ではない。立命館アジア太平洋大学の留学生がホテルや旅館でアルバイトをするなど、別府のツーリズム産業に多少なりともかかわっていることは推測される。

藤巻 正己

【報告2】
テーマ 「地方の観光産業への地元資本と社会資本:タイ南部サムイ島の漁村を事例として」
Social Capital in Community Participation For Local Tourism Development:A Case Study of Fisherman Village, Samui Island, Southern of Thailand
報告者 ガンナパ・ポンポーンラット(マヒドン大学)
Kannapa Pongponrat (Mahidol Univ.)
報告の要旨

サムイ島はかつて漁村が点在する島であったが、今日、タイの有名なビーチ・リゾートのひとつとなった。観光はローカル住民の生活と経済に大きな影響を及ぼすものであるが、同島では、観光の負の側面を少しでも減らし、ローカル住民の立場から持続可能な観光開発を推し進めるため、住民参加型の観光開発が行われてきた。

本報告では、ローカルな観光開発に参加している人々に対するアンケート調査やインタビュー、参与観察から得られたデータをもとに、住民参加型アプローチによる観光開発のあり方について、以下のような諸点が明らかとなった。①同島で実践されてきた住民参加型アプローチは、もともとそこに住んでいた漁民など(natives)と、外から来てそこに住むようになった人(non-natives)の双方によって、運営・管理されている。②ツーリズムの受入れ、またツーリズムへの住民参加をめぐる地元住民の考え方の多様性を越えて、結果的に住民参加型観光開発スキームが受け入れられていく革新的な態様とプロセスが明らかにされた。その過程において、③ローカルの指導者と観光産業側との協調関係が、この方式の成功にとって主要な要素であることが析出された。また、④ローカル住民を観光開発へ参加させる要因として、ローカル住民自身の社会資本(social capital)が大きな役割を担っていることがわかった。

藤巻 正己

【報告3】
テーマ 「インド・ヒマラヤにおけるホームステイ:コミュニティ・ベース・ツーリズム」
Homestays in the Indian Himalaya: Community-Based Tourism
報告者 デービット・ピーティ(立命館大学)
David Peaty(Ritsumeikan Univ.)
報告の要旨

インド・ヒマラヤ地域は長年、登山、トレッキング、文化観光の地として広く知られ、ツーリズムが貧困地域にとって重要な所得源となっている。しかし、貧困状況がきわめて深刻な辺境の地域にはその効果は浸透していない。こうした状況を打開するために、近年、コミュニティ・ベースのホームスティ・プロジェクトが取り入れられようとしている。本報告では、環境保護と貧困の軽減を目的としたインド・ヒマラヤ地域のLadakh、Sipiti、Sikkimにおける取組み・実践例について紹介と検討を行う。

いずれのホームスティ・プロジェクトも主に外国人観光客を対象としたコミュニティ・ベース・ツーリズム(Community-Based Tourism: CBT)として位置づけられるが、プロジェクトのデザインやアプローチの仕方、達成度、影響力には様々な違いがみられる。しかし、3つの実践例において幾つかの点で共通点があることが指摘できる。①いずれも当該コミュニティに対して金銭的あるいは非金銭的な利益をもたらしている。②環境への負担が少ないツーリズムである。③ローカルの文化の保持に貢献している。

しかし、3つのプロジェクトにはいずれも共通した目標があるにもかかわらず、つながりがうすい。これらのプロジェクトの連携・協同が進められれば、大きな効果が期待できよう。たとえば、以下のような取り組みを提案したい。①海外のエージェントを通じたマーケットの共有化、②ヒマラヤ・ホームスティのタイトルをかかげたホームページの立ち上げと各ホームスティ・プロジェクトの魅力の紹介、③それぞれのローカルのコストを調整しながらも料金設定の統一や支払い方法の共有化、④(ホストやガイドと外国人ツーリストとの間の言葉の障壁軽減のための)英語などの外国語表記の案内やパンフレットの作成、などである。

藤巻 正己

【報告4】
テーマ 「マレーシアにおけるホームステイプログラムとコミュニティの発展」
Homestay Program and Community Development in Malaysia
報告者 ヤハヤ・イブラヒム:トレンガヌ(マレーシア大学)
Yahaya Ibrahim (Universiti Malaysia Terengganu)
報告の要旨

観光立国をめざすマレーシアにおいて、ツーリズム産業は製造業に次いで二番目に経済的貢献を果たしている部門である。2008年のマレーシアへの外国人観光客入込客数は2205万人を数え、49億6000万マレーシア・リンギ(13億4000米ドル)の歳入を獲得することに寄与した。マレーシアにおけるツーリズムはきわめて多様化の一途をたどっているが、近年、政府が力を入れているのが、農村部におけるコミュニティ・ベースのホームスティ・プログラムである。2009年6月までに全国で140ヶ所、3264名もの参加をみており、日本・韓国・欧米諸国からの観光客の受入れが行われてきた。

本報告では、ホームステイ・プログラムの展開や考え方、プログラムの成長、プラニングおよびプログラムの実施にかかわる制度的枠組み、さらにホームステイ・プログラムがマレーシアにおける農村コミュニティの発展にどのように貢献しているかについて紹介と検討を行う。

マレーシアにおけるホームステイ・プログラムの特長は、ホストファミリーとともに滞在し、直接的間接的に、ホストファミリーの日常生活を経験するという考え方にある。ローカルの人々にとって、ホームステイ・プログラムは収入や雇用をふやす可能性を秘めており、あるいは地元の経済的・社会文化的魅力を外部に伝えることができるとともに、異なった文化的背景をもつ人々との出会いによって益するところが大きいとの理由から、年々、ホームステイ・プログラムへの参画者(村)が急増しつつある。他方、ホームステイ・プログラムという特殊なタイプのツーリズムに対する需要の増大は、近年におけるグローバルな社会的文化的変化、そうした変化がもたらす文化遺産・ライフスタイル・環境への関心の高まりによるものと理解できる。

ホームステイ・プログラムの実現においては、農村コミュニティの発展を促進する機関として政府の果たす役割が大きい。「第9次マレーシア・プラン(2006~2001年)」には、ホームステイ・プログラムがもつ潜在力の顕在化をめざして「農村観光マスタープラン2001」(the Rural Tourism Master Plan 2001)が盛り込まれ、巨額の予算が計上された。このことは、マレーシア政府が、農村観光がコミュニティ開発を進めるきわめて有用な手段として認識していることをよく表していると言えよう。

藤巻 正己

所在地・お問い合わせ

〒603-8577
京都市北区等持院北町56-1
TEL 075-465-8225(直通)
MAIL jinbun@st.ritsumei.ac.jp

お問い合わせ

Copyright © Ritsumeikan univ. All rights reserved.