箭内 道彦さん

クリエイティブディレクター

1998年産業社会学部 卒業

プロフィール

クリエイティブディレクター。
東京芸術大学卒業後、広告会社に入社。CMプランナーとして活躍。
2003年に退社し、「風とロック」を設立。以後、クリエイティブディレクターとして、さまざまな作品を手がけるほか、MCとしても活躍。
2010年には、福島県出身のアーティストらと共に「猪苗代湖ズ」を結成。被災地の復興支援に尽力している。

私にとって「働くこと」とは、「なりたい職業に就くより、やりたいことをすること」。例えば、「職種」だけをとってみれば、それぞれが持つ目的は異なっているかもしれない。やりたいことが「人を幸せにしたい!」人もいれば、「お金を稼ぎたい!」人もいるかもしれない。

でも、「人を笑顔にしたい!」のなら、お笑い芸人だけがその「やりたいこと」を達成できる道ではないと思うんです。美味しいラーメンをつくるラーメン職人でも、アミューズメントパークで働くことでも、その「人を笑顔にしたい!」という自分の「やりたいこと」を叶えられると思うんですよね。

だから、何をやるにしても「なぜやりたいのか」「最初に何を思ったのか」を忘れないで欲しいです。私は、その大切さを過去にあった2回の失敗を通して実感しています。

1回目は大学受験の時。どうしても芸大に入りたくて三浪したんですが、その3年間で「芸大生になる」ことが夢になってしまいました。「どんな芸大生になりたいのか」、「芸大生になって何をやりたいのか」を忘れてしまったんです。

2回目は就職の時。「人を笑顔にしたい」とか「幸せにしたい」という想いを持って広告業界に入りました。でも、そこは競争社会で、だんだん「賞をとりたい」とか「ほめられたい」とかそういったことばかり考えてしまって、最初に大切にしていた気持ち、そして、「どんなクリエイターになりたかったのか」を忘れてしまったんです。これらの経験を通して、「その先に何を求めていたのか」を忘れないことの大切さを実感しました。

今、私は楽しく仕事をしています。でも、二十代はとても苦しかった。今考えれば、苦しい経験があったからこそ、いつかみんなが羨ましいと思うような働き方をしたいと思えたし、それができる環境を絶対につくろうと思えたんだと思います。例え、競争社会の中だったとしても、利益が上がることで、また新しい商品をつくって誰かを喜ばせることができたら嬉しいとか、そうやって自分なりにその先を見抜いていく事が大切だし、そう思えたら、その場に自分がいる意味が生まれ、楽しくなると思います。

それに、「楽しい」って客観判定するものではないと思うんです。例えば、同じ出来事が起きても「苦しい」って思う人と、「楽しい」って思う人がいますよね。だから楽しいって思うのは、“楽しいこと”を見つけるのが上手か、上手ではないかの違いだけなのではないかと思います。

学生のみなさんの中には、働くことに不安を抱えている人もいると思います。私も大学生の時は迷っていました。「自分の好きなものは何だろう」とか、「自分にしかできないものってなんだろう」とか、何もわからなくて自分のダメな所も全部隠したかったです。でも、迷いとちゃんと向き合って、迷ったことをなかった事にはしませんでした。

苦しかったけど、今は、あの時自分とちゃんと向き合って良かったなって思います。でも、自分一人で向き合おうとするとすごく辛いし、こたえが出ないものだから、誰かがその迷いを見ていてくれることが必要だと思います。それは、実在の人物でも仮想の人物でも良いんです。「☆☆さんなら多分、こう言うだろうな」とか「☆☆さんが♡♡って言うから、それでいいんだ」と思うことで、自分の迷いに区切りをつけられたら、少し気持ちが楽になると思います。

在学生のみなさんへ

就職活動を目の前にしている人も、そうでない人も、目の前の苦しさや、辛さから逃げ出さずにちゃんと向き合って、見失いながらでもいいので、「自分は何をやりたかったのか」、「最初に何を思ったのか」を忘れないで欲しいです。これからすごく楽しい世界が待っていますよ!四十代最高です!

取材後記

取材前、働くことに対して「ストレス」や「責任」など、あまり良いイメージはありませんでした。それは、社会人が「疲れた」とか「学生はいいよね」などのマイナスの言葉ばかり発しているように感じていたからです。就職しても、自分の気持ちやヤル気がいつの間にか社会に押しつぶされてしまうのではないかと感じ、不安でした。
でも、取材後、意識が変わりました。「責任が伴うこと」にマイナスのイメージをもつのではなく、そこで働いている意味や、その先に何を求めているのかをしっかり持つことが重要で、そうすることでマイナスのイメージやストレスも軽減されるのではないかと思いました。今回の取材を通して、改めて今の私について考えてみました。今の生活の中でも、最初は自分がやりたくてはじめたことだったのに、面倒くさいとか嫌だと思うことがよくあります。どんなことをやるにも最初に思ったことを忘れてはいけないなと心から思いました。(岡戸 亜沙美/産業社会学部2回生)

企画・取材・文/田中 裕太郎(文学部4回生)、岡戸 亜沙美(産業社会学部2回生)、鈴木裕加(産業社会学部2回生) 企画/佐藤 陽(政策科学部2回生)、山内 快(経営学部2回生)