法科大学院

FD活動

2007年度 第2回

  • 日時 2007年7月10日(火) 16時50分~18時50分
  • 場所 205号教室
  • 出席者 18名
テーマ 実務家教員からみた成績評価基準と方法
報告者 ①裁判官からみる
 葛井久雄・野田恵司
②弁護士からみる
 岡本正治

 当日は、18名の参加により活発に議論された。以下、報告要旨と議論の概要である。

1.裁判からの資質から見た評価基準

葛井久雄教授
 裁判官の仕事は、①膨大な記録から当事者の主張を理解し、争点を整理し、主張の遺漏をなくす作業、②法律問題について、類似する判例を検索し、判例の立場を離れずに合理的な解釈を確立する作業、③法律以外の分野に関して、鑑定書や専門書を読んで理解し、当該事件に関して判断基準を策定し、起案する作業の3つであり、a忍耐力、b意欲(義務感)、c合理的思考が不可欠である。法科大学院の教育においても、こうした資質を養成すべきであり、司法試験合格後の志望達成を意識させる必要がある。

2.実務家(裁判官)からみた成績評価基準・方法について

野田恵司教授
 実務家に必要な能力とは、①最低限の基礎知識(基本法令についての体系、条文、基本概念、典型論点についての判例、学説の理解、説明)、②法的思考能力(未知の問題について、①を用い、規範を定立する能力)、③事案解決能力(法的問題点の抽出、可能な解決方法の列挙、優劣・利害得失を検討して取捨選択)、④交渉能力・説得能力(言語と文章)であり、学年別に学生の習熟度に合わせてこれらの能力を養成する必要がある。
 低学年(L1、L2、S1)では、①の習得は予習に委ね、ポイントのみ授業で確認し、②の養成を主眼に置く(考える際の着眼点、思考順序、利益衡量の際の視点、要素を意識して一定化)。高学年では①の定着化、②の強化、③④(論述能力)に主眼を置く。どの学年のどのカリキュラムで何をどのように扱うのかを共通認識化した上で、自己の担当科目の位置づけと到達目標を客観化することが必要である。
 達成度と成績評価については、実務家も交えて各科目の到達目標、カリキュラム全体としての達成度を具体的に策定し、全教員が達成度と成績評価について共通認識を持っていることが必要である。その上で、各科目ごとに何をどこまでやるかをできる限り具体化すること。

3.実務家(弁護士)教員からみた成績評価基準と方法

岡本正治教授
 法科大学院の教育レベルは、司法研修所前期修習に替わるべきものという位置づけだが、ますは新司法試験に合格する能力を養成すること。そのためには答案を書く能力(起案能力)を育成すべき。即日起案、再提出で鍛える。厳しく採点し、日常点を加えて合格させる。多人数を満遍なく質疑応答するよりも、発言者を募って、集中的に質疑応答すべき。 答案を採点する際の基準は、①結論、法律上の問題点が簡潔に指摘、記載されているか、②定義、要件と効果、具体例、概念を正確に使っているか、③判例・通説を正確に理解、表現しているか、④規範と事実のあてはめが丁寧か、⑤文章表現と法的センス、である。限られた時間内に正確明瞭に書き上げること。

【議論】

実務家教員からは、法科大学院の目標は司法試験合格であり、授業で研究的内容にすることは少し控え、学生のニーズに応えるようにすべきこと、まず判例・通説を中心にふつうの内容を学習すべきこと、実務には共通語があり、事実を整理し、誰でも知っている概念を使って思考し、理由づけができるようにすべきことなどの指摘があった。これに対して、研究者教員からは、判例の批判的検討によって、思考が豊になること、分野によっては、例えば刑事訴訟法の場合、判例(法廷意見)は結論だけで思考の過程を示さないものが多く、その学習だけでは思考能力を養成できないとの指摘があった。当日の共通理解としては、野田報告で示された学年に対応した客観的な到達目標の設定が必要であり、各教員がこれを自覚すべきこと、学生に現在自分がどの段階にいるのかを認識させ、その段階に応じた学習に集中させるようにすること(インプットの時期、アウトプットの時期の区別)、小テスト、質疑応答などフィードバックを通じて、基礎は何かをわからせるようにすること、成績評価として、演習系科目では、試験に日常評価を加え、クラス間の相対的な調整をするが、どういう風に総合評価をしていくか、詰める必要があることなどである。

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