研究科でできること

人間科学研究科長

矢藤 優子

Yato Yuko

人間科学研究科の特⻑

人と社会を統合的に研究する

人間科学研究科は、心理学をコアにその隣接領域で培われてきた科学的知識をふまえた包括的な人間理解をもとに、理論と実践を相互還流させる高度な技能と対応力を身につけることで、人々のニーズや社会的要請を適切に捉え、学術と社会の発展に貢献することができる人材を育成することをめざします。2022年度より前期課程は新たなカリキュラムのもと新領域を構築します。心と行動を科学的に探究する「心理学領域」、実践を通して心理的課題解決への糸口を探る「臨床心理学領域」、社会の多様な課題に向けて協働する「実践人間科学領域」の3つの領域を交差しながら、従来の心理学の枠組みを超えた学びや研究に取り組みます。心理学を総合的に研究する場としては、院生数と教員数のいずれにおいても日本随一の規模であり、実験実習設備などもトップレベルの質と量を備えています。サイエンスとしての心理学を究める研究者の育成と、心理社会的支援の専門的方法を習得し、社会の諸課題解決に取り組む公認心理師や臨床心理士などの心理専門職の養成を視野に入れています。

社会とのつながりや役割

研究成果を多様な社会的課題の解決に活用する

現実社会で起きている様々な課題解決へ取り組むため、学際的融合を通して心理学研究を社会に還元することを目指します。前期課程と後期課程の一貫した教育・研究を行います。心理学領域と、臨床心理学領域や実践人間科学領域を交差させることで生まれる多様な研究成果を、実践に応用していく。そのために院生が自らの関心領域を中心に置きながらも、周辺領域へと学びや研究を発展させ、現実の問題解決に取り組めるようにカリキュラムを設定しています。
最近、報道が続いている、強い怒りの衝動をコントロールできず、見知らぬ他者を傷つけるといった事件を例にすれば、研究科で怒りをマネジメントする感情抑制やそれが与える影響からのアプローチだけでなく、その背景に潜む自己評価の変動や注意の偏り、うつ気分の潜在などに注目する専門的観点を養う必要があります。さらに、当事者が自らの体験を自分の言葉で語る場を設け、ライフストーリーを聞き取る活動が、公共空間を作り出し、社会的孤立を予防します。このような実践人間科学での取り組みも、現代社会の課題解決に寄与します。このように本研究科では、基礎心理学の研究成果を統合しながら理解を深めることで、心理学とその隣接領域を横断し包括的に問題を掘り下げ、解決策を見いだせる人材を育成します。

3つの領域について
⼼理学領域の特⻑

サイエンスの最前線で心理に挑む

心の科学的な解明をめざすのが、心理学領域の特長です。重視されるのは、サイエンスの最前線を突き詰める姿勢であり、そのための設備も充実しています。行動学は心理学の基盤です。鳩を使った動物実験をもとに基礎研究に取り組む研究室があります。あるいは知能工学に挑む研究室では、人とロボットのインターフェイスを探る知能研究に挑戦しています。法と心理学の共同研究分野の開発、錯視や意思決定の心理学の第一人者が在籍し、認知活動の基礎的な解明をめざす認知科学研究センターや、新たな研究方法を産業領域と共同で進めるものづくり質的研究センターをOIC総合研究機構内に置き、心理学に関して日本で最も幅広く多様な領域の研究者が揃っています。

臨床⼼理学領域の特⻑

地域に密着して実践に取り組む

臨床心理学領域の特長は、実践と研究を常に行き来しながら学びを深めるスタイルにあります。実践活動として取り組む多様な地域貢献は、ボランティアベースではなく、実習科目としてカリキュラム化されています。立命館大学心理・教育相談センターは、研究科の教員スタッフと大学院生によって運営され、地域の方々の心の悩みや問題を包括的にサポートしています。多種多様な検査を含むトレーニングを数多くこなせる実習内容は、心理専門職資格取得において大きなメリットとなります。なお研究科前期課程では、臨床心理士と公認心理師の2つの資格取得に加えて、公認心理師のみ、あるいは臨床心理士のみを取得できるコースも設定しています。これは本研究科の強みでもあります。

実践人間科学領域の特⻑

PBLを主軸とするアクティブな学び

実践人間科学領域では、研究成果と社会をつなぐ活動として、次の3つの柱を設定しています。多様性社会の構築、ライフコースの形成とケア、そして社会的イノベーションです。各テーマについての学びと研究は「心理プラスCom(PBL)」という科目を中心に、複数の教員や若手研究者とともに、実践現場で得られた問題意識を掘り下げ、その知を磨き上げるプロジェクトベースドラーニングを基本とします。人の個性を形作る多様性を前提に、生きやすい社会づくりを作っていくための道筋を共に探ります。人生のターニングポイントで求められる適切なケアについて、既存の技法の適用ではなく生活事象の中で工夫し、支援の方法を立ち上げる力を身につけます。また、心理学の知見を活かしたマーケティングやフィールド調査などをもとに、地域コミュニティづくりに参与する活動も視野に入れます。社会的課題への多様なアプローチを探究する学びが特長です。