法科大学院

FD活動

2007年度 第4回

  • 日時 2008年2月12日(火)17:30~19:30
  • 場所 中川会館
  • 出席者 15名
テーマ グレード制の効果と課題
報告者 ①公法実務総合演習 北村教授
②刑事法実務総合演習 森下教授
③民事法実務総合演習 葛井教授
④刑事訴訟法演習 渕野教授
⑤学生アンケートの分析 二宮教授

1.フォーラムの趣旨

 法科大学院では、S2・L3生の前期科目「実務総合演習(公法、刑事法、民事法)」およびS1・L2生の後期科目「刑事訴訟法演習」で、関連科目の単位取得の状況によって受講に当たりクラス分けをする、いわゆる「グレード制」を採用した。アドバンストクラスとベーシッククラスとで、履修実態や成績に相違が出たのかどうか、それぞれのクラスの到達目標を達成できたのか、教員側の認識と、受講生のアンケート・成績状況を踏まえて、その効果と、今後継続していく場合の課題を検討した。

2.報告要旨

 1)公法実務総合演習(報告・北村教授)

 クラス分けの前提となる科目が、憲法演習と行政法Ⅰ・Ⅱの3科目6単位であり、ほとんどB評価であるため差がつきにくい中でのクラス分けなので、グレード制といっても、学生の学力に顕著な差があるわけではない。また授業方法や教材は共通で、大きな違いはない。にもかかわらず、成績は、アドバンスト31・32クラスのB評価はベーシック33・34・35クラスの2倍、C評価は2分の1で、Bは左肩上がり、Cは右肩上がりとなった。少しでも前提科目の成績評価の良い方がより学力が伸びたということであり、「ピグマリオン効果」(期待するとがんばって伸びる)の現れといえるかもしれない。優秀層はより学力を高める一方、そうでない層は、期待されていないと思いこむことによって、学習成果をあげることが困難になるおそれを抱えている。

 2)刑事法実務総合演習(報告・森下教授)

 グレードについて、アドバンスト31、刑訴対策32、刑法対策33、ベーシック34・35の編成をとったが、授業時間割等の関係で、31・32以外は、グレード混在となった。成績は、S評価が31に多いものの、31ではCが35に次いで多く、全体としてみると、成績との相関はうすい。クラス担当者が違うので、同じ授業方法で成績が違ったのかどうかの検証は現時点ではできない。授業評価アンケートでは、31が、適応度、満足度、推薦度(ぜひ薦めたい)において、他のクラスより高い。質問への応答をみると、ベーシックではついていけない層が一定存在する。授業方法や教材についても、グレード対応が必要かもしれない。

 3)民事法実務総合演習(報告・葛井教授)

 成績Aが、アドバンスト31・32に集中し、C・Fがベーシック33・34・35、特に35に多かったので、グレード制と成績は相関する。授業を担当した印象では、アドバンストは院生の理解度が平準化していて、論点について深く議論でき、クラスの雰囲気も明るいのに対して、ベーシックは、議論が活発ではなく、クラスの雰囲気がやや暗く、志気もやや低い傾向がある。授業評価も、アドバンストは好評だが、ベーシックは評価が厳しく、グレード制への批判も強い。前期F評価の25名の再履修クラスを担当したが、予習能力が十分発揮されていないことがわかった。あらかじめ予習事項を指定しておくと、即日起案の成績が飛躍的に向上したことから、グレードに応じた授業方法をとることによって、それぞれの効果をあげる可能性がある。

 4)刑事訴訟法演習(報告・渕野教授)

 刑訴法Ⅱの成績で、アドバンスト22、ミドル21・23・25、ベーシック24の3段階のクラス分けをした。授業の教材、進め方、成績評価方式は共通である。成績はクラス担当者との相関が強く(24・25はAが30%前後、Cが20%前後であるのに対して、22・23はA・Cはそれぞれ1、2名、Bが80%を超え、21はB60%、C24%)、グレード制と成績との相関関係は明らかでない。事前に問題の解答を提出し、そのメモを参考に授業を進めるので、学力差が小さいことは、説明のターゲットを絞りやすく、学生の理解度も高まる効果がある。質問と説明のバランスもとりやすい。
 

 5)学生アンケートの分析(報告・二宮教授)

 民事法実務総合演習におけるグレード制に関して、31クラス(アドバンスト)と35クラス(ベーシック)でアンケートを行った。肯定的評価としては、31では、①緊張感が持てた、②色々な人と議論できて有意義だった、③レベルの高い人と議論していると役に立つことが多い、④同じレベルの人と授業を受けることができるのがよい、35では、基本的なことを学べた、などの回答があるが、総じて否定的評価が多く、その理由は、31では、①グレード制の目的・意図が不明、②クラス分けの基準が不明(民法は得意でも商法は苦手など個性があるはず)、不公平(グレード制の基礎となる履修前提科目の成績について、教員の採点基準にばらつきがある)、③授業内容について、クラス分けをしたほどの変化はない、④下位クラスにあると、モティベーションが下がる、⑤クラスでの議論について、知識や理解の十分ある人を交えて学習することによって力がつくのではないか、助け合い、協力する空気よりも競争する雰囲気が強くなってしまうなどの回答がある。35でも、①~③、⑤は共通する。特に、③では、ベーシックは基礎的な理解を深めるための教員の説明が不可欠であり、理解不足を補うために教員による積極的な授業運営を期待する声が強い。 ⑤では、議論が簡単なところで詰まり、前に進まないことがあり、適度に力のある人を混ぜて、その人の議論を聞かせた方が勉強になるなど、相互学習を指摘する声があった。

3.討論

 グレード制の目的は何か、それは達成されているのかについて、議論された。目的は教授会文書の趣旨を展開すれば、①上位層を伸ばす、②中間層に手を入れて引き上げる、③現時点で成績のふるわない層の底上げを図る、の3点だが、②を意識するならば、上位層と混ぜて、上位層の議論を目の当たりにすることこそ必要であり、グレード制はこれに対応していないのではないか、③について、司法試験合格レベルまで引き上げるには、相当の工夫と本人の努力が必要ではないか、などの指摘があった。
 

 学習成果をあげるためには、グレード制の意義・目的を学生にていねいに説明して納得してもらうこと、クラス分けの基準の合理性を説明することが必要であり、学生が過剰に成績を気にして、自分の実力を受け入れない状況を作らないようにして、学生同士、学生・教員間の一体感を作る必要性が指摘された。
 

 L3・S2段階で学生に学力の差が出ていることは事実であり、その現状に対応した授業方法(アドバンストは質問と討議中心、ベーシックの質問は基本事項の確認などにとどめ、教員からの説明を増やす、予習事項を明示するなど)を追求する必要があるが、授業方法・教材・成績評価について大きな違いを設けることは、差別感を生み、過度の平等要求が出てくる危険性があることも指摘された。また実務総合演習では、公法、刑事法、民事法それぞれ科目の特性があり、クラス分けの基準・授業方法など統一することはできず、それぞれの分野で検討せざるをえないことも指摘された。
 

 より効果をあげるため、クラス分けの基準科目の修正(例えば、民事法実務総合演習では、民法演習と民事訴訟法演習に限定するなど)、ピグマリオン効果を高めるめの、クラスの比率の修正、クラス担当者を入れ替える、などの意見も出された。
 

 なお実務総合演習の科目目標として、理論と実務の架橋という本来のねらいから、司法試験対応に変わりつつある現状が指摘され、その是非が問われた。
 

 討議を通じて、グレード制の課題として、①到達目標の再確認、②趣旨に沿ったクラス分けの基準の設定、③目的を達成できるような授業方法の追求、④学生相互の啓発・助け合いを可能にするような議論やクラス運営の必要性が、明確になった。

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