8月26日(土)、立命館土曜講座(第3213回)を開催しました!!

8月26日(土)、立命館土曜講座(第3213回)を開催しました!!

 

吉村和真教授と田中副館長の対談

▲京都精華大学国際マンガ研究センター 吉村和真教授(左)、国際平和ミュージアム 田中聡副館長(右)による対談


 「緊張高まる国際社会の行方を探る」をテーマにした第2回目の今回は、「マンガと平和を展示する」と題して、田中聡当館副館長と吉村和真京都精華大学国際マンガ研究センター教授のお二人の講演と対談で行われました。

 田中副館長はマンガが影響力を持つメディアとなった現在、平和博物館が取り上げることが難しい素材が「戦争を取り上げたマンガ」であると課題提起。マンガはフィクションである一方で、博物館は史実にもとづいて展示を行うからです。絵と文字で表現され感情への訴求力を持つマンガが事例のイメージを固定化しかねない懸念。当時の現物でない現代マンガは取捨や装飾によって事態の複雑さや別の解釈を見え難くする特性も指摘。取り上げられる素材も多様化し、メッセージも多岐に渡ることを1930年代からの代表的作品を提示しながらこういった点を解説しました。
 人間や社会の本質を問う作品が登場し増え続けているマンガ。平和博物館は果たして戦争マンガを展示できるのか。展示するとすればどのように展示すべきか。国際平和ミュージアムの理念と方針を交えながら、戦争という事件をフィクションとして物語るマンガ作品を様々なアプローチや展示技法を用いることで、歴史資料にははっきり書かれていない「事実」を読み取ることもでき、読む人それぞれが事件について多様な解釈を生み出すきっかけにもなり得ると積極面も強調し、平和博物館では「資料としてのマンガ展示」はイラスト程度にとどまる現状に対する可能性を示しました。
 これを受けた吉村教授は、マンガ博物館のアプローチとして2015年に「マンガと戦争展」を開催したことを紹介。原爆・特攻・沖縄・満州・戦中派の声・マンガの役割という6つテーマを4象限で立体的に分類して作品を展示したこと。東京とアメリカでの巡回に繋がった反響や積極面と、限られた展示スペースの中で何を展示するか、何を削るのかという難しさの両面を解説されました。
 対談では、「マンガとマンガの展示」は表現としてもメディアとしても別物であること。作者の意図が込められたフィクションであるマンガを最初から最後まで読むことで得られるストーリーと史実との差、認知や感情の違い。マンガの一部を切り取った展示から見えてくるものは、メッセージの伝わり方から作品そのものの評価まで異なってきます。また、掲載媒体での取扱いやマンガ自体が持つ感触等特性を駆使した作者の意図の伝わり方まで違ってきます。
 戦後日本において、マンガは様々なテーマで戦争や平和を描き、発表されなかった年はありません。累計で1000作に及ぶ広がりを概括しながら対談は進み、戦争と平和展示を考える際にぶつかる課題について、「マンガ」と「ミュージアムでのマンガ展示」の双方向的な作用や効果から解決を探りました。国内では平和や戦争マンガの展示時に「中立性の保持」や取り扱わない点に対する批判が寄せられる一方で、国外からはマンガの国際的な通用性と影響力を背景に積極的な巡回期待や芸術性から「原画」展示の要望など寄せられる内外からの違いについても紹介。マンガミュージアムと平和ミュージアムの立場や外国人等来館者層の違いも踏まえながら、マンガと平和を「架橋する展示」の課題について考察し、両館は運営主体が大学で、京都にある国際性を共通にする側面から相互協力について意見交換がされ、展示を通して得られる新たなミュージアムの視点形成に関して示唆に富むものとなりました。会場のスクリーンには多くの実物マンガが映し出され、144名の聴講者は最後まで対談に聞き入っていました。

 


 


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