研究・産学官連携ニュース

2011.10.06

「磁性スポンジ」の外部磁場制御に成功 <研究成果がNature Asia Materialsに掲載されました>

 立命館大学共通教育推進機構の中村尚武特別任用教授は東工大の榎敏明教授、伊藤良一特別研究員(現シンガポール大)らの研究グループ、シンガポール大学のSuresh Valiyaveettil教授らの研究グループ、他との共同研究により、「磁性スポンジ」の創製に成功しました。
この研究成果は7月6日にJ.Am.Chem.Soc.に掲載され、7月19日にイギリス化学会のChemistry World に速報され、さらに、10月3日付けでNature Asia Materialsに掲載されましたので、ご報告いたします。

■概要
 磁性を持つナノマテリアルは、外部磁場に応答してその構造を変化させることが出来るため、磁場に応答して構造が膨らんだり潰れたりしガスの吸着/脱着を制御することを可能としました。また、工業的には、磁場をスイッチとするセンサー、ドラックデリバリーシステムなど、次世代機能性ナノマテリアルとして注目されています。
このように、磁性が変化し、その後、構造が変化するといったナノマテリアルはほとんど報告例がなく、本研究は世界で初めて外部磁場を刺激として構造を異方的に変化させることが出来るスポンジ状の物質の開発に成功し、磁場をスイッチとして構造を膨らませたり潰したりすることに成功しました。
本研究はAgency for Science, Technology and Research(研究代表者:Suresh Valiyaveettil)、日本学術振興会特別研究員DC1(課題番号21・6717、研究代表者:伊藤良一)の支援を受けて実現しました。

■研究の背景
 磁気双極子相互作用は分子間相互作用に比べて圧倒的に小さく、磁気双極子相互作用が物質の構造を支配することは通常の結晶などの物質ではありえないことでした。上記のシステムの実現には、二つの新しい要素が必要でした。一つ目は分子間相互作用を上回る磁気双極子相互作用を持つ物質とスポンジ構造を保つための化学的安定性を持つ物質の開発でした。二つ目は物質間を柔軟に連結し、外部からの力に逆らわず変化できる長いばねのような分子でした。これらの特殊な物質に関する報告例はなく、適切な材料の設計・合成から始めなければなりませんでした。

■今回の研究成果
 中村尚武特別任用教授らの研究グループが独自に合成していた柔軟性のあるアルカンジチオール(炭素鎖30)と榎敏明教授らの研究グループが独自開発していた分子間相互作用を凌駕する磁気双極子相互作用を持つ磁性ナノ粒子を連結させて、構造自由度のある磁性ナノ粒子架橋構造体「磁性スポンジ」を作成し、今回、窒素ガス吸着実験、高磁場を印加しながら磁性の変化を測定し、構造変化を検討しました。得られた磁性の変化は磁場ありの場合(潰れている状態)は、磁場なしの場合(膨らんでいる状態)に比べて500%増大していることがわかり、これは強い磁気双極子相互作用によって磁性ナノ粒子同士が引き合い、構造が潰れ、実効的磁化を増大させていると結論付けられました。

■波及効果と今後の展開
 外部磁場によりスポンジが膨れた構造と潰れた構造を自由にコントロールできることを実現した本研究は、ドラックデリバリーシステムのブレイクスルーになるであろうと評価をされており、今後、磁性スポンジの概念を持つ磁性材料の開発が追随することが期待されています。今回、窒素分子中における吸着/脱着を明らかとしましたが、例えば窒素分子を抗生物質にすれば望む場所で望むときに磁場をかけることにより抗生物質が放出されることが期待され、磁性スポンジの薬用転用への展開を検討しています。

■掲載論文
Ito, Y.; Miyazaki, A.; Takai, K.; Sivamurugan, V.; Maeno, T.; Kadono, T.; Kitano, M.; Ogawa, Y.; Nakamura, N.; Hara, M.; Valiyaveettil, S.; Enoki, T. “Magnetic sponge prepared with an alkanedithiol-bridged network of nanomagnets.” J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 11470–11473.