研究科長からのメッセージ

研究科長 林 信弘
#02 クラスター・ゼミ 人間形成・臨床教育クラスター 林 信弘

立命館大学大学院応用人間科学研究科は、21世紀の幕開けとともに開設された生まれたばかりの大学院ですが、その研究使命は人間諸科学の「連携と融合」を図り、新たな対人援助学の構築に寄与することにあります。

対人援助活動は人が人として生きるうえで不可欠の営為です。教育や心理相談、発達障害や看護、介護や福祉、あるいは家族病理や社会病理その他、あらゆる分野において不可欠の営為です。では、いったい何のために対人援助活動に入る必要があるのでしょうか。これについては、それによりはじめて人は存在していること、生きて在ることに充実感を感じるからだと応答したいと思います。いわゆる「自己中心的」では、存在の充実、生の充実は得られないのです。人が本当に生きていると言えるのは、対人援助活動に入っているときです。たしかに対人援助活動は重荷を伴います。時には耐えがたいほどの重荷を伴います。こんな重荷を伴う対人援助活動から解放されれば、どれほど楽だろうという思いにかられることもあるでしょう。ところが、いざ解放されてみると、当初はほっとするものの、そのあとに来るものは、何とも言えない虚脱感・空虚感ではないでしょうか。解放されたら、あれもしよう、これもしよう、そうしたら、どんなに楽しいだろうと思っていたのに、いざ解放されてみると、何をやっても充実感がない。いったいこれは、どういうことでしょうか。人が充実感を感じるのは結局、人のために何かをしているときです。人のために働き、人のために努力しているときです。たとえそれがどれほど重荷を伴うものであろうと、そこにしか本当の充実はないのです。ここに深い人間の逆説性があります。

本大学院の使命は、こうした対人援助活動にしっかりとした学問的バックボ-ンを与えようとするものです。従来の対人援助学は、「全体としての人間」をばらばらに分割し、心の問題は主として心理学や宗教学で、身体の問題は医学生理学で、教育の問題は教育学で、看護の問題は看護学で、福祉の問題は福祉学で、制度や組織の問題は社会学や政治学でという具合に細かく細分化されたかたちで取り扱ってきました。本来、統合学の責務を担っているはずの哲学すら文献学的な哲学史研究に閉じ込もりがちなのが現状です。これでは「全体としての人間」は見失われざるをえません。それに対して、我が大学院のめざす使命は、人間諸科学の「連携と融合」の理念のもと、統合的(インテグラル)な対人援助学を構築することにより、「全体としての人間」を取り戻そうとするものであります。

その意味で本大学院は他に類を見ない研究科であり、非常に活気に満ちた研究の場だと自負しております。高い研究意欲に燃えた皆さんがたの入学を熱望しております。もちろんそれに応えるべく、私たちスタッフも新たな対人援助学の構築に向けて、全力で皆さんがたと共に学び、共に研究していきたいと願っております。そして本大学院での研究活動が皆さんがたにとって、今後の対人援助活動において、ひいては生きることそのことにおいて、大きく深い支えになってくれることを期待してやみません。