WHY?
#11

なぜ大学の食堂や購買は
大学生協が
運営しているのでしょうか?

QUESTION

みなさんは「大学生活協同組合(大学生協)」を知っていますか?大学生協とは、大学および高等専門学校の構成員である学生・教職員のメンバーシップに基づいて運営される組織です。立命館大学では、大学生協が大学構内の食堂や購買・書籍販売・旅行サービスの手配、住まいの斡旋、共済事業等を担い学生・教職員の生活を支えています。この大学生協、街のスーパーマーケットやレストランとは少し仕組みが異なります。学生は大学生協を利用するにあたって、出資をし、生協のメンバー(組合員)になることが求められます。そして、組合員となった学生は店頭で単に商品を購入するだけではなく、一人一票の権利をもち、大学生協の組織運営に対して議決権を行使することができます。大学生協は、全国約200余りの大学で展開されており、組合員総数は約155万人に上ります(2020年現在)1。スーパーマーケットやコンビニがあふれる現代、なぜ大学に大学生協が必要とされるのでしょうか?

HINTS この問いを考える上で、先ずは、協同組合の成り立ちと
大学との結びつきについて学んでいきましょう。
その上で、大学生協のもつ特徴は、大学生の生活に
どのようなメリットをもたらすのかを考えてみましょう。

大学生協は消費生活協同組合法に基づいて運営される協同組合の一種です。近代的な協同組合は、19世紀のイギリスで誕生しました。当時のイギリスでは産業革命により生産力が飛躍的に発展していました。しかし、経済成長の立役者でもある労働者は、低賃金・長時間労働を強いられ、生活は困窮していました。さらに、生活する上でギリギリの給料を元手に食料を購入する時でさえも、労働者は苦難に直面しました。当時、労働者が手に入れられる食料は、砂糖に米粉などのより安価な材料が混ぜられていたり、有害物が混入していたりする低質粗悪なものばかりで、そのようなものであっても空腹を満たすためには高値で購入せざるをえませんでした。こうした窮状に耐えかねて、1844年にイギリスの綿工業都市ランカシャー州のロッチデールという町で、28名の労働者が1人1ポンドを出資して、自分たちのお店を開設します。初めて店頭に並んだのは小麦粉・バター・砂糖・オートミールのわずか4品でしたが2、安心・安全な食料を適正な価格で購入できる場ができたのは、直接労働者の健康や生活の向上に結び付きました。つまり、協同組合とは、より多くの「もうけ」(利潤の獲得)を追求する事業体ではなく、構成員の生活の向上を目的とした事業体だといえます。その後、イギリス国内、ヨーロッパへと協同組合設立の動きが広まります。

日本でも明治期に協同組合を学び感化された教員と学生たちの手によって、京都で初めて大学生協が設立されました3。そして、今日に至るまで、全国各地の大学で大学生協がつくられ、食堂や書籍販売などで学生の勉学と健康を支える欠かせない存在となっています。

一方で、みなさんが地域の中で日常的に利用する店舗の事業形態の一つとしては、株式会社が挙げられます。株式会社と協同組合の違いの一つは、その利潤をどのように分配するかにあります。株式会社の場合は、出資した株主に対して、出資額に応じて利潤が分配されます。この時、株主と利用者は必ずしも一致しません。他方、協同組合では、原則事業の利用高に応じてや活動への支援を通して分配を行います。したがって大学生協の場合は、得られた利潤を利用者である組合員一人一人に店舗や食堂の利用・教育を通じて還元することができるのです。

大学生協のもう一つ大事な機能は、学生同士が学びを深め合うコミュニティを形成できることです。大学生協では、学生の中から学生委員が選ばれ、生協の仕組みを学び合いながら、大学生協の事業活動に学生の声を反映させる役割を果たしています。つまり、大学生協において学生は単なる「利用者」ではなく、「事業運営の主体」であり、大学生協は組織の一員として事業や運営にコミットできる生きた社会実践の場でもあります。環境に配慮した商品を取り入れたい、バランスの取れた食生活を送りたいといった組合員一人一人の願いを反映させた事業を構成員みんなで作り上げることができるのです。

このように、私たちの身の周りには様々な組織がそれぞれの目的・原理で事業を展開しています。私たちのくらしを支えるしくみを知り、なぜそのしくみが選択されているのか自分なりの視点から考察してみましょう。

KEYWORD経済学的キーワード

この分析は、経済学の #協同組合論 #生活経済学 #マーケティング などの考え方で組み立てられており、そのエッセンスは「地域マネジメントユニット」と「労働社会保障ユニット」の「地域福祉論」「生活経済論」といった科目で学ぶことができます。

「地域マネジメントユニット」の科目では、市場経済では解決が難しい地域・コミュニティの課題について深く知るとともに、国土形成計画から地域振興まで、総合的視点に立った課題の解決方法を学びます。

「労働・社会保障ユニット」の科目では、人口減少と少子化・高齢化が日本社会にもたらす影響を踏まえながら、労働政策や医療政策、介護政策、年金政策などの社会政策に関わる諸課題を分析し、その解決手法について考察します。

このホームページでは、諸説ある中でひとつの考え方を紹介しています。みなさんはどのように考えますか?この問いの「答え」に納得がいかなかった方は、別の角度からも考えてみて、新たな「答え」を見出してみてください。

  1. 全国大学生活協同組合連合会「全国大学生協連の概要」参照日:2021年6月3日。
  2. ジョージ・ヤコブ・ホリヨーク著、財団法人協同組合経営研究所訳(1968)『ロッチデールの先駆者たち』財団法人協同組合経営研究所。
  3. 日本で最初の大学生協とされる「学生消費組合」を設立したのは同志社英学校で、現在の同志社大学。
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