所長のあいさつ

足立 研幾

国際地域研究所は、1989年の設立当初から、国際関係学と地域研究の両分野において、研究活動をリードすることで、国内外の学術コミュニティーに貢献しようと努めてきました。今から見れば、それは先駆的でチャレンジングなビジョンであったと思います。というのも、国際関係学と地域研究は、それぞれ問題関心や焦点が大きく異なるからです。

国際関係学は、国家と国家の間の問題を取り扱おうとするものです。その焦点は、戦争と平和、国際経済、地球環境問題等、一国では解決することが難しい問題にあります。そうした問題に、いかに取り組むのかを考察することが、課題となってきました。
一方、地域研究は、特定の地域に住んでいる人たちの生き様や社会に焦点を当てることが多く、そこに存在する「固有性」を「発見」することに注力しがちです。それゆえ、国境を越える問題や、国家を超える普遍性や共通性といった議論には、あまり関心を示さない傾向があります。国際関係学と、地域研究は、学会内や、教育機関内では一見共存しているようでありながら、お互いの協働や交流、あるいは対話さえも実際にはあまりなかったのが実情でした。

しかし、グローバル化がますます加速する中で、この両者の対話や協働の必要性が、これまでにないほど高まっています。例えば、テロや難民といった問題は国境を越えるグローバルな問題であり、まさに国際関係学の課題です。ただし、国際的な観点から考え出されたテロや難民問題への対策が、個々の国や地域でうまく機能するとは限りません。かえって、状況を悪化させることすらあります。各地のローカルな実態を理解する地域研究の知見を踏まえて、それぞれの地域の実情に合った対策へと修正していく作業が不可欠となります。

また、特定地域の殻に閉じこもってテロ対策や難民問題への対応を行っていても、問題解決は容易ではありません。国境を越えた協調を行ったり、少なくともそうした国際的な対策を踏まえて地域レベルの対策を検討したりしなければ、効果的な対応を行うことは困難なのです。あらゆる問題がグローバルな影響を避けられないようになる中、もはや特定地域の問題も、グローバルな影響を無視することはできなくなってきました。

国際地域研究所は、国際関係学と地域研究の対話の重要性を、いち早く認識し設立されました。私は、これまでの国際地域研究所での地道な対話の積み重ねによる財産を生かしつつ、これからは国際関係学と地域研究の対話、さらには両者の協働を一層深化させていきたいと考えています。そうすることによって、21世紀の様々な難題に、いかに取り組むべきかを考察し、そしてその成果を広く社会に発信すること、それが国際地域研究所の使命だと考えています。

立命館大学国際地域研究所 所長
足立 研幾